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番外編:忌麟7

そういえば、私はこれを書きながら、ちょっと不安なことがある。


私たち短命種(はいさいくらー)は普通の人の2・5倍の速さで年を取る。


という説明文の不条理(ふじょうり)

馬鹿馬鹿しさ。

だって、普通ってなに?

て聞かれたら、私は苦笑をしながら黙り込むしかない。

普通の人だって、

50代で40代に見える人もいれば、40代で60代に見える人もいる

日曜夕方しんどろおむの元凶の国民的長寿あにめの波なんちゃらさんだって

見かけは定年退職おじいさまだけど実際はバリバリの会社員さんだ。

見かけですらそうなのだから、体内年齢などいわずもがな。


長々と書いて何を言いたいかというと

普通の人だって、人それぞれということ。


そして私たち短命種(はいさいくらー)は、普通種の女性のお腹からしか生まれない。

ーまあ、この場合は村人からだけど。

 あ、でもたまに外の女の人に産ませた子供をつれてきたりするー


 私のような短命種(はいさいくらー)が身ごもると、胎内の赤ちゃんが代謝サイクルの早さに

 ついていけず、身ごもったことすら気づかずすぐに流れてしまう。

 

 昔、村の賢い人たちが、ぎりぎりまでなんとか、あんなことやこんなことをして

 早産でも健康的な人生を送れそうなぎりぎりまで

 赤ちゃんをお腹にとどめてみたことがあったけれど

 その子は生まれてみると、

 朱の混じったゼリー状の膜に覆われてたのは他の赤ちゃんと同じだったのに、

 その子の姿は、まったく人の形をしてなくて

 生き物の形とは言えないぐちゃぐちゃで。

 結局、鳥が遠くに鳴くような声を一回だけだして、すぐに死んでしまった。


 というわけで、私は短命種(はいさいくらー)の女性なので

 子供を産むことはできない体だ。

 ま、不妊症の女性は普通の種にもいるし、それは取り立てて特別なことではない。

 

 ちょっと不公平だけど、短命種(はいさいくらー)の男性は同じ種の女性と違って、

 普通の女性に子供を(はら)ませることができる。

 血脈をつなぐことができる。

 

 ただし、その子が短命種であることはめったに無い。

 1パーセントでいいほうかな?

 ただし、その子のお子さんの誰かが、短命種(はいさいくらー)の因果を背負う確率は

 10パーセント。

 お孫さんだと25パーセント。

 ひ孫さんだと50パーセントを超えるみたい。

 

 これからの話は、遺伝学というか、

 ナチスドイツの白人さんたちが大好きだった優生学のお話

 というより、神様の平等と。意地悪のお話かな?


 私たち短命種(はいさいくらー)は普通の人の2・5倍の速さで成長し老化する。

 これは何度も書いてきたとおりだ。

 

 けれど神様は平等なもので、

 年を2・5倍速くとる変わりに、

 普通の種の2・5倍の身体能力が発現する。


 もっと詳しく言うと、私たちは、普通の種の遺伝的特徴を受け継いで生まれるので。

 掛け算の話になるのだけど。

 

 運動が苦手な、たぶんその分癒し系のお母さんが

 たとえば

 100mを20秒、つまり5m/秒

 で走るとして。

 そんなお母さんから生まれた短命種(はいさいくらー)

 100mを8秒、つまり12.5m/秒

 で走りぬける身体能力を持って生まれる。

 

 速いと評判の、ジャマイカの陸上選手さんだって、

 8秒の記録を持ってはいないはずだから

 運動が苦手な家系から、私たちみたいなものが出ても

 普通の種より運動の能力は抜群となる。


 これがたとえばとっても足の速い

 お母さん

 100mを12秒、約8・4m/秒

 で走れるお母さんから生まれた短命種(はいさいくらー)

 100mを4・8秒、約20・8m/秒

 で走りぬけてしまえる。


 これは時速約74kmで、狼やダチョウよりも速い。

 あ、でも野うさぎより遅いから、たいしたことはないかもしれない。

 

 神様のきまぐれ加減だけど

 短命種(はいさいくらー)をお父さんに持つ子は、

 お父さんの狼っぽい足の速さはめったに遺伝しない。

 

