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第13話:「これは隠しておくべき事実じゃ」と老魔法使いは言った。




「起きよ」とゲルフはしゃがれた声で言った。


 前世の僕の体では考えられないほどに、タカハの目覚めはいい。まぶたを開けるのに1秒、周囲の状況を把握するのに2秒、体を起こすのに3秒。

 僕は動物の毛皮でできたテントの中にいる。

 入り口の向こうは、うっすらと明るみ始めた空が見えた。

 僕は全身の筋肉痛に顔をしかめる。


「朝食をとりながら、魔法を教える」

「……僕は、火を」

「……うむ」


 言葉は最低限だが、だいたいのことは分かる。

 僕は魔法を使わずに火をおこし、水が入った鍋をその火にかけた。沸いた湯の半分を使って、ゲルフがクロッカの実を煮る。栄養分がつまったクロッカは少し煮るだけでかなり食べやすくなるのだ。残った湯で僕はイーリの葉のお茶を淹れた。


 お湯に解かれてもちもちの食感になったクロッカを頬張りながら、たまにお茶を飲めば、これはこれで悪くない食事のような気がしてしまう。


「タカハ」


 僕は身構える。

 ゲルフは、いつかの魔法使いの目をしていた。


「お前は、多系統の精霊言語をすでに使いこなせるな?」

「……はい」

「何系統の発音ができる?」

「試してはいないけど……たぶん、全部使えると思う」


 ゲルフが僕の肩を掴んだ。


「これは隠しておくべき事実じゃ。2系統の発音を操ることができるようになるまでに、最低でも1系統目の習得から8年がかかるとされる」


 そうなのか。

 だから、ゲルフも、メルチータさんも、あれほど驚いていたのだ。


「お前は精霊様に愛されておるようじゃ。その寵愛ちょうあいは確実に他者の嫉妬を呼ぶ。5系統以上の発音を使いこなす者は『魔法の国』の全体を見渡しても、わしを含め数人しかおらぬ」


 僕は唾を飲みこんだ。

 事実の重みがじわりと忍び寄ってくる。


「幼きころよりすべての系統の魔法を難なく操る少年――お前のことを貴族や騎士団が知ったら、どんな手を使ってでも知識を引きずり出そうとするじゃろう。他人の前では多重属性使いであることを見せびらかすべきではない。よいな?」


 僕は納得し、うなずいた。


「よし」


 老魔法使いはお茶を一口飲むと、しばらく目を閉じてから口を開いた。


「わしは物事を理屈で考える。考えておいてから行動をして、損はない」


 このセリフには全面的に同意だった。普段の行動は真逆だろ、と内心でツッコみつつ。

 話半分で聞くことにした。


「大魔法使いを目指すならば、『魔法使いとしての強さ』とはなにかよく考えておかなければならない。そうしなければ、暗闇の中の道を歩むことになるじゃろう。……お前には知恵がある。少し問答をしよう」

「……問答?」


 質問は、意外な角度から始まった。


「タカハは、われら奴隷が騎士に逆らえないのはなぜだと思う?」

「え?」

「彼らは少人数でやってくる。じゃが、わしらは騎士に刃向かうことはしない。それはなぜか」

「……勝てないから?」

「うむ。ほとんどの魔法使いは、騎士に敗れてしまう。一般的な魔法使いがなぜ騎士に勝てないか。考えてみよ」


 騎士に共通すること。それは――――


「……武器を持っている」

「それが理由の大部分を占める。騎士の象徴、ミスリル剣が彼らの優位となる。騎士とは例外なく魔法使いであるから、魔法を唱えながら剣を振るうことができる。剣の分、同じ魔法の実力では勝負にならぬ」

「ゲルフは?」


 ふんっ、とゲルフは鼻を鳴らした。


「わしを倒せるのは騎士団長かそれ以上の使い手だけじゃ」


 自信過剰だな……。


「じゃあ、僕も武術を身につけろ、ってこと?」


 ゲルフはゆっくりと首を横に振った。


「それは安易な考え方と言えるな。剣の道を極めるには長い時間がかかる。しかも、魔法使いとは別の思考じゃ。お前は魔法使いとして強くなるつもりなのじゃろう?」

「……剣を持ってる分、騎士が強いって言ったばかりじゃないか」

「剣の分の強さを魔法使いとしての強さで乗り越えよ、ということじゃ。これには2つの方法がある。まず、魔法の性質を考えてみるといい」


 魔法の性質。


 この世界の魔法は、単位魔法ユニット修飾節モディファイの組み合わせによって生み出される。


 呪文の核となるのが単位魔法ユニットで、発動の直前にその効果を微調整するのが修飾節モディファイだ。この組み合わせ次第で、実にさまざまな自然現象を引き起こすことができる。


