3-7 発信機
デリンジャー、手のひらサイズの小型銃の先から射出された弾丸は、
怯えて背と首を丸めるスラックスの髪の先をかすめて
農道の先の暗闇に吸い込まれた。
小型銃を握る双葉の手首を
下から岬の左手首のひらが
添えるように押し上げている。
その
押し上げによるわずかな角度の違いが、銃の先を闇にそらせた。
岬はデリンジャーを見ない。
そらせることは、彼の間合いに入った時点でわかっていた。
代わりに
右肘を上に返したまま、
双葉の顔面を
わしっ
と掴む。
彼の葉巻のような太さの
人差し指
中指
薬指
小指
は
双葉の
左顎
左頬
左目元
左こめかみ
に硬く食い込み
右親指は
下あごにかけられている。
双葉は眼を見開く。
その瞳の色は
驚愕
恐怖
諦観
と次々と猫の目のように変わり
最終的に侮蔑
となって
「キモいバンダナしやがって。」
とつぶやくので
岬は、
「あんたには、分からないよ。」
と静かに言って
水道の蛇口をひねるように
右手首の先をひねり
同時に
いくつもの太い骨が砕ける感触が
手のひらの先から伝わり
そのまま手を放すと
双葉は膝から
後方に崩れ落ちる。
―終わった。
常識的な範囲で、とても強い奴らだった。
が、常識的な範囲で、良かった。―
岬は思つつ、
ぐらりと揺れる。
昏倒の影響。
脳震盪。
命のやりとりの張りつめた何かが
視界とともにほどけるが、踏みとどまる。
まだ、処理が残っている。
地べたに這いずる警官。
柴崎の指の確認。
岬は
スラックス、警察車輛のフロントの前にしゃがみこみ震えている、
の前に膝をかがめて
その長い指を確認する。
丹念に、念入りに。
それから
彼の両肩を
わしっ
とつかんで引き上げて
後ろを向かせ
襟首にはさまれた小型マイクのような発信機を確認し。
前を向かせて。
右の拳で殴る。
鼻の骨が折れる音。
鼻孔からの出血。
襟元をつかみ
体ごと顔を引き寄せ
男の体は宙にうく。
岬の白目は血走る。
歯ぎしりをこらえるような口元で、問う。
「お前は、誰、だ?」




