哲学的巨人
その後、姫と巨人は岐阜の街を見て回った。
……この場合の巨人は岬である。
彼の上背は、平均的な身長の女性が見上げるそれをゆうに超える。
ただ、身長そのものは高いけれども、すらりと高いという表現はおよそ似つかわしくない。
履く靴は分厚い皮の安全靴で、その先には重い鉛が仕込まれている。靴の上の太い足首から上に続くふくらはぎ、太腿、腰に余計な肉は一切ないが、それぞれがはちきれんばかりに膨らんでいる。人体という整然さに収まっているにもかかわらず、彼の下半身は全体として無造作に積み上げられた巨岩の塔を連想させる。
腹部は握りこぶし大の石をごつごつとはめこんだかのようで、胸板は分厚い鉄の板とかわりなく、いからない、あくまで自然な肩も背もとても広い。
丸太のような首が支える頭部は意外と小さく、密度の濃い黒髪は刈り込まれており、丸顔である。
唇は厚く、先の丸みがかった鼻も大きいけれど、その体躯と比べると、穏やかな印象を与える。
それは切れ長の瞳が宿す光が、哲学的と言ってもいい程の静かである事が影響しているのかもしれない。
結論として彼の全体的な印象は、穏やかな巨人となる。
閑話休題。
その二人、姫と巨人は場末のゲームセンターを出て、真夏の灼熱の中、住宅街をつっきり岐阜は名所の一つである金華山に登ったり、市を南北に流れる長良川の河川敷を歩いたりした。
ちなみにこの長良川は源は飛騨の奥、果ては三重の海に注ぐ。
岐阜駅に併設されている43階建てのビルの最上階には展望室があり、もちろんこの長良川も鳥が眺めるように俯瞰する事ができる。
二人がこの部屋と外界を隔てる一枚ガラスの前に立ったのは、陽も西に去り漆黒の山々に囲まれて、岐阜の街全体が、暖色の明かりを灯しながら闇に沈む、そんな時間だった。