 そして、魔法には相性がある。


「その方向でよい」


 思わず、考えを口にしていたみたいだ。

 同時に老魔法使いの返答で僕は確信した。


「じゃあ――1つ目は分かった」

「ほう」


「相手より有利な魔法を選び続ければいい」


「正しい。すなわち、状況に最適な魔法を選ぶこと。この点、お前は優れる」


 なるほど。精霊言語をすべて使いこなせる僕は、ありとあらゆる状況に対応する力を持っている。1属性しか使えない魔法使いの何倍もの状況対応能力を持っていることになるのだ。


「では、その強みをさらに活かすためにはどうすればよいか」


 ゲルフの瞳が――一瞬だけ、暗い色をたたえた。


「騎士を相手として考えてみよ」


「騎士様を……?」

「あくまで仮想の相手じゃ。我らと同じ魔法使いでありながら、ミスリル剣を用いる剣術にも長けた優秀な戦士――それが騎士。相手にとって不足はあるまい」

「……」


 別のふくみを感じたけれど。

 ……まあ、いい。それは一旦おいておこう。


「……魔法の詠唱は、最短で2秒。それは騎士も同じ条件だよね?」

「うむ」

「でも、騎士には剣があって、それで……」

「彼らは鍛錬をしておる。魔法を唱える反逆者に対して、距離を詰める・・・・・・訓練をな」

「……じゃあ、1つしか思いつかない」


 それってつまり、絶対に騎士の方が有利ってことだ。

 僕は自分の馬鹿らしい答えにため息を混ぜた。


「死ぬ気で避けて、倒せるまで魔法を撃ちまくるしかないよ」


 ゲルフは目を丸くして、ほぅ、と息を吐いた。


「分かっているではないか」


「え?」

「当たらなければよい。1つ剣をかわせば、1つ魔法を撃ち返せる」

「……マジ?」


 ゲルフはどこまでも真顔だった。


「魔法使いの武器は時間じゃ・・・・。時間を稼ぐことで、我らは攻撃の手数を増やすことができる。口と喉を守りながら生き延びることさえできれば、魔法はいつか確実に敵を砕く。わしは、この考えで幾人もの敵国の勇者たちを仕留めてきた」


 ゲルフの瞳は抜き身のナイフのように鋭い光を湛えていて、僕はわずかに気圧される。


「魔法使いの強さとは、状況に即した詠唱を直ちに決定すること、そして、時間を稼ぎながら生存し続けること――この2つの掛け合わせに過ぎぬ」


 ――てことは、僕が鍛えるべきは後者だ。


 と、ゲルフの話を真に受けている自分に僕は驚く。


「……でも、時間を稼ぐって、どうやって?」

「俊敏な体と、いつまでも駆け回れる両足、ひるまぬ心があればよい」


 ゲルフは真っすぐに僕を見て言った。


「お前はあらゆる精霊言語を生まれながらにして操ることができた。そして、わしの命じる『手伝い』を順調にこなしてきたその体力は十分。足りぬのは戦いの経験、刃の上に乗る勇気――すなわち、怯まぬ心だけじゃ」


「――――」


 僕たちはどちらからともなく立ち上がった。

 ゲルフは背負っていた黒い杖を取り出し、淡々と言った。


「単位魔法は『風の1番エアショット』のみ、修飾節は自由」

「ぎっくり腰になっても知らないからな」


 ゲルフはにやりと口元を歪めた。


「それを言う暇に詠唱をしなかったのがお前の敗因じゃ。――“待機解除”」

「――がっ!?」


 瞬間だった。僕の身体は真横に吹き飛ばされた。人の頭大の空気の塊が、僕の小さな体を撃ち抜いたのだ。僕は地面を無様に転がる。


「詠唱なんていつの間に!?」

「さて、いつかな? お前が目覚める前かもしれぬぞ? “風―1の法―”」

「卑怯だぞ! ゲルフ!」


 僕は次々と襲い来る空気の弾丸を地面を転がりまわって避ける。だが、僕の逃げる先を潰す風の弾丸のコースは厳しい。僕はなんとか森の中に飛びこんで活路を探した。大樹のかげに隠れ――


