第39話:「足だけは引っ張るなよ」とエルフの従騎士が言った。
「――――以上、17名が今年の入団者になります、閣下」と騎士が言った。
僕は膝をついて、大理石に映り込んだ自分を見ていた。
リュクスがくれたイエルという襟つきの服の上に、緑色のコートが誇らしげに乗っている。
「はいはい。うんうん。報告お疲れ」
ポリポリくちゃくちゃという不愉快な咀嚼音が、謁見の間に響きわたる。
――――領都の中央、ムーンホーク城の最上階。
従騎士試験を突破した17人の魔法使いは、このムーンホーク領の支配者であるライモン公爵の前にいた。
「あ、みんな、ちゅうもーく」と閣下は言う。
幼子の口調を大人の体に移しただけみたいな、不気味な感じがする。
顔を上げることは出来ない。
許可はされていないからだ。
「あ、いいからいいから。顔上げて、ほらほら」
17人の従騎士たちは機敏な動きで顔を上げる。僕もそれに倣った。
大理石を敷き詰めたムーンホーク城の謁見の間は、その他の調度品はそれほど派手ではない。上等な木材で作られた玉座も無駄のない作りをしている。
それに腰掛ける公爵閣下は無駄の塊だったが。
まず体積が普通の人の2倍はあるだろう。6年前に見た顎の下の肉の段々畑は健在。妖精種かな。くすんだ茶髪は短い。
まるんとした顔の中で、茶色の瞳が一対の宝石みたいに輝いていた。
腸詰め肉のような指を伸ばして、ライモン公爵は玉座の脇のテーブルから揚げた木の実をつまむ。ぽりぽり。……堕落の象徴みたいなおっさんだな。
「みんな、おれみたいなダメ人間に仕えるの、嫌でしょ?」
どよめきが――起こることはない。
閣下の周囲にいる官吏たちは慣れているのだろう。
騎士団の人間に反応することは許可されていない。
だが、僕はライモン=ディードという人の真意を探るべく、その目を見た。
――――そこで、心臓を掴まれた。
ライモン公爵とばっちり目があってしまったのだ。
「……」
だが、閣下はあっさりと僕から視線を外した。太い指がテーブルから羊皮紙を持ち上げ、それに視線が移る。入団者の一覧が記された羊皮紙だった。
「えー、じゃあ、領都の北東区出身のボンス君」
「はっ!」と僕の後ろのほうから声がした。
「君は何のために魔法を使う?」
「……かっ、閣下のために」
「はーい。ありがとう。……ミレディさんは?」
「閣下のために」
「うんうん。面白いことを言ってもいいんだよ? クィノン君は?」
「ムーンホーク領のため」
「オッケー、プロパ君は?」
「……自らのためです」
「それは今のところ1番面白いね。次、ガリウス君?」
ライモン公爵は従騎士の全員に理由を尋ねていくようだ。ほとんどが『閣下』や『ムーンホーク領』のため、と答えている。事実、ムーンホーク領都で育った彼らは心底そう思っているのだろう。
「はい、じゃあ、リュクスは?」
僕は少し緊張した。
リュクスはライモン公爵の七男にあたる。関係の難しさは誰もが知るところ、らしい。
だが、僕の心配をよそに、リュクスは飄々と応えた。
「閣下の召し上がる揚げ芋のために」
「くくくっ。お前、変わってないな。……じゃ、最後。ピータ村出身のタカハ君。首席なんだよね? おめでとう」
「ありがとうございます」
「で、どう? 君が魔法を使う目的。従騎士になった後、その詠唱はだれのためにっ!?」
僕はライモン公爵の目を見た。
本心を言えば『奴隷と呼ばれる人々のために』。
けれど……それを言うのは愚直というものだ。
「――――すべては閣下のために」
重く苦しい沈黙が降りてきた。
それが5秒も続くから、じと、とわきのあたりに冷や汗がにじんだ。公爵は僕を見続けている。小さな茶色の瞳が僕の眼の奥にあるなにかを探している。
