命懸けの戦い
ついに未知の領域へ踏み出す事になった私達。只で済むとは思わないが、絶対に生き抜いてみせる。みんなの笑顔がある大切な日常に戻るために!
――放課後、さっそくビヨンドくんに乗り込み、作戦は決行された。
「今回もよろしくね、ビヨンドくん……!」
今回はいつも以上に緊迫した戦いだ。ビヨンドくんに語りかける声もつい力んでしまう。
しかしどうにも釈然としないという気持ちもある。いつもはギョウマ達がいる。しかし今回はまだ出現していない状態での出撃。奴らの隠れ家があると思われるポイントまではつい気を抜いてしまいそうだ。引き締めていかないと……。
だが、次元を越えたそこに待ち受けていたのは……!
「ザコギョウマの群れ!?な、なんで!?」
大量の奴らがいた。その光景にビックリしていたのは私だけじゃない。
「おかしい。ビヨンドのレーダーに反応は無かったはず」
鞘乃ちゃんはすぐに視線をレーダーに移す。先ほどまでいなかったはずのザコギョウマの反応が各地に広まっている。
でも変な点はそれだけじゃない。ザコギョウマはいつもギョウマを中心に集まって行動しているはず。今日だけこんなにバラバラの位置にいるザコギョウマは一体何を企んでいるんだ?それを疑問に思いながらも、今回の目的はそんなものではない。
「ここでこいつらに構って消耗する訳にもいかないわね。飛ばしましょう!」
鞘乃ちゃんの言うとおりだ。先へ進もう。……当然私達の邪魔をするため、追ってくるだろうけど。
そう考えていた私達だったが、ザコギョウマに動きはない。この未知の状態を恐ろしいと考えるか、好都合と考えるべきか。答えは後者だ。今はこの状況をラッキーと思うしかないだろう。
「今が攻め時!私達は勝つ!」
鞘乃ちゃんが何時にも増してやる気だ。よぅし、私も頑張るぞっ!
決意を固め、私達は向かう。……不思議なほどに邪魔が入らないが、返ってそれが不安を募らせる。そして私達は目撃する。暗黒が渦巻く謎の穴を。
「これは……次元の扉」
「それって、鞘乃ちゃんの家と私達の世界を繋げている、あの?」
だとしたら全然見た目が違う。鞘乃ちゃんの家へ通ずるそれは、ドアノブのついたまさしく扉というデザインだけど、目の前にあるこれは穴だ。その向こうはどす黒い闇が溢れているように見える。
「扉というのはあくまでも世界と世界を繋げるためのきっかけにすぎない。形状は関係ないのよ」
「じゃあ、あれは本当に別の次元と通じているの?」
『ソノ通リ』
青年のような声色が響いてきた。現実世界なら――少しカタコト気味だけど――特に何の違和感もなく受け入れるだろうが、ここは異世界。誰もいないはずの世界。一瞬で私達の表情は焦りに転じた。
そしてその声の主は暗黒の空間より飛び出してきた。ギョウマだ!