「うわっ……!?」


 ――ても、安全ではない。『回り込む』の修飾節で軌道をねじ曲げられた弾丸が執拗に僕を追ってくる。


「“風―1の法―今―眼前に ゆえに対価は5”!」


 とっさに構築した風の弾丸を、僕は狙いを定める前に放ってしまった。それは黒いローブにかすりもしない。ゲルフは皮肉っぽい表情で肩をすくめた。


「どこを狙っておる? 脱走奴隷を追いつめた手際はどうした?」

「あのときはなんだかすごく集中してたんだよ!」

「愚か者! 答える暇があれば詠唱の1つでもせよ!」


 発動起点を『彼方に』置いて予想外の角度から奇襲したり、『待機』と解除を組み合わせてタイミングをずらしたり、『無音の』で音を消したり、『透明の』で視認できなくしたり、『巨大なる』で木の枝ごと粉砕してきたり――ありとあらゆる修飾節モディファイとそのバリエーションを活用し、ゲルフは僕を滅多打ちにした。


「……くそっ」


 全身が巨大な洗濯機の放り込まれたあとみたいに痛む。

 すでに十数発撃ち込まれた。


 魔法の理屈は完ぺきに分かっているはず。なのに、咄嗟の呪文が出ない。脱走奴隷を相手に魔法を当てることができたのは、もしかしたら偶然だったのかも……。


 僕は森の中に出来た塹壕ざんごうのような場所にうつぶせで隠れていた。倍数魔法を乱射してきたタイミングに合わせ、木の葉を大量に落として視界を奪い、そのスキに隠れたのだ。


「撃ち返さねばいつまでもお前は追われるものじゃ!」


 声の方角にぼんやりと影が見えた。ゲルフは――僕を見失っている。

 チャンスだ。


「“風―1の法―――”」


 ささやき声の詠唱は――しかし、聞きつけられた。


「そこか。――“待機解除”」


 ゲルフの背後から3つ、発動を待機させられていた風の弾丸が放たれる。確実に塹壕に潜りこんでくるコースだ。とっさに僕は魔法を撃ち返しながら飛び出した。


「…………あ」


 目の前に空気の塊があった。

 ”巨大なる”の修飾節モディファイで威力を高められた結構痛いやつだ。

 身体の真正面に膨大な風が叩きつけられて、僕は文字通り吹き飛ばされた。



――



 数日間続いた老魔法使いの修行は容赦がなく、過酷だった。


 けれど、――次第に僕は苛烈な攻撃に慣れていった。まず、ゲルフの身体の大きな部分を狙う余裕ができた。その次に修飾節モディファイを組み合わせる余裕ができて、魔法の弾丸をかわしながら詠唱をする余裕も手に入れた。


 目を開けてよく見れば、『風の1番エアショット』はそんなに速くない。中学生が思い切り投げるボールくらいのスピードだ。至近距離だとよけられないけど、遠くからの攻撃ならば見切るのは難しくない。僕とゲルフの撃ち合いはあっという間に高度になっていく。


 どれほど森の中を走っても過酷な『お手伝い』を数年間続けた僕の身体は応えてくれる。自分の利点が敏捷性にあると気付いてからは、ゲルフが僕の姿を見失うタイミングが増えてきた。


 だから、3日目の昼――ゲルフに魔法を当てることができたのは、必然だった。


 9発の単位魔法を『待機』させ、万全の地形で迎え撃った。術者である僕もゲルフと真正面で撃ちあって、それでようやくゲルフの身体に一発を当てることができた。同時にゲルフの魔法が僕を吹き飛ばしていたけれど――――


「勝ちは勝ちだ!」

「何発費やしたと思っておる? それにまだ終わっておらぬぞ。――“待機解除”」

「え!? ずるいって――ぶぁっ!」


 数日を経て、最初は10倍以上あったヒット数の割合が次第に近づいてくる。

 限りなくそれが1に近づいてきたところで、ゲルフは勝負のルールを変えた。互いに足を動かせないというルールだったり、自分の後ろにある木を守らなければならなかったり……。ゲルフが剣や槍を使うこともあった。