「うん。よかった」と閣下は明るい声で言った。「みんな、俺への忠誠を誓ってくれて、公爵としてすっごく幸せ。じゃ、みんな、お仕事がんばってね」
明るい口調とは裏腹に、公爵は興味を失った様子であっさりと玉座を下りた。
僕たちは再度、頭を下げる。
ライモン公爵はずんずんと素早い足取りで、玉座の奥の部屋に消えていった。
「退出――ッ!」
僕たちの集団の後ろに控えていた若手の騎士が号令をかける。従騎士たちは規則正しい動きで身を起こして、謁見の間を出た。
そうしながら、僕は他の従騎士たちの顔や動きを盗み見て、数字をつけていく。こいつは武術がすごそうだ、とか、魔法ができそうだ、とか。
試験を突破してきただけあって優秀そうな若者が多いけれど、中には無気力な雰囲気の若者もちらほら。……僕やプロパとは全然違う。
「訓練と講義の日程は配布した羊皮紙の予定を参照しろ」
僕は観察を中断した。
「今日の午後から領都郊外での訓練の予定となっているものは急がねば間に合わないぞ。馬は厩舎で名前を言えば貸し出しを受けられる。……質問は?」
挙がらない。
「解散!」
従騎士たちが散っていく。
「おつかれ~タカハ」
リュクスがぐーの形にした右手を空に突き上げた。
「ついに始まっちゃったね、俺たちの従騎士ライフがっ……!」
リュクスのフィルターを通して見る世界は基本的にバラ色か虹色なのかもしれない。でも、根っこから明るいこういう人を僕は嫌いじゃない。
「首席をとったからといって、勝ったと思うなよ?」
目の前には不機嫌そうなプロパ。
妖精種の少年は額にくっきりと縦シワを寄せている。
「……誰にさ?」
「誰かさんに、だ。従騎士の試験の形式が体力を重視していたせいでお前は首席になれたが、魔法の実力で負けたつもりはない」
「奇遇だね、僕も魔法で負けたとは思ってないけど?」
「まあまあまあ」とリュクスが間に入った。
ふん、とプロパは鼻を鳴らして、僕の胸のあたりに視線を固定する。
「タカハ、そのイエルしか持っていないのか?」
「え……あ、うん。……これも、リュクスのおさがりで……あはは……」
リュクスにもらった襟付きの服は、たしかに着古された雰囲気がある。騎士は緑のコートの下はイエルを着ると決まっていて、僕はこの1着しか持っていないから、明日からどうしようか真剣に迷っていた。
プロパは肩をすくめた。
「オレの家に来い。そんな格好で出歩かれては、ピータ村出身者の名誉に関わるだろうが」
「…………え?」
「午後の訓練の後、声をかけるぞ」
そう言って、プロパは颯爽と緑コートを翻して去っていった。
――
領都は日が落ちてもなお明るい。基本的に太陽と同じリズムで生活していた僕は、かがり火に照らされた石畳の通りに少しだけテンションが上がる。
プロパの家もまた、入り口にはランプのようなものが点っていた。
「ほら」
「……こんなにもらっていいの?」
プロパは両手で抱えきれないほどの服をひょいと手渡してきた。
「ああ。オレも貰い物だからな。イエルが5枚、ティーガも1枚ある」
「十分すぎるよ。ありがとう」
「……」
「えっと……立派な家だね。見とれるっていうか、驚くっていうか……」
プロパの家はムーンホーク王城に近い南区にある。
南区はほぼすべての家が石造りで、3階建ての建物もある。プロパの家は2階建てだったけれど、敷地も広いし、なにより、柱や屋根に細かい装飾が施されていて、華やかだった。プロパの家、というか、プロパのおじさんの家だっけ。
「プロパのおじさんも、魔法奴隷なの?」
『瀑布の大魔法使い』ゼイエル様。
その名前は、ゲルフの口から何度か聞いたことがある。本人の言葉だから参考記録だけど、ゲルフとゼイエルさんはこの国で2トップと言えるほどに有名な魔法使いなのだとか。
