第106話:「また駐屯任務へ行くのか」と妖精種の騎士が問う。
「――――公爵閣下」
僕は騎士団の礼のまま、頭を下げている。
「やあ、正騎士タカハ。ほらほら、顔を上げる上げる」
「……はっ」
ムーンホーク城、最上階、謁見の間。
ムーンホーク領の支配者であるライモン=ファレン=ディード公爵に、僕は正騎士任命の即日に面会を申しこんだ。すぐに返事が来たから、その日のうちにセッティングをしてくれたことになる。なんでも、会議を1つキャンセルしたのだとか。
閣下の重すぎる愛を感じると同時に、僕は執事のみなさんに心の中でおわびをした。
ライモン閣下はコロコロと転がるようにして玉座につく。
「1人で来るなんてめずらしいね」
「正騎士となったご挨拶と、お願いに参りました」
声が、2人だけの大広間に反響する。護衛まで人払いしてしまうなんて……よほど僕は信用されているようだ。
「あ。その前に、正騎士になったんだよな? じゃあ、おれの奴隷をあげるよ」
奴隷を、あげる……ね。
僕は眉をひそめた。
「正騎士は肉体奴隷を1人使用人として受領できるっていうルールなんだ。だから遠慮しなくていいよ。ムーンホーク城の中で気に入った奴隷がいたら、連れていっていい」
「いえ……。不要です」
「いいのか?」
「姉の特別許可証をいただきました。彼女が身の回りのことは手伝ってくれていますので」
「ふーん、そっか」
ライモン公爵は興味を失くしたかのように、ソーセージのような小指を耳につっこんだ。絶対穴まで届いてないだろ、という渾身のつっこみを僕は腹の底に封じて、正騎士の声と口調で言う。
「本日はお願いがあって、参りました」
「いいよ。言うだけならタダだ」
「閣下のおっしゃるタダほど恐ろしいものはありませんが……。魔法奴隷を1人、領都に呼びたいと思っています」
「へえ」
ライモン公爵は小さな瞳をキラキラと輝かせた。
「また面白いこと企んでるんでしょ?」
「いえ。純粋に、魔法の勉強をしたいなと思いまして」
「勉強ね。……いいなー、おれも混ぜてよー。タカハばっかり楽しそう」
「ぜひいらして下さい。招待状を書かせていただきます」
「くくっ。こいつ……おれのあしらいかたも心得てきたし……」
ライモン閣下は喉の奥のほうでひとしきり笑った後、「いいよ」とあっさり言った。
「おれが呼んだことにしよう。『奴隷活用会議』の参考人、っていうポジションで」
「……そんな会議が」
「あるわけないでしょ」
むふふ、と閣下は笑う。
「『暁の騎士』様の頼みだ。おれに断れるわけない」
「……なぜですか」
「ファンだからさ」
ぞくり、と首筋を寒気が伝わった。僕が面白くなくなれば、容赦なくこの人はファンであることをやめるのだろう。薄い氷の上を歩いているような気分だ。
用件はあっさりとクリア。
僕が領都に呼び出すのは、僕に魔法を教えてくれるであろう、彼女だ。
「その魔法奴隷の名前を、じぃに伝えておいてくれる?」
そのとき、ふと興味が湧いたことがあった。
あまり重要ではないんだけど――――
「閣下、お忙しいところ、かさねて恐縮ですが、最後にもう1点」
「ん?」
「僕の騎士姓はどうやってお決めになりましたか」
タカハ=ユークス。
これは、僕の前世の名前によく似ている。
まあ、名前と姓がひっくり返っちゃってるんだけど。
「え? ……ああ。あれ」
ライモン公爵は不思議なものを見るように僕を見た。
「意味なんてないよ。うん。全然。長くなくて、響きがきれいなのをいつもテキトーにつけてる。リックディアンソンとか長すぎてイヤでしょ?」
「……騎士総長と家族になってしまうことのほうがさけたい理由として大きいです」
「だよね。だからおれの空想。たぶん、おれがあげる騎士姓はだれともかぶんないんじゃないかな。大陸でオンリーワンってことだね」
言われてみれば、ゲルフも『高橋』という名前を知らなかったはずなのに、僕の名前を決めた。そういう運命の力みたいな何かが転生人には働いているのかもしれない。
