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真夏の路上の雪女

 その日の岐阜は、真夏の太陽を受けて、全身の細胞が煮崩れを起こしそうな暑さだった。

 さすがは海の無い土地である。


 岬は午後を回った時間に岐阜駅の二階の改札を抜け、エスカレーター横の階段を降り、北口の向こうのロータリーを抜けて商店街に向かう。

 この商店街に由緒はあるけれども、そこまで賑わいはない。

 待ち合わせは翌日だったが、下見の必要があった。

 今回の依頼は、あの村からである。

 仮に、村を一般人に説明するとしたら、恐らく、すればするほど現実感が薄れて馬鹿馬鹿しさが増すという類いのそういう組織からのコンタクトなのだ。

 そもそも組織なのか個人なのかすら定かではない。

 重ねてそもそも、村を語った偽物かもしれない。

「その方がありがたいよな」

 そう胸の奥で呟いて、岬は小さく肩をすくめた。


 観光地にありがちなこぢんまりした歴史資料館を彷彿とさせる旅館を向かいに挟んだ交差点の手前まで、彼は歩を進める。

 車椅子の女性、佇まいからして老女とその後ろに控える女の子を見かけた。

 女の子の方は小学校にあがる手前か。

 おかっぱ頭で背が低く、信号の押しボタンに、バレリーナさながらに真っ直ぐ垂直に細く短い腕と指を伸ばすが、届かない。


 その光景に岬はどことなく和んで、彼女の背越しにボタンを押してやり、そのまま踵を返し、無言で立ち去ろうとした。

 仕事に関わる土地ではどういう類いであれ他人との接触は避けるべきである。


「優しいんですね」

 女の声に振り返る。

 岬の後方5m、湯気でもあげそうな灼熱の黒色のアスファルトの路上に、その三十路も半ばと思われる女は立っていた。



 白のワンピース。黒のショートヘアー。体つきは華奢な部類で、背も高くない。顔立ちに、人目を引くものはなく至って普通。

 一重瞼の眼は細く、目じりは端がさがっている。自然だが細い眉毛も何かに困ったようなハの字を描いている。


 岬は首を傾げた。


「あんた、いつから?」

 女は彼の真似をするように首を傾げつつ逆に問う。

「さあ、いつからでしょう?」

「……村、だろう?」

「はい。村から来ました。穢胡麻(えごま)と言います。よろしくお願いいたします」

 そう言って、穢胡麻という三十路女は柔らかく口角を上げた。

 その姿に他意は感じられなかったにも関わらず、岬は全身から、暑さという感覚が引いているのに気付く。


―……雪女か。真夏だぜ?―

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