「そうだ。そこらへんの貴族よりも公爵閣下や国王陛下に認められている。おじさまとゲルフさまは魔法奴隷出身でありながら王都の専任文官になったことがあるんだ。これは『魔法の国』の歴史上、たった2人しかいない」
「……ゲルフ、そんなすごいの?」
「弟子が師を敬わなくてどうするんだ……。本当に偉大な魔法使いなんだぞ?」
「プロパのおじさんもそのくらいすごい、と」
「無礼を承知で言うが、おじさまはもっとすごいぞ。なんと言ってもまだ現役で王都に居るんだからな。魔法奴隷の出身でありながら、純粋に実力だけでこの『魔法の国』の序列を駆け上がり、王都に屋敷を持っている。そして、オレはそんなおじさまにこの4年間みっちり魔法を教わった」
プロパはだんだん気分がよくなってきたらしい。皮肉っぽい口調が薄らいで、言葉数が増えてきた。
「おじさまは、これからは騎士の時代だと言っていた。『17の原則』がある以上、1人の魔法使いの魔法には限界がある。騎士は、魔法に剣技を組み合わせることで魔法使いを超えた存在だ、と」
ゲルフやゼイエルさんのように――あるいは、僕のように、多重属性使いになることで広がる可能性もあると思うけど。
……いや、冷静に考えれば、この国を実効支配しているのは騎士たちだ。だって、騎士にも認められるような大魔法使いは、この国で数人しか居ない。魔法の道を突きつめるよりも剣術を組み合わせる方が効率よく強くなれる。
プロパの意見はもっともだ。
「そして、オレはもう1つ、極めたいと思っている」
「もう1つ?」
「人を指揮し、動かし、戦う。――軍略や戦術の知識だ」
その瞬間のプロパの青い瞳は、どこまでも真っ直ぐ僕に向けられていた。
いつか『魔法では負けない』と勝負を申し込んできたあの日と同じ。
「戦場に行けば、オレたちは魔法奴隷たちを指揮して戦うことになる。オレは、その……、まだ招集には行ったことがないが、作戦の計画書や戦績の資料は読みこんでいる。実際の戦場に立ったお前なら、何が言いたいか分かるだろう?」
「……騎士たちの作戦が間抜けだってこと?」
「できる騎士とできない騎士が居る、ということだ。間違っても他のやつらの前でそんなことを言うなよ。とくにリュクスは口が軽いからな」
「うん」
「……できない騎士がいようと知ったことじゃない」
プロパは唾を吐くような仕草をした。
「でも――できない騎士のせいで命を落とすのは魔法奴隷たちだ」
僕の目が見開かれる。
「タカハ、オレは騎士団の序列を上り詰めるぞ。最速で騎士団長になって、騎士総長の地位までたどり着いてやる。『魔法の国』の戦争には全部関わって、優れた作戦を立てて、そして、1人でも多くの魔法使いを招集から生きて返す」
「……」
「それを邪魔するなら、お前は敵だ。足だけは引っ張るなよ」
皮肉屋のあの少年が、いつの間にこんなに大きな夢を抱いたのだろう。
こんなに大きくて、こんなにまっすぐな夢を。
それだけじゃない。プロパは理想を実現するための道のりを着実に進んでいる。おじである大魔法使いに師事し、その人脈も最大限に利用して、そして、宣言どおり従騎士になった。
「……でも、プロパ」
「なんだ?」
僕の声のトーンがあまりにも沈んでいたせいか、プロパは少し身構えているようだった。
でも、僕は。
その1つ前の段階で疑問を持った。
なぜ、国民は奴隷と呼ばれているのか。
なぜ、騎士が奴隷を支配するのか。
もし、プロパが軍略や戦術の知識に精通して、どんな戦いでも最大限の成果を発揮できる優秀な指揮官になったとしよう。プロパの指揮する騎士団が戦争を進めることで、魔法奴隷たちの損害が大きく減るとしよう。
でも、やっぱりそこに居る僕は納得してないはずだ。
王族や貴族や市民が、魔法奴隷の犠牲の上にあぐらをかいて座っている。
