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2-15 :酔狂

岬のクライスラーは横浜―横須賀ー逗子を回って鎌倉の海岸を西に走る。

運転席のモニターには逆ルートの茅ヶ崎海岸の状況

―赤の点滅の群れが南下している―

が映し出され、

結局、東西の東が

正解

あるいは

大失態か

のどちらかだということが分かる。


―誘導されている。

 が、乗らないわけにはいかない。―


おそらく、江の島から藤沢に北上する道に

敵は控えている。


激しい攻防も予想されるが、

そこを越えなければならない。


と、岬は考えていたが

江の島に至るまでの路で、

彼の胸には、常に異質なひっかかりを感じる。

その中身が分からないまま

クライスラーは鎌倉の海岸から右折し

点滅を一つ避けるために、やや細い道に入って

北に向かった。


時。

交通情報の音声が運転席右のオーディオから響く。


「昨日…時…・分東名高速海老名口で運送トラックが横転し

 運転手の…さんが病院に運ばれましたが胸を強く打っている状態で

 搬送先の病院で死亡が確認されました。」


―死亡?

 トラックを

 転がした

 のは、第三者だった。

 転がされたのは、無関係な。

 あるいは、そう仕組まれた、一般人ということか。

 つまり、横転させる手段が、第三者にはあり

 それはー

 

 岬の意識は目の端のモニターに集中する。

 そして分かったしまった。

 穢胡麻から渡された刺繍が、星ではなく言葉であったように

 地図のルートと点滅は、点滅から外れた場所。

 大切なのは点滅ではなく、点滅から外れた地点。

 で

 絶好の何か。


 それは

 車による襲撃ではなく。

 

 …狙撃。



 ―失敗した―

 岬は泡が軽やかにはじけるような音を鼓膜に感じた。

 次いで車体全体に震動を感じた。

 

 クライスラーの後部車輪が破裂した。

 同時に対向車が路の暗闇の向こうから現れた。

 ライトは点灯していない。

 黒塗り。

 ナンバーに見覚えがあり、

 岬は

 ―芸が細かいのかつめが甘いのか、分からんな―

 

 と、やや呆れた。

 偽造プレートのナンバーは、数年前に岬が使っていたもので。

 闇市場に戻したものだった。

 あれは酷い仕事だった。

 派手にやり過ぎて、仕事にも使えなくなったナンバーだ。

 まさか、こんな夜に、再び(まなこ)にするとは。


 …という郷愁を胸で味わう余裕もなく、

 岬は覚悟を固めた。


 まずは、目の前の第三者を潰す。

 それから次を考えよう。



 …戦闘と言えるような戦闘も経ずに、岬は対向車を潰した。

 柴崎は無事であり、指も傷ついてはいない、

 岬は狙撃

 クライスラーの潰れた後輪方向に、狙撃手がいる

 に注意をしつつ、

 潰した対向車の運転席を確認する。


 …背広の男たち。

 サンドイッチのように潰れている。

 岬は暗黒の中

 男たちの死体をまさぐって

 所持品を確認する。


 情報が欲しいからだ。


 運転席がわの男の胸元で、シガレットケースが潰れて

 煙草の吸い口が小さく飛び出ていたので、

 岬は一本取り出して

 眼を見開いたまま絶命している男にくわえさせてやり

 その瞼を下してやった。


 ―煙草なんかしていたら、早死にもする。―


 隣の男の死体の胸元から、財布も確認する。

 偽造免許証。

 パターンに暗闇の中で目を凝らす。

 茅ヶ崎在住。

 本当かどうかは分からないが、茅ヶ崎が第三者の

 巣

 である可能性は高い。

 

 岬は今後を考えあぐねつつ

 男の死体の確認を進める。

 血と糞尿、すえたガソリンの臭い。

 の中で、男の手首に、黒い入れ墨が入っていることを確認。

 竜の手。

 眼玉をつかんでいる。

 岬は息を吐いた。


 ― あそこか。

  この状況では一番。当たりたくない所だ。-


 男たちの所属は、

 黒手会(こくしゅかい)

 ここ十年で頭角を表してきた。

 派手だが緻密(ちみつ)なやり方で知られる。

 しかもふざけた酔狂なやり方で。


―とにかく移動しなくてはならない。

 まず、通りがかる車に助けを求めるふりをして、制圧する。

 あるいは、黒手会なら話が早い。

 穢胡麻さんが、業を煮やす前に、何らかの処理をしなければ―


 と、思いつつ、岬は潰した対向車から出て

 クライスラーの運転席の扉を開くときに、一つの思考が脳裏をかすめる。


 黒手会が、派手で緻密なこと以外にも、有名な特徴。


 ―奴らは、人をふざけたやり方を好む。

 この場合一番ふざけているのは―


 岬は後方を振り返った。

 同時に、狙撃と反対方向。

 後方200mの小高い森の暗闇で。

 が、星が煌めいた気がした。



 …柴崎の意識が、ゆらゆらとした酩酊から戻った時。

 岬という男がドアを開けて出て行った。

 しばしの間をおいて

 再び開き

 岬が入ってくる

 と、思ったとき。


 男の巨体が、仰向けに倒れこんできた。

 白目を向いている。

 口元から赤黒い泡がふこぼれている。


 柴崎は、その時、何が起きたのか。

 これから何が起きるのか。

 全く分からなかった。










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