 けれど

 ほんの、ほおおおんの少しだけ

 それまでの家族より速くなるみたいだ。

 そしてその


 少し


 はお孫さんか、ひまごさんに発現する因果にも掛け算される。


 この、ほんの少しに目をつけたのが

 昔の賢くて偉い人たちで


 「脚の速い駆悪(かけあし)の男は、脚の速い娘と子を成すように。」


 とのしきたりを作った。


 簡単に言うと品種改良かな。

 脚の速さが何世代も引き継がれて、時おり2・5倍のほんのとちょっと(ぶん)、足されて

 短命種(はいさいくらー)の因果※1をかけなくても

 普通に野うさぎ並みの速さの家系が生まれる。


 そして、その家系に定期的に生まれてくる短命種(はいさいくらー)は、

 最高時速200kmの超高速となる。

 ここまでくると、他の動物も追いつけなくなる。

 人間ならなおさらだ。

 

 つまりこんな感じで()がれにつがれてきた血脈の

 先の先が、忌麟だった。


 けれど、神様は意地悪なもので、血が濃くなると、特に短命種を多く出す家系ほど

 生き物の形をせずに、生まれてくる子が多くなる。

 なので、定期的に血を薄める必要がある。

 ので、

 

 先生は


 もしかしたら



 そのために村に(まね)かれたのかもしれない



 けど。

 



 …赤ちゃんを産む能力のない私には、村人として、そのことを考える権利はないし


 それに先生は人の心を察するのが異常にたくみなので

 そんなことを考えてたら恥ずかしいし、

 困った顔をされたら私は傷ついてしまうので

 考えないようにしている。


 それに、何か、ものすごい奇跡で先生の赤ちゃんを産む事ができたとしても

 私はその赤ちゃんが今の私の体内年齢と同じ37・5歳になるころには、私は絶対お墓のなかだし。

 

 話がそれた。

 そんなわけで、忌麟の超高速も

 碁暴君の神業的な投げナイフ

 ーあ、忌麟相手以外でー

 

 も、村が世の中に(ひそ)かに寄生しながら※2

 育ててきた因果の結果というわけ。


 そう考えると、短命種(はいさいくらー)というのは

 先天性代謝周期異常高速症

 とかいう名前でもつけれそうな

 遺伝病の患者ってことなだけかもしれない。


 こういう事を考えると、先生はとても悲しそうな顔をするし

 私は怒られるし

 なぜか雑巾縫いの罰という名目で

 先生と一緒に雑巾を縫わなければならなくなる。

 それはそれで楽しい。

 けど、先生が悲しいのは嫌だ。


 ちなみに先生の多彩な才能の一つに


 手芸


 がある。

 私や、保育所のみんなが持ってるハンカチは

 先生が縫ってくださったものだ。

 

 私が常に肌身から離さない

 白の絹のハンカチーフには

 ディズニー映画のタイトルのような筆記体で

 右の隅に

 

 Miss. Egoma

- The Happiness bringer-


 穢胡麻

 ー幸福を運ぶものー


 と刺繍がされている。

 

 これは、先生が保育所に来てくださって

 初めての月に、私に下さったものだ。

 

 うまく言えないけれど、このハンカチは私にとって

 お守り以上のお守りになっているし


 どのような状況でも、その刺繍をみると


 私の心は先生と初めてお会いしたあの日の

 あの砂場に引き戻される。

 

 それは、先生が私にかけて下さった魔法の一つだと思う。

 4歳から12歳までの8年間

 つまり私たちの体感時間の20年間、

 先生は私たちのためにあらゆる努力をして

 ついには三編みすら動かせるようになってしまったけれど。


 それでも飽くことなく。

 ついには私たちの運命。

 

 悪


 と悪にまつわるしきたりすら、

 打ち砕こうとしてくださったけれど。


 ・・・それは結果的に失敗に終わった。




 ※短命種(はいさいくらー)の因果以外にも、村にはさまざまな因果が

  ある。

  一つ一つが呪いのようで、その呪いと引き換えに

  私たちのことを知らない世界の人たちを

  はるかに、とてつもなく超える能力、または加護を

  それぞれの因果は獲得している。

  もし、えぬえっちけーの番組みたいに、村とは何かときかれたら

  私は

  「呪いと祝福にまみれた数多(あまた)の因果の血脈が

  気の遠くなるような時をかけて複雑に絡まりあった

  集合体です。」

  と答えると思う。

  

  


  ※2密かであることを徹底しすぎて

  村がどこから始まったのか。

  つまりどこからきたのかは、村の偉い人たちですら分からない。

  けれど、足跡(あしあと)は全国各地の民話に残っているので

  興味のある人は調べてみると楽しいかも。

  男性の村人とかは悪いことをするとか妖怪とかが多いけれど

  女性の村人は、悲劇の妖精とかが多い。

  実際、村には綺麗な女の人が多いし、

  でも

  ・・・ならなぜ私はこんなぱっとしない見た目なのか?

  運命に対する恨み節は尽きない。

 




 ・・・開き直って。




  

 

 続く。




 



 

 

 

 


 






 

 


 


 


 


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