それを許すことは――――できない。
「そもそも、この身分制度が間違っている。……そうは、思わない?」
「……思っている。魔法奴隷の出身なら、だれもがそう思うはずだ」
プロパは端正な顔をかすかに歪めて、でも、と続けた。
「それを変えることは――無理だ」
「……」
「だからオレは騎士になろうと思ったんだ。お前も、そうじゃないのか?」
「……僕は身分制度の問題もあきらめない」
プロパはそれには答えず、前髪をしばらくいじってから、声のトーンから緊張を引き算した。
「タカハは、今回の従騎士試験を通った17人のうち、魔法奴隷の出身が何人いたか知っているか?」
「……いや、分からない」
「オレたちほかに2人だ。全部で4人。リュクスを入れて貴族出身が5人で、残りの8人は金持ちの市民たちの子弟。いいか、タカハ、市民出身のやつらには気をつけろ」
「……どういうこと?」
「やつらは従騎士試験の第2部で馬車を用意していた。ほら、太った従騎士が居ただろう? あいつは成り上がりの商人の家の息子だ。あんなやつがどうやってあの試験を突破できる?」
「いや、馬車って――」
僕は数日前の試験の内容を思い出す。「だって、転移座で飛ばされる先は分からないはずじゃないか。馬車を用意することなんて――――」
…………。
……。
そうか。
前提として信頼している部分を崩せば。
可能性はいくらでもある。
「騎士団の内部に、試験の情報を売った騎士がいる」
絶句するしかなかった。
市民たちには金がある。転移座で飛ばされる先が分かっていれば、馬車を用意しておくことも簡単だ。そして、歩いてきたかのような時間をかけて悠々とゴールして、晴れて従騎士試験に合格する。
……なんだよ、それ。
「身内に騎士がいれば商売で有利だし、貴族とのつながりもできる。従騎士試験はここ数年、癒着と腐敗の温床になっているんだ。……市民出身の従騎士を相手にするなよ。そして、変に反発して嫌われる必要性もない」
「忠告、ありがたく受け取っておくよ」
プロパはうんうん、とうなずいたあと、自分が語りすぎたことに気付いたのか、なぜか顔を赤くして声を荒げた。
「かっ、勘違いするな! お前の振る舞いが間抜けだと同じ村が出身のオレもまた間抜けに見えるから、こういうことを言ってあげているだけだからな!」
プロパが女の子だったらなあ……。
言ったらぶん殴られそうなことを僕は思うのだった。
――
従騎士の1年目は、騎士の養成学校的な側面が強い。
みっちりと様々なことを叩き込まれる。
その訓練は多岐にわたる。
大雑把に分類すると、2系統。
剣術と魔法のトレーニングをベースに、領内の各地で行われる『実習』。
歴史や精霊言語といった基礎からはじまり、騎士の実務的な指導まで続いていく『講義』。
そのうち、『講義』の評価はペーパーテストで行われる。
これは、前世の学校のテストとそれほど変わらない。
集まって勉強をするグループが多かった。
「…………で。なんで僕の部屋なのさ?」
地方出身の従騎士は騎士団の本部の中にある宿舎を借りることができる。石造りで、大きくて、シンプル――そういう建物をイメージしたら、従騎士の宿舎になる。そのくらい面白みのない建物だったけれど、中は十分以上の生活環境が整えられていた。
領都出身の従騎士はほとんどが実家ぐらしだ。だから、僕の同期でここに部屋を借りているのは数人。従騎士2、3年目の先輩もおおよそ同じくらいの人数がいる。
「近いし? 1人部屋だし?」と僕の向かいに座ったリュクスが笑顔で答える。
「まあ、試験前のたまり場にするなという方が無理だな。戦術的に」とプロパが相づち。
くそ、こいつら……。
