人さらいだって、照れる。
…………
岬さんへ。
このメッセージをあなたが読んでいるということは、私はあなたに一定以上の好意を抱いているということです。
初めての村の外で、好意を抱けるような巡りあわせがある事を、私は嬉しく思うでしょう。
そして、恐れと不安を抱くでしょう。
これからお伝えする事は、私の「お使い」の采配の範疇から外れて、村からすると明らかに「拡散が好ましくない情報」だからです。
その上、このメッセージの準備の時点では、私はまだあなたにお会いしていないのであなたがどういう方かわかりませんが、もし「普通の方」なら高い確率で怖がらせてしまうことになるでしょう。
それでも私はあなたに好意を抱く以上、お伝えせずにはいられないでしょう。
ただ、上記の理由もあり、お伝えするということの良し悪しは、私に判断はつきません。
ですからこうして暗号という形を採り、あなたは気づくかもしれないし、気づかないかもしれないという、「確率というサイコロ」にメッセージを委ねようと思います。
つまり、あなたがこのメッセージを読んでいるということは、そういうことになったのでしょう。
これからお伝えする事は2つあります。
1つは……―
……そこまで読んでから、岬は天井を仰ぐ。
「好意、か。使い方を間違えている気もするが、随分とおもはゆいな」
と呟く。