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番外編:忌麟4

砂埃(すなぼこり)が晴れて、砂場に埋まって首だけの私からも人影さん、つまり先生がちゃんと見えるようになった。

けど、私はその時の気持ちをうまく言葉にする事ができない。

なんとなく思い出したのは、ギリシャ神話に出てくる太陽の神様。

男の人でこんなきらきらしてる人がいるとは、私は想像すらすることができなかったので

私はとてもあっけに取られた。。

 ちなみに先生の黒髪は当時はそこまで不思議系ではなくて、

 ちょっと長めだけど、すっきりしてる感じが爽やかで、場違いなことこの上なかった。


 あっけに取られていたのは私だけではなくて、

 君主君とお化け人形も、何が起きて、何が進行しているのか。

 とっても分かりかねてる感じだった。

 だって、忌麟は君主の切っ先が胸をえぐる2㎜手前に来た時に、

 彼の口を蹴り抜いて粉々にする見込みだったし

 君主君は粉々にされても、忌麟の心臓を根性でえぐる気満々だったから。

 基本的に忌麟の見込みは正しいし、君主君の根性は本人が思うほどでない。

 いつも繰り返されているパターンだ。

 お笑い芸人さんの定番コントといってもいいかも知れない。

 そんなお決まりがいきなり崩されて、代わりに

とってもきらきらしてて

 神話みたいに綺麗な謎の第3者さんが、穏やかに微笑(ほほえ)んでいる。

 それはとても不思議な光景だった。

 

 初めに我に返ったのは碁暴君だ。

 さすがは腐っても絶対君主。

 「なんだよ。

  お前、離せよ馬鹿。」


 ああ。

 10歳のボキャブラリーというのは何と貧弱なことか。

 私はちょっと笑ってしまった。

 のを見逃さずに、君主君が

 きっ

 と私を(にら)んだので、私は笑いをかみ殺しつつ

 斜め右下の砂の凹凸(おうとつ)(まぶた)をふせなければならなかった。

 だって、後が怖かったから。

 

 先生は

 「ちょっと待ってね。」

 と言って、

君主君の切っ先を指先で白羽取(しらはど)りしたまま

重心を下に移動させつつ

 忌麟のつま先を砂地に誘導して、ぱっと離し

 それから

 立ち上がって姿勢を正し、君主君に向き直って

 くるっと、つまんでた方の手首を回して、碁暴君のナイフを取り上げてしまった。


 これは君主君にとって、非情な扱いで、本当に屈辱だ。

 ナイフ使いがナイフを取り上げられるなんて、あってはならない。

 碁暴君のぷらいどはずたずたになって、

 たぶん、ぽっちゃりさんな割に意外と器用な彼らしく

 先生との実力差、もう本当に圧倒的な何かに気づいて

 彼は発音の表記に迷うような叫び声をあげながら

 保育所の本棟に向かって、どすどすと駆けさってしまった。

 その姿があまりにも子豚さんぽかったので、私はまた笑ってしまった。


 困っていたのは、忌麟だ。

 立場的には君主君と変わらない。

 疾風の蹴り脚を、指先でつままれて、止められてしまった。

 これはあってはならない。

 実力差だって分かってしまう。

 けど、君主君のように素直に怖がって逃げ出すには

 彼女は誇り高すぎた。

 でも。

 私は、戸惑(とまど)っちゃってるお化け人形を見るのは初めてだったので

 おかしくなって、やっぱり小さく笑ってしまったので

 忌麟は君主君と同じく、私を

 きっ

 と見たので。

 私はもうこらえきれずに、大声で笑ってしまった。

 笑いすぎて涙が出て、そんなにおおぴらに笑ったというか

 笑うことができたのは

 私の4年間の生涯のなかでも初めてだった。


 忌麟は先生に向き直って

 「なんなのよ。

  あんた。」

  やっぱり悲しい4歳のボキャブラリー。

 

 先生は、彼女に、その長い眉をいささか、はちの字にして

 困ったように微笑(ほほえ)んで。

 「ちょっと待ってね。」

 と言って、

 私の方に(きびす)を返して

 私の周りの砂を掘り始めて

 あっというまにすりばちみたいな(とつ)が出来た。

それでも飽くとこなく

私の前で片膝(かたひざ)をついて

私の足首をおおう砂をかき分けてくれたのに

そんな事をしてもらった事がなかった私は

有難いと感じる事も分からずに

先生のつむじを見下ろしながら

ーなんか、一生懸命な人っぽいー

と思った。

のと同じ刹那(せつな)

 先生は、私の両脇に大きく温かな両手のひらをはさみこんで

 私を引き上げてくれた。

 その刹那は今の私にも、とてもメモリアルで

大切な記憶だ。

何故かというと、その刹那、

 私の小さかった体は

 いや、今もそんなに大きくないけど

 ふわっと

 重力から解放されたような感じがして

 それ以上に

 ふわっとした

 幸福感を子供らしく小さい胸※に感じたから。

 それは、やっぱり私の4年間で

 初めての感覚だった。



※私の胸は私が大人と言える肉体年齢に突入しても

私が思っていたほどには、つまり、 十分には

(ふく)らみ切らなかった。

その事実は数々の不条理(ふじょうり)

私に与えてきた運命の、

最大のいじわるの一つと言って良いと思う。


 



うー





 ・・・続く

 

 

 


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