「……ありがたく頂戴します」
「なんたってファンだからさ」
目元をきりっとさせた公爵閣下。
だが、閣下はすぐにその目元を緩めた。「あれは単に2つ目の名前だから、響きさえ気に入ればなんでもいいんだ」
「……と、いいますと?」
「――――じいさんの名前、入れる?」
それがゲルフのことを指していると気付くまでに、時間はかからない。
つまり、騎士姓をそれに変えるかどうか、という問いかけだ。
緑色騎士団所属、正騎士タカハ=ゲルフ卿。
…………。
……。
これは……あれだ、完全に、宇宙人の侵略者だ。少なくとも味方キャラにつける名前じゃない。しかも、ラスボスになれそうな感じでもない。中ボスがせいぜいだろう。
……相性悪いなあ、僕たち。
けど。
まあ。
いつか、ミドルネームあたりに入れるのはいいかな、とも思う。
「覚えておいてくださったのですね」
「覚えるもなにも、大事件だったからな。それに、まあ……このムーンホーク領にあった面白いものが1つ減ると思うと、イライラする」
それがこの人なりの言い方なのだろう。
ライモン公爵はキラキラと輝く瞳でしばらく僕を見つめた後、「……そのぶん、お前への期待はマシマシだからなっ!」とおどけた口調で言って、あっさりと『謁見の間』を退出していった。
――
第11月。別名は『狩りの月』。夏の暑さはゆるやかになり、各村の狩猟団が冬へ備えて活動を本格的に始める季節だ。
僕は、南東域の辺境に居た。
領都とは違う空気を胸いっぱいに吸い込む。
――――正騎士になった後の最初の任務でも、僕は駐屯任務を選んでいた。
南東域の12の村を17日間で巡り、魔法、狩猟、農業、教育の指導をする。僕の中でもノウハウが確立されてきて、農園を大きくするゲームのような快感があった。自分の手柄を振り返って見るのは楽しい。
困ったことが1つだけあった。
どこへ行ってもつきまとう『暁の騎士』様というオーバーな二つ名だ。
噂というのはすごいもので、『暁の騎士』がため息の出るような美男子になっていたり、双剣使いになっていたり、公爵閣下のご息女と婚約していたり……とやりたい放題。もう、ほんとにね。ため息が出るのはこっちだ。勝手にハードルを上げられる身にもなっていただきたい。
二つ名は僕が以前にいた北西域からじわじわと伝わっていたようだ。
不正を行った文官と騎士を捕まえた、奴隷たちの味方、として。
「……騎士様、道中、お気をつけて」
8つ目の村、ディナ村の妖精種の村長が僕に手を差し出してくる。
枯れ枝のような手のひらを、僕は優しく握り返した。
「村長が教えてくださった、『風の14番』、教科書に加えます」
「ええ。招集ではあまり使えぬかもしれませんが……。それにしても、素晴らしい本をいただきました。魔法を村内で継承させることばかりに捕らわれていた自分たちには思いもつかないことです」
村長は優しく微笑みながら、自分の手が握っている羊皮紙の束を手で示す。
僕の手にも羊皮紙の束がある。
僕の持っているのが『原本』で、村長が持っているのは、書き写された1冊だ。
――――魔法の教科書。
『白光の』ヴィヴィさんや『剛弾の』プナンプさん、『虚幻の』ナイアさんといった魔法奴隷の間の有名人に加え、メルチータさんに執筆をお願いした、羊皮紙の本。
この教科書には、60近い単位魔法がそのコストや運用法とともに列記されている。羊皮紙に書くことで知識は失われず、広がっていく。
これが剣だ。
僕たち奴隷が持っている知識を束ねた剣。
「……しかし、この教科書ってのは分かりやすくていい」
「……仕組みが分かっちまえば、魔法がこんなに便利だなんて思いもしなかった。……罠を作ったり、木を倒したりなんて……」
妖精種たちの声は木の葉同士がこすれあう音のようだ。
一般的な感覚ではみなが微笑を浮かべているように見える――けれど、『感情を人前でさらけだすことを良しとしない』このディナ村では、彼らの微笑みは大満足もしくは大爆笑に近い。
ちなみに、まともに相手をしてもらえるようになったのも、ここ2、3日。