男3人が入ることを考えれば、決して広い部屋ではない。そこに、分厚い羊皮紙の教科書や軽食を持ちこんだり、明らかにリュクスと怪しい雰囲気にあるお手伝いさんなんかに入ってもらったりしていたら、ぎゅうぎゅうになってしまう。
「……じゃあ、ええと、歴史にしよう歴史」
羊皮紙の教科書を開きながらリュクスが言う。
「『鉄器の国』の第2次侵攻は、ずばり、『戦争の時代』の何年!?」
「5:11年だね」「5の11だな」
声が重なった。
僕はプロパを見る。
プロパも僕を見ていた。
リュクスは僕らを見ていない。
「第2次侵攻って1番どーでもいい話じゃなかったのかよ……。こんな隅っこのことまで覚えなくちゃいけないのか……。やーばーいー。時間足りないー」
「リュクス、僕のノートを貸してあげるよ。たぶん、『教官たちならここを出題する』っていう順番にまとめてあるから」
「……いや。そんなふざけた記憶法に価値はないぞリュクス。オレのノートを使え。時代に沿って理解したほうが歴史の理解は早まる」
僕は肩をすくめた。
「そうは思わないね。現実問題として僕らには時間がないんだ。時系列順? だかなんだか知らないけど、そんな分厚いの、今から全部頭につめこめるわけないでしょ?」
「オレだって優先順位を意識してまとめてある。1周目は太字を記憶、2周目以降に細字を記憶すれば、系統的にこの大陸の歴史を理解できる」
「ありがとう。どっちも借りるー」
「どっちかにしろ!」「どっちかだよ!」
「お前ら、実際仲いいだろ……」とリュクスが苦笑して、言葉を続ける。「ほらほら、次の問題いくよ~。『戦争の時代、『鉄器の国』との――――』」
飛び出してくる固有名詞こそ違うけれど、織りなされる歴史のエピソードは僕が前世で学んだものによく似ていた。『結局あのお姫さまが欲しかったんでしょパターン』とか『内乱の飛び火で隣国壊滅パターン』とか『なんでお前が政権とってるんだよパターン』なんかは繰り返し登場する。そのたび面白がって内心でツッコミを入れていたら、いつの間にか歴史はすんなりと頭に入った。
その他の科目に関しては――正直、日本の教育とは比べものにならないレベルでしょぼい。理科と算数は自然という分野に統一されて低く見られているし、国語の授業は僕が書いた方がマシなんじゃないかと思わせる詩の朗読を繰り返す。魔法、軍略、騎士の職務に関する座学こそ異世界っぽいけれど、内容はそんなに深くない。
僕は大学受験のための勉強をした十数年前の自分を尊敬していた。
てか日本の高校生マジですごい。
『講義』ではそういう転生人ならではの反則的なリードがあった。
一方、『実習』もまた、僕には有利なポイントが多くあった。
まず第一に精霊言語を難なく操る『対訳』の力。僕は1度でも他人の詠唱を聞けば、すぐさまその意味を理解し、コピーすることができる。火属性の1属性使いで通しているけれど、その気になればほぼすべての魔法を僕は使いこなせる。
加えて、従騎士1年生では誰も行ったことのない招集の戦場に、僕は合計で5回も参戦していた。模擬戦で怯むこともない。
もう1つは、ゲルフに命じられていた大量のお手伝いの成果だ。幼いころから狩猟団員として野山を駆けまわっていた僕の身体能力は、都でのほほんと育ってきた従騎士たちと比べると圧倒的の一言。体力、器用さ、敏捷性、どの点でも、僕はぶっちぎりの1位だった。
驚くべきことに、プロパとリュクスがそれに食らいついてきた。
平均をとると僕が1番できるけれど、プロパは宣言通り軍略の座学、リュクスはもともと好きだった剣術にさらに磨きをかけていった。
2人と競い合いながら繰り返される『講義』と『実習』は秋を急がせ、冬を進め、春になっても遠慮なく続いて――――
そんなふうに、従騎士の1年目はあっという間に過ぎた。




