思い出に託した手紙
岬はそのまま掛川行の快速に乗り名古屋で降りて中区のインターネットカフェに入りエクセルを立ち上げる。
―雪だるまとヤシの樹は南北を表している。昨夜、あのビルの展望室で彼女は飛騨高山だ。つまり北を眺めていた。+が足し引きではなく東西南北とすると、北以外の選択肢は消える。つまり、「+」は「|」となる―
++ .+ .+ + . .+ + .+ .+ . .++ +.+++.+ .
+ + .+++ .++ +.+++ .++ .+ .+ + .+ + . .++ .+ .+ ++ .+++ . .++ +. .+ +++. .++ .
++ .+++ .++ +.++.+ .+ .+ +.+ + .+ ++.+ .+ + .+ + .+ ++.+++ .+++. .
を試しに
++ .+ .+ + . .+ + .+ .+ . .++ +.+++.+ .
だけ打ち込むと
11 .1 .1 1 . .1 1 .1 .1 . .11 1.111.1 .
となる。
打ち込むと確信するが
1、.の他に隠されている文字がある。
空白だ。
刺繍には+と等間隔の空白がランダムにふられている。
が、ランダムではない。
空白、だ。
空白。
何もない。つまりゼロ、0だ。
ということは
11 .1 .1 1 . .1 1 .1 .1 . .11 1.111.1 .
は
1100.1000.10010.0.1010.1000.10010.0.1101.111.100.
つまりは1と0で表す数字、2進数だ。―
岬はマクロを組む。
0→0、01→1、10→2、11→3、100→4…
となるようにして、刺繍に基づいて1と0をひたすら打ち込んでいく。
キーボードが震え、樹林の地表を豪雨が叩くような音を立てる。
やがて打ち終わり、現れた数列の全体を眺めつつ、チェアに大きく背をあずける。
―0から25までの数字からなる数列。……アルファベットか―
彼はまばたきもせず、デスクトップに身を乗り出して、再び猛烈に入力を始める。
0→a、1→b、2→c、3→d、4→e…
彼の処理によって
++ .+ .+ + . .+ + .+ .+ . .++ +.+++.+ .
は
11 .1 .1 1 . .1 1 .1 .1 . .11 1.111.1 .
から
1100.1000.10010.0.1010.1000.10010.0.1101.111.100.
となり
12.8.18.0.10.8.18.0.13.7.4
やがて
misakisanhe
となって、最終的に
「みさきさんへ」
となった。
―やはり、これは手紙だ。穢胡麻さんから、俺に宛てた―