今までで1番苦戦した駐屯先だったと言えるかもしれない。
「隣の村にも広めてください。写本を作って、それを物々交換の材料にしてもらっても構いません」
「……いいのですか? ……騎士様が作られた本なのでは?」
「これを広めていただくことにこそ意味があると思っています。みなさんが強くなれば……そう。招集での被害が軽減されますからね」
――――招集。
その言葉を聞きつけた途端、村人たちの一部が視線を落とした。
このディナ村は南東域で最も招集での死亡率が高いことで有名だった。
彼らの魔法はひどいものだった。
精霊言語の仕組みはほとんど正確に理解されておらず、伝えられている魔法も特殊なものばかりで、攻撃系が少ない、という状況。
代わりに、長い年月をかけ集団の中で磨き上げられた狩猟術は圧巻の一言で、村人たちの全員が優れた弓術の使い手だった。
必要なさそうだったから、農業の指導はカットして、その代わり、文字や算数の重要性と、魔法を広めた。
僕が介入したことによる彼らの変化を評価するなら、駐屯任務としては大成功だろう。魔法の扱い方を彼らは深く理解できたはず。
「……」
僕は森の木の上に組まれた家のいくつかを見る。
固く閉ざされた扉もちらほら見える。
ディナ村の約半数の人たちは、僕を招き入れた村長に反対して、数日間にわたって扉を開けることすらしてくれなかった。
僕は、騎士だ。
そして、彼らは魔法奴隷。
忘れかけていた現実をもう1度見せられる。
この隔たりは、僕がいくど駐屯任務を繰り返したって、変わらないだろう。
僕は彼らを管理する立場。
彼らは僕に管理される立場。
僕は彼らに命じる立場。
彼らは僕に命じられる立場。
閉じられた扉は、その厚みの何百倍もの距離を象徴している。
命令してその扉をこじ開けることに意味はない。
でも、それでもいい。
僕は知っている。今、固く閉ざされている扉の中に、僕が作った魔法の教科書なら入りこめる。知識に立場はない。何人かの村人たちが、僕にバレないように教科書を写本していることを僕は知っている。
僕を騎士の代表と睨みつける若い魔法奴隷が、教科書を手に取る。
息子を招集で失い、失意の底にある老人が、教科書を手に取る。
戦う力が自分にはないと思っていた少女が、教科書を手に取る。
それこそが僕の狙い。
魔法は言葉で、言葉は知識だ。
「……他の村に広める。……すみません、騎士様。……俺たちはここを出られないのです。……というより、出たくない、のですが……」
「まったく他の村の人間に会わない、ということはないはずです。村長さん同士だったり、狩猟団長同士だったりすれば。あるいは、塩なんかの仕入れもあるはずですね……?」
「……騎士様、あなたは……」
「タカハ=ユークスといいます。師匠の名を借りて、『暁の騎士』と呼ばれているようです」
「……暁」「……暁……」「暁」「暁……」
僕を指し示す以上のなにかを込めて、村人たちは僕の二つ名を繰り返す。
僕はいたずらっぽい表情で、続けた。「他の騎士に告げ口するのだけは避けていただければ」
ディナ村の村人たちが微笑を浮かべる。
――
「……リューン村での治水対策と、ポルタ村での農業普及に関して、南東域の村長会議から騎士団あてに感謝状が贈られている。素晴らしい判断と行動力だった」
僕は騎士団長の目を見て答えた。
「すべて、彼らの望んでいたことです」
「……そうか」
団長は含みのある視線を僕に投げかけてくる。
騎士団長室。
磨き上げられた美しい木目のテーブルと、散らばったたくさんの書類に向かい合う騎士団長は、午前中だというのにどこか疲れて見えた。理性的な光を宿した瞳だけが活力を感じさせる。
「…………来月だが。領都での文官との会議に出席してもらおうと思う」
「文官との会議、ですか?」
「第12月の1日目から数日間をかけて、公爵閣下も交えた領の運営に関する会議が行われるのだ」
知らなかった。
市議会みたいなものだろうか。
