番外編:忌麟2
私達短命種を、「はいさいくらー」と呼び始めたのは先生だ。
元々、昔から村では私達の種は
駆悪と呼ばれていた。
そんなに理不尽な呼び方ではないと思う。
私達短命種は
普通の人がその生を「歩む」のに比べると
2・5倍の「駆け足」で走っていくし。
老いて使い物にならなくなる、悪しになるのも速い。
なんせ30歳でしわしわのおばあちゃんになってしまうという種なので。
という事で私は特に違和感を覚えないこの
駆悪という呼び方を、酷く嫌ったのは先生だった。
「悪し、という言葉は僕は嫌いだ。
そもそもこの子たちは人より代謝サイクルが早いだけで
大概の凡人より遥かに優秀なんだ。」
と、村の青年団の人に先生は熱弁して
どんな偉い人と話す時も
短命種という言葉を使う事を橋げたを支える鉄骨みたいに
曲げなかったので、
いつの間にか、
短命種という言葉が定着した。
こんな事を書くと、読む人は先生は怖いもの知らずだと思うだろうけれど
残念だけどそんなことはない。
特に、私達の寿命関係。
寿命というか、寿命に至るまでのエトセトラなのかな?
私たちの実年齢が12歳、体内年齢が30歳になると
悪
と呼ばれる病が私達を襲う。
原因は分からないけれど、実年齢と体内年齢の矛盾が
細胞単位で悪さをするらしい。
実年齢12歳から13歳までの一年間。
手首に黒い斑点がいくつかできる。
それから何週間か、または何か月かすると
とても高い熱が出て、意識が
悪
に持っていかれて
狂乱状態のまま死に至る。
…とても恐ろしい。
ちなみに村には代々伝わる秘薬があって
高い熱が出てしまう前に
これをお湯に溶いて鼻から流しいれると
黒い斑点は飲んだ次の日には消えてくれる。
本当に有り難い。
有り難いものにはよくある事で、この薬には致命的な弱点がある。
量が少ないのだ。
作れる量が限られている。
原材料となる秘草の自生地が元々とても限られている。
という事で、
実年齢12歳を迎える短命種全員に、この薬を処方することは
物理的に無理がある。
たぶん、先生が美味しい料理を作るくらい無理な話だ。
そういう事情もあって、
12歳の私達には、昔からのしきたりが待ち受ける。
「その生を互いに長く望む相手と、秘薬をかけてその生と武を競わなければならない。」
現代訳をすると
「お互いにこの人には長く生きてほしーなって相手と全力で殺しあってね。秘薬をかけて。」
という感じなのだろうか。
私たちが12歳を迎えた年。
先生が面倒をみる短命種が12歳を迎えるのを初めて見る年でもあったので。
あの人はとても困惑したというか怒り狂った。
保育士になりたての頃は、ちょうどとっても幼いか、13歳以上かどっちかだったから。
知識として知ってはいても、実際にみてしまうと、まあ、うん。
先生は村の偉い人を呼んで
秘薬を出してほしい。
成分分析をしてジェネリックを速やかに生産する。
とかそんなことをめちゃくちゃ凄い勢いでまくしたてて
偉い人に
「いや、無理」
と言われて、
「化学をなめるな!」
と言って三つ編みで黒板を横に叩いて
叩かれた黒板は粉々に砕けてしまった。
…三つ編みで黒板を粉砕した人は、世界でも先生くらいではないかと思う。
さて、これで終わりにするつもりだったけれど
ちょっと疲れてしまった。
というわけで。
…続く。