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 3-1 がっつり謹製ねぎ焦がしあご出し純醤油ラーメン野菜マシマシ

山鼻(やまはな)さん。」

「ん。」

「茅ヶ崎、大騒ぎですね。」

「ああ。」

「なんで俺たちこっちなんですかね。」

「そりゃ、管轄がこっちだからだろ。

 俺たちの所属は江の島第3交番で、大騒ぎしてるのは茅ヶ崎とか町田とか

 そっちの交番だし、で、何か文句でもあるのか?」

「そりゃあ、無いですけど。」


―あるとか言えるわけないでしょう。―


と、思いつつ、

三橋(みつはし)

めんや相模小出川の

がっつり謹製ねぎ焦がしあご出し純醤油ラーメン野菜マシマシ

をすすりこんだ。

この時間帯にこのレベルの味が楽しめるのはとても有難いことだけれど

そもそも

都内で発見された凶悪犯達が町田の検問を突破して

茅ヶ崎になだれ込んでいるこの夜に

めんや相模小出川のラーメンをすすれるのんきさ

三橋は罪悪感というより


やるせなさ


を感じた。


別に彼は赤塚さんの名作に出てくる

バカぼにゃららのお巡りさん

のように毎日発砲しながら

誰かを追いかけまわしたいわけでもないし

安定した就職先として

つまり公務員になりたくて志願したのが神奈川県警で

配属されたのが江の島第3交番であり

勤続3年目にして

夏の江の島の喧騒とか、

暴れまわる酔っ払いとか

入れ食い状態の飲酒運転

痴話げんかの末に仕事先になだれ込み被害届をだそうとする

脳みそがすっかすかのカップル

とか。

そういうものにも慣れてはいたけれど。

昨日の昼。

都内で凶悪犯達の目撃情報が複数上がったと聞いて


三橋は予感を覚えたはずなのである。


―これはとんでもないことが、起こっている。

 もしかしたら、江の島にも来るかもしれない。―


この時、三橋は自らの胸に久しく眠っていた、

熱い

そう

悪くすると中二病のような


熱い正義感が胸に燃え上がるのを感じた。


はずが。


犯人たちは茅ヶ崎になだれこみ

特に江の島に応援要請は来ず。

いや、

正確には

江の島第3交番にお呼びはかからず。


こうして彼は

先輩の山鼻と深夜の当直で


がっつり謹製ねぎ焦がしあご出し純醤油ラーメン野菜マシマシ


をすすっている。


―なんだかなあ―


と、思ったとき。

受話器が鳴った。

ので、

急いで口の中で咀嚼(そしゃく)している麺を飲み込もうとして

かえって胸につかえて慌てているうちに

山鼻が受話器を取った。


「はい。

 江の島第3交番です。

 はい。

 はい。

 分かりました。

 伺いますんで、住所を教えて下さい。」


山鼻は受話器を置いた。

三橋は彼を凝視しつつ、茅ヶ崎の事件が脳裏をかすめた。

彼のそんな

どぎまぎさ

を横目に

山鼻は書類棚からファイルを取り出しつつ、言う。


「三橋。」

「はい。」

「出るぞ。」

「茅ヶ崎ですか?」

「なわけないだろう。

 当て逃げだってさ。

 田んぼに突っ込んだそうだ。

 藤沢方面街道から入った第7線。

 すぐだよすぐ。」


 山鼻の言葉の調子に

 三橋は思った。


―なんだ、先輩だって、つまんない、とか思ってるじゃないか。

 当たり前だよな。

 かたや大捕り物

 かたや当て逃げでたんぼ、だもんな―


 三橋はこみあげるやるせなさと、

 ため息を無理やり飲み込みつつ、出動の準備を始めた。




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