というか、従騎士のレベルにもそういう会議の存在が開示されていないことに僕は違和感をおぼえる。
「騎士リュクスも連れていく。人脈を広げる貴重な機会だ。2人は異例の若さだが、出席させる価値はあると私が判断した」
「……」
僕は沈黙する。
言うべきことは決まっていた。
問題は、言葉の選びかただ。
「団長」
けれど、僕が考えた3通りの説得パターンを披露する間もなく。
「…………駐屯任務か」表情だけで団長に先を越された。
僕ははっきり「はい」と返事をする。
騎士団長の視線が、光の線のようになって僕の瞳を捉える。
「自分は」精一杯、強気の声を絞り出す。「南西域のことを知りません。行かせてください」
騎士団長は自分の正面に散らばった書類に視線を落とした。
まるで、そこに僕の扱い方が書いてあるかのように。
……団長は結局、扱い方を見つけられなかったようだ。
「そこまで言うのなら仕方ない」
「……」
「……だが、チャンスを1つふいにしていることはよく覚えておけ」
「はっ」
「第12月、南西域への駐屯任務を許可する」
「……ありがとうございます」
「ただし、これが異例だということを忘れるな。正騎士の作戦行動は私が決めている。11月、12月の自由を認めたが、第13月以降はこのような希望が通ることはない」
第13月。
その頃には。
「――――もちろんです、団長」
少し世間話をして、僕は団長室を出る。
扉を締めるその瞬間まで、夕日の最後の一筋のような団長の視線が、僕を見ていた。
「ふぅ」と息をつく。
首筋のあたりに嫌な汗が出ていた。
……僕はもう魔法の教科書を広めてしまった。『暁の革命軍』の盟主として、行動を開始してしまった。先に引き金を引いたのは僕だ。騎士団が、奴隷たちを分断することで押しこめていた知識を、あっさりと僕は拡散してしまった。
どくり、どくり、と心臓が拍動している。
間違っていたら――――
より良い結末に到達できなかったら――――
僕はぶんぶんと首を横に振る。
違うだろ……?
もう、決めたことだ。
ゲルフの遺志を僕は継ぐ。
今の僕が出来るのは、魔法奴隷たちに知識という武器を与えること。
そして、その武器を与えた超本人として『英雄』になること。
遅かれ早かれ、だ。
「……はは」
乾いた笑いを吐き出して、積み重ねた理屈を吹き飛ばす。
ずっとそうしてきたじゃないか。
ピータ村では、僕1人の身体を前に進めてきた。
従騎士になって、村1つ分の人たちを前に進めてきた。
今度は、ムーンホーク領全体を前に進めるだけだ。
僕は騎士団の廊下を歩き出す。
その足は――――数十歩も行かないうちに止まった。
緑のコートに乗った正騎士の徽章が揺れて、静止する。
青い瞳と短く揃えられた金髪。陶磁のような白い頬は、しかし血の巡りを感じさせる。まるで、妖精種の王子様、といった印象。
けれど、いつもの皮肉っぽい表情もなく。
鼻にかけたような笑い声もなく。
正騎士プロパが、僕の進む方向を塞いでいた。
「……やあ」
「……」
僕の挨拶は、道端の小石のように、無視。
「えっと? 屋敷に戻りたいんだけれど……?」
「――――また、駐屯任務へ行くのか」
その声は、まるで合成音声の冷たさ。
「…………うん、行く。来月は南西域」
「なにを考えている?」
「……どういうこと?」
「タカハは、ラフィアのために騎士団に入った。その後のタカハの活躍を見ていて、オレはタカハがムーンホーク領のため、騎士団のために戦っている……そう思っていた」
「今でもそうだよ」
「違う」
プロパは確信と自信を滲ませて、言い切る。
「タカハは考えて動いている。……正騎士になりたて、手柄を立てなければならないこのタイミングで、なぜ駐屯任務へ向かう? ……このタイミングの重要性を理解していない、とは言わせないぞ。たまに驚くほど間抜けだが、それ以上に、タカハは大局的な視点を持っている」
ほ、褒められた。
少し嬉しいけれど……僕はそれ以上に緊張している。
プロパは、疑っているのか……?