 状況に対処するための様々な選択肢が、失敗の痛みとともに僕の脳内に刻み付けられていく――――


 そういう実技の修行だけではなく、座学もまた、ゲルフは容赦がなかった。


「では、はじめよう」


 1日中森の中を駆け回ってへとへとになった僕の視界は、隅っこのほうがぼんやりとにじんでいた。目をしばたたかせて、たき火の向こうにいるゲルフの話に集中する。


今宵こよいから、単位魔法ユニットの性質を頭に叩きこんでもらう。これまでは深く理解をせずに使っていた魔法の意味に踏みこんでいく、ということじゃ。精霊言語の発音に長けているとしても、それが導く結果・・を知らねば、本当に魔法を知ったことにはならない」

「……はい」

「『火の1番フレイムボール』について、その性状を述べよ」


 …………え?

 肩すかしをくらったような気分だった。


 それは小火球を生み出す単位魔法ユニットだ。火属性の初歩の初歩。

 魔法使いならだれだって、どういう現象が起こるかを知っている。


「ほんとうか?」とゲルフは言った。「では、どのくらいの大きさじゃ?」

「大きさ……えっと、このくらい……?」

「速さは? 展開から発射までの時間は? 射程距離は?」

「……」


 そういうことか。


「大人の頭くらいの大きさの火球が出現し、その1秒後、意図した方向に撃ちだされる。速さはおおよそ馬の全力。大股で2倍した17歩の距離で消滅する」


 一瞬だけ、目をつむる。

 1度で覚えるのは……難しいかもしれない。


「よいな。これが、魔法を知るということじゃ」


 僕はゲルフが村1番の魔法使いと呼ばれていることに納得した。ゲルフは、たぶん誰よりも自分が使う魔法の性能を熟知しているのだ。


「では、問いを変える。……火属性の単位魔法ユニットは、いくつ現存しているか?」

「8つです」

「具体的には?」

「ええと……1、3、4、5、6、8、9、10番」

「よい」


 単位魔法ユニットは『属性』と『魔法番号』、そして『対価』で規定される。


 火の1番は対価が3で、小さな火球が生み出される。

 火の4番は対価6、炎の絨毯を呼ぶ。

 火の6番は対価が4で、身体能力を活性化させる補助魔法。


 ……こんな感じで、単位魔法ユニットにははっきりとした性質がある。


 魔法番号の最大値は17。7系統のそれぞれに17種類の単位魔法ユニットが存在するはずだから、理論上、魔法の種類は119個であるはずだ。

 だが、それは魔法が生み出された過去の話。

 ゲルフの話によると、数百年前の『大戦』によって、この大陸の歴史や知識は1度リセットされているらしい。その過程で、本来は119個あったはずの単位魔法ユニットはその半分ほどに減ったのだ、と。


 たとえば、火属性でもっとも身近な欠番は、2番だ。


 火の2番の対価はこの『魔法の国』のどこにも伝承されていない。


 対価が分からないから、呪文を完結させることができない。その結果は詠唱失敗。魔法使いの実力を決める回路パスが精霊様によって削られる、という結末を迎えることになる。


 集中していなければ、『”火―2の法―――”』と言ってしまうのは簡単だ。


 そういう失敗をしないためにも、ゲルフは9歳になる前の『教え』の段階から、子どもたちにこの質問を繰り返していた。


「忘れてはおらぬようじゃな。では、これを授けよう」


 ゲルフが僕に手渡してきたのは、ぼろぼろになった羊皮紙の本だった。


 開く。


「……!」


 僕は息をのんだ。

 どのページを見ても、小さな文字でびっしりと魔法の性質に関する知識が詰めこまれている。


「師や友に授かった知恵、自ら調べた知識を束ねた魔法書じゃ」

「これ、もらっていいの?」

「ふん……」


 ゲルフは不敵な笑みを浮かべて、こめかみのあたりを人差し指で触れた。


「すべてここに入っておるからの」

「……」


 ……な、なんか絶妙にイラッとする。


「明日、火属性の単位魔法ユニット、8つについての性状を口頭で試問する。今夜はそれを読んで学びなさい」


 きっつ……! これ全部? ゲルフのことだ。どうせ隅っこに書いてある数字までネチネチ聞いてくるに違いない。


「全部、おぼえるから」

「期待はせずにおこう。わしはたっぷりと眠るぞ」


 ゲルフはわざとらしくあくびをして、テントに入った。


「……」


 『9歳の儀式』以降、よくしゃべるようになって気付いたけど……ゲルフ、子どもっぽくない?


