epilogue
いつもどおり変わらない風景。あの頃からから変わったものはただ一つ。
自分の守るべきものを二つ失ったこと。
ポケットの中に一万円を忍び込ませ、二十五年前となんら変わりないパチンコ屋に入っていった。パチンコ屋の中の騒音の中で耳を澄ませば、中年オヤジの舌打ち、髪を金髪に染めた若い輩の店員への文句が聞こえてくる。金に飢えた亡者はどうやら、そんな事までして金が欲しいのかと考えた。根本的に考えれば俺も金が欲しいとやり始めたパチンコだが、独身で子供もいない、自営で電気屋を営んでいるのでそれなりの稼ぎがある。パチンコは一種の暇つぶしにしか過ぎなかった。
五千円の負けで家に帰った。テレビのニュ―スをかければ、政治家のスキャンダル、殺人、爆破予告など物騒なニュ―スをキャスタ―とコメンテ―タ―が伝えていた。幸い、俺の嫌いなニュ―スはなかった。
轢き逃げ、死亡事故、そのキ―ワ―ドだけは俺は嫌いだった。
ワケありの人生。そう言っても過言ではないだろう。そんな事を思ってると、飲みかけの焼酎をテ―ブルに置いたまま眠りについていた。
週末、甥や姪たちが家に遊びに来た。週末、それは俺のひとつの楽しみだった。趣味の競馬をやりながら、子供たちの笑顔が見れる。子供たちから見たら俺は伯父さんだが、自分の子供のように接していた。そして夜になれば、子供たちは座敷で元気にはしゃぎ、弟の正則の長男で高校生の知樹は別の部屋で、携帯を片手にテレビを見つめている。一方、大人たちは十人ほど集まりみんなで酒を飲み、何人で言い合いが始まり、何人かが止めて、残りは、子供たちのこれからや世間の事情を語っていた。週末の福田家は都会のサラリーマン達が集まる立ち飲み屋のように賑やかだった。
夜十時半を過ぎる頃、殆どの人が眠りにつき、コタツに座って晩酌をしていたのは福田家の長男である俺と、次男で弟の正則、三男の三郎、長女で妹の初枝、次女の陽子の五人だけになった。親族で集まることは多々あっても、こうして兄弟全員だけで集まることは滅多になかったためなんだか新鮮な気持ちになった。そして昔の思い出話やオヤジの話で盛り上がっているうちに三郎が口を開いた。
「あれから、もう、一年経つんだな。」
ふと頭に、夏の市民プールの景色が浮かんだ。
「いらっしゃあい」
威勢のいい声が聞こえた気がした。