僕を。その行動を。
「どれも外れだよ。プロパ」
「うん……?」
「僕はムーンホーク領のために動いている。考えて、その結論が、駐屯任務だったんだ。地理や、雰囲気や、価値観。それを知っておくことは、無意味じゃないと思う」
「けど……回り道だろう?」
「急がば回れ、だ」
「オレは、もどかしい。もったいないと思うんだ。お前ほどの人材が中央にいてくれれば――――」
僕は目を瞬かせた。
「…………なんだ?」と不機嫌そうにプロパが言った。
「褒めてる?」
「茶化すな。同期の、オレよりも少し劣る騎士がいてくれれば、オレが目立っていいだろう? そういう理屈だ」
なんというか、と僕は内心に苦笑する。
器用じゃないなあ。
「ありがとう、プロパ」
「すぐに感謝の言葉を言うな。安っぽいだろうが」
「プロパ――僕は、僕が信じることをする」
「……」
青い瞳が僕を見ている。
少し、時間が経った。
プロパは皮肉っぽい表情を浮かべて、肩をすくめる。
「勝手にしろ。これはオレからの忠告だった。あとで聞いておけばよかったと後悔するなよ」
「プロパは騎士団長を目指してるんだよね?」
「ふん。オレが騎士団に入ったんだぞ。当然だろう? オレは騎士総長まで上り詰める」
「なら――僕はプロパの敵になるかもしれない」
僕は、この騎士団を。
その価値を。
足元から破壊するのだから。
一瞬だけたじろいだプロパは、すぐに戦術家の顔になって、その後、不敵な笑みを陣地みたいに構築した。
「団長を目指すレースでオレに勝てると思うなよ。タカハ」
その言葉で、僕は確信した。
プロパは僕の裏切りをこれっぽっちも疑ってなどいない。
純粋に、駐屯任務という手柄に直結しない任務をこなし続ける僕を心配して、言ってくれたのだ。
僕は回り道なんて選んでいない。
迅速に、確実に、完成した魔法書をバラまいている。
白い薄紙に墨汁を垂らしたように、魔法書は複製され、広まっているようだ。まだ南東域のいくつかの村でしか情報を公開していないが、現在はその倍近い村で魔法書が確認されている。想像以上のペース。彼らがこれを読みこなし、さまざまな魔法を使いこなせるようになるのに半年くらいかかるかと思っていたけれど、もう少し早いかもしれない。
南西域にも、知識を広める。
魔法奴隷たちはもっと強くなる。
副産物として――――魔法奴隷たちは気がついてしまうだろう。
思い出すだろう。
自分に秘められた力の強さ。
『精霊言語』の価値。
そして、自らを支配する騎士たちは圧倒的に数が少ない、という事実に。
それを巧みに扇動する計画も、実際の反攻作戦も――すべて『革命軍』の中枢に居る魔法使いたちが練り上げておいてくれた。
「オレは戦略や戦術を極めてやる。タカハ、お前も強みをもっておけよ」
ふふん、とプロパは笑い、去っていった。
ともに競い合う相手を見つけた喜び、興奮が、肩のあたりににじんでいる。
僕はプロパの背中を見送り、顔を伏せた。
…………それでも。
僕はもう、止まれない。
僕はプロパと反対の方へ歩を進めた。
僕とプロパの距離はどんどん遠くなる。
廊下は、ずっと長く続いている。