 てか、ゲルフって実際どのくらいすごいんだろう。

 5系統以上を使える魔法使いはムーンホーク領に数人って言ってたよな?

 それに、メルチータさんみたいな弟子をとっていたこともあるみたいだし。


「いや、それより覚えないと……!」


 僕は大慌てで魔法書をめくり始めた。



――



 というわけで、翌日。


「他の人の実力を調べる魔法ってないかな?」


 敵の分析は戦いの基本だ。

 僕が知っているロールプレイングゲームでは、分析することで有利に立てるものが多い。


「……ある」とゲルフは言った。


「あるの!?」

「しかし、上位属性じゃ。お前はまだ発音を知らぬ」

「それを……教えてほしい、です……」


 歯切れが悪くなる。

 幼いころに「魔法を教えて教えて」と言い過ぎたのを僕は思い出していた。


「…………よかろう。たしかに、相手を知るのは重要じゃ」


 ゲルフは目を閉じる。


「”識―2の法 対価は2つ”」


 その呪文には聞き覚えがあった。

 ゲルフとソフィばあちゃんが、何度か唱えていたはず。


「『識の2番アナライズ』。自らの瞳に『鑑定』の力を宿す特殊な単位魔法ユニットじゃ」

修飾節モディファイは要らない?」

「要らぬ」


「”識―2の法 対価は2つ”」と詠唱する。


 周囲から2つのマナが動き、かき消えていく。


 瞬間、世界が揺れた。


 実際に揺れたのは、僕の視界だけ。右目だ……右目の視界に違和感がある。ノイズが混じっている映画を右目だけ見せられているみたいだ。左右の視界の違いが気持ち悪くて、僕は両目を閉じてしまう。


「右の目で、わしを見よ」という声が暗闇の中に聞こえた。


 右目を開けて、黒衣の魔法使いの姿をとらえる。

 そして――羽虫の大群がノイズのようにゲルフに覆いかぶさり、一気に離れる。


「……あ」

「同じ呪文を唱えても、人によって何が見える・・・・・かは違う。わしは魔法使いとしての力量が詳細に見える。ソフィは体力や、力の強さや、器用さ、魔法の実力がぼんやり分かると言っておった」


 僕の右目の視界には――――僕がいつも判断している『数字』が表示されていた。


――――――――――

ゲルフ

魅力:3(容姿:4、印象:2、会話:3)

身体:6(体力:6、器用:6、敏捷:6)

知力:6(知性:7、知識:9、精神:2)

固有:-(職業:-、資産:-、血統:-)

――――――――――


 しかもそれには続きが見えた。


――――――――――

武術

・適正(槍:6、弓:4)

・対獣:7


魔法

・回路:156マナ/17秒

・単位

  土 1 2 3 4 5 6 9 11 14

  水 1 2 4 5 6 8 9 10 15

  風 1 2 6 7 9 10 11 12

  火 1 3 4 5 6 8 9 10

  識 1 2 8 10

  空 2 3 8 11

  時 5

・修飾:27個

――――――――――


 単位魔法ユニット修飾節モディファイの数がすさまじい。

 時間単位で操れるマナの数も多い。


 それを読んでいるうちに、ぼんやりと僕の右目から『鑑定』の力が消えていった。両目で見るもとの視界が戻ってくる。


 ……となると、気になるのは自分のステータス。僕はちらっと確認した。17秒あたりの僕の回路パスは83マナだった。17秒の中で合計してこれ以上のマナを使うと、回路パスが『焼き付く』ことになって、『噛みつく』同様のペナルティがつく。


 とはいえ、重量魔法を連射しないかぎりあまり困らないだろう。


「人間を定める数字、か」


 ゲルフは僕の『識の2番アナライズ』の見え方を聞いて、ふむふむとうなずいた。


「たしかに足の速さや、回路パスの太さ、魔法の知識は数字として判断できるじゃろう。しかし、経験や知恵などは数字では計れぬ」

「……」

「まあ、タカハらしい見え方じゃな」

「……褒めてないよね!?」

「よいか? では次に――――」


 僕は慌てて、ゲルフの言葉に意識を集中した。




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