キラキラお姫さま
投入口に沈んだコインが10を越えて少したつと、岬達の正面にそそり立っていた明治チョコレートの黒色の塔が手前にゆっくりと揺れて、そのまま取り出し口に続く穴になだれ落ちた。
この時、岬は安堵し、隣の穢胡麻は微かに声をあげ、小さく手をたたきながら細い一重のまぶたを、常より大きく見開き、黒目がちな瞳が瞼の奥から現れる。吐息を漏らすように言う。
「すごいんですね、岬さん」
「大した事ではない」
「いえ、大したことですよ。少なくとも私には無理です」
身をかがめようとする穢胡麻を片手で制止し、岬は代わりに、その分厚い手のひらでチョコレートの束をごっそりと取り出し、一瞬の躊躇の後、首を傾げる。
「で、これはどうするんだ?」
「山分け、でしょうか?」
「俺は甘党ではない」
「では、全部こちらに頂きます。こちらに」
穢胡麻がそう言って岬を見上げ、バッグの口を開いたので、
「そうか」
といって、獲得物をまとめてほうりこむ。
「……うちの子たちに、良いお土産ができました」
穢胡麻が、ただでさえはの字の眉をさらにはの字にして、屈託なく笑ったので、岬はとても意外な印象を受ける。
― 子供がいるのか。まあ、不思議な歳ではないだろうが。しかし。まあ、そういうものか ―
「どうかされましたか?」
穢胡麻の声を聞いて我に帰る。
「ああ、何でもない。それで、次はどこに行くんだ?お姫様」
静かに問う岬の言葉を受けて、村の女は一瞬きょとんとした。
それから、学生たちがけだるく青春を燃やしている右の対戦ゲームコーナーや、小娘たちが自尊心のかさ上げをしている左のプリクラコーナーを、交互に見る。それから岬を見上げ、人差し指で自らの小さな顎をさす。
「私が、お姫様、ですか?」
「他に誰がいるんだ?」
岬は冷ややかに問い返した。
すると、穢胡麻は笑いをこらえるように口元をもにゅもにゅと歪め、
「お姫様扱い、は初めてですが。なかなか新しい感覚ですね」
と言い、しばしの沈黙の後、言葉を継ぐ。
「さすがは村の外。色々な事が、とってもキラキラしています」