3-9 覚悟
― 黒手会が酔狂なやり方を好む、という事は知っていた。
が、ここまでふざけた事をしてくるとは。 ―
岬は絶句しつつ、
震える男、
萩沢から絞り出した情報を整理する。
柴崎は岬が狙撃されて昏倒した後、
手錠を外してクライスラーから脱け出た。
狙撃に怯えながら農道わきの用水路に降りて
頭を隠しながら国道に向かう最中
あっさりと、強襲班に捕まる。
班は二班あり。
一つは双葉で、萩沢に柴崎の服を着せる。
発信機も外さない。
そして穢胡麻を待ち構える。
もう一つは、
柴崎本人を乗せて走り去る。
それがどこかは分からない。
― 俺の役割は、柴崎の確保だ。
そして俺は、黒手会に、からかわれている。
いいように。
子供が虫を捕まえて遊ぶように。 ―
そこで彼は、一つの間違いに気づく。
― 違う。
黒手会が、遊んでいるのは、村、だ。
つまり穢胡麻さんだ。
あの人が一番不快になることを。
黒手会はしている。
ということは。
柴崎を攫う先。
荷、の運び先は、彼女が一番嫌がる場所。
つまり ―
岬は喉をごくりと鳴らした。
そして全身から血の気が引くのを感じる。
― 最善で、最適で、最悪の手だな。 ―
岬は萩沢に尋ねる。
「黒手会の本拠地は、茅ヶ崎のどこか知っているか?」
萩沢は首を横に振る。
それに不思議はない。
実際彼は長く監禁されていた。
そういう監禁、などの危ない作業は
いつでも引き払える場所
または
初めから存在していない僻地
廃ビルや廃れた工場などが多い。
岬はこれまでの仕事の経験から、そういうことを学んだ。
それでも手がかりはある。
萩沢は黒手会の構成員の顔を見ている。
そして、顔という痕跡を残さずに社会に存在できる人間は少ない。
― 案外糸口はすぐに見つかるかもしれない。
やるべきことは山ほどある。
一つ一つを丁寧に。
無駄なく。
処理しなければならない。―
岬はするべきことを脳内で軽く整理する。
ちび助、と双葉の身分証確認。
死体の処理。
―これは用水路にでも投げ込んでおくしかない。―
横転しているジープで、、ドライブレコーダーの捜索と逆再生。
萩沢の処遇。
―黒手会の、顔、の判別に必要だ。
連れて行こう。―
茅ヶ崎への突入手段の確保。
― 俺は警官の前で二人殺している。
この警官を放置はできない。
しかも足が、このパトカーしかない。
つまり、彼には、協力を請わなければならない。
茅ヶ崎に行くには、つまりスズメバチの巣に突入するには。
偽装が必要だ。
分布する黒手会が直前まで避けたがるのも。
警察を素通りできるのも。
警察なのだから。
警官の轢死体から制服を回収、。
おそらく体格的にも
ややきつい
くらいだろう。
入らなければ、脇を割く。
一瞬のカモフラージュができればいい。―
するべきことと、その順番、優先順位が次々と
岬の脳内で組みあがっていく。
そして、最終的にすべきこと、が。
彼の頭蓋骨の裏に浮かんだ。
覚悟を決めること。
― 茅ヶ崎に向かえば、穢胡麻さんの殺しの現場を見る可能性が高い。
つまり、彼女の即殺の理に触れる。
その場合、おそらく、いや、確実に。
俺は彼女に殺されるだろう。―
岬は瞼を閉じ、深く息を吐いてから
移動に伴う作業を開始した。