『僕ラハ普段、此処ノ次元ニハイナイ。ダカラ君達ハ僕ラヲ探知出来ナカッタ』
私達はビヨンドくんから降り、そのギョウマと顔を合わせた。鋭い角を生やした獣のようなマスクに黒と金色のボディが特徴的で、雰囲気も、ちょっぴりヤバそうだ。
鞘乃ちゃんは震える足を無理やり一歩踏み込ませ、そのギョウマに言葉を投げ掛けた。
「つまりは此処は貴方達がそもそもいた世界ではないということ……?」
『イイヤ?此処ハ僕ラノ世界ダ。デモコンナ世界要ラナイ。ダカラ捨テテ暗黒空間ニ住ンデルノサ』
要らない?自分達の故郷であるこの異世界が?一体どうして……?でも一つだけはっきりした。ギョウマにとってこの世界を滅ぼすことになんの抵抗もないんだ。
「……じゃあさ!どうして私達の世界を滅ぼし、支配しようとするの?その……暗黒空間、で君達は暮らしていけばそれでいいんじゃないの?」
『嫌ダヨアンナ狭イ空間』
ギョウマはため息をついて肩をゴキゴキ鳴らしていた。そして次はその手の鋭い爪で隣に聳えている岩場をいとも簡単に切り裂く。
『モウ話ハ飽キタ!ソロソロ勝負シヨウヨ』
爪をブンブン振り回し辺りをめちゃくちゃにする。その表情は笑っているように見える。……とても友好的には見えない笑いだけどね。
奴は言う。ここまで招待してあげたのは、冥土の土産に教えてやるという自分の優しさなのだと。つまり知ったからには……死ねと言いたいんだろう。
「……と言うことは、やっぱりザコギョウマは敢えて動かさなかったんだね」
『……?ザコギョウマ?ンアァ……アノ下級兵士ドモカ。別ニアイツラニハ何モ命令シテナイケド』
「え!?」
……それっておかしくないかな。命令されていないのに、どうしてザコギョウマは私達をみすみす見逃したんだ?彼らはギョウマの部下なんだから、命令を受けていない状況で適切な行動は、『動かない』ではなく『侵入者を排除する』事のはず。ボーッとしてたらそれこそ怒られちゃうはずだもん。
……もっとも、それを考えさせてくれる余裕すら与えてくれないって感じだけどね。
『ネェー……サッサト勝負シテヨ!気ニナルンダヨナァ、セイヴァー ノ 力 ッテノガサ!』
このままボーッとしてたら本当に殺られそうだ。やむを得ない。やるしか……ない!
――私はセイヴァーシステムを起動し、セイヴァーへと変化した。お手並み拝見……だなんて甘いことは言ってられない。早速右手からセイヴァーソードを創造し、ギョウマと対峙する。本気でいかなきゃやられる……。
それほどに不味い雰囲気だ。本能が教えている。このギョウマは強い。油断していたらすぐに負ける。……死ぬ!
……だからこそ落ち着こう。冷静に、奴の動きを読むんだ。
『……来ナインダ?ジャアコッチカラ行コウカナ』
ギョウマは凄まじい速度で私に接近する。……でも、見える!この速度ならば、反撃可能……!
「優希ちゃん、後ろよ!」
「!?」
咄嗟にセイヴァーソードを後方に構える。その鋭い爪が、セイヴァーソードとぶつかった。
ガリガリと火花散らす閃光。早い!完全に捉えたものと思っていたのに……!それだけじゃない。攻撃が……重い……。このままじゃガードを弾かれるのも時間の問題だ。
万事休す。奴の大きな力に、剣を構える腕の力が無くなっていく。そこで鞘乃ちゃんの銃がギョウマに放たれた。ピクリと肩を動かしたが、まるで通用していない。しかもギョウマの視線が鞘乃ちゃんの方に向いてしまった。
『……チッ、弱イ奴ハスッコンデロヨナァ』
苛立ちを隠せないようにギョウマがもう片方の爪を振り上げる。しかしこれはチャンスでもある。注意が逸れた今、奴にも隙というものが生まれた。
「でいいいっ……やああああっ!!!」
目一杯力を込め、ギョウマの爪を弾き、そのまま斬りかかる。が、剣を振り下ろしたそこに、もう奴の姿は無い。
(どこだ…?どこに…?)
辺りをぐるんと見渡すと、岩場の上に奴は寝転んでいた。
『オッソイナァ。ゼーンゼン期待外レデ拍子抜ケダヨ』
パリパリと雷撃がギョウマの角に集まる。その巨大な力に私は恐怖を覚えた。そしてそれを受ければ不味いことだってなんとなくわかる。
応戦するために私もセイヴァーソードにエネルギーを集中させた。必殺の一撃を放つ以外に方法は無い。
『ツマンナイ!死ネ』
「う、うおおおおおおおっ!!」
そして角から放たれた雷撃の槍と、私の全パワーを解放した必殺・セイヴァーフィニッシュが衝突した。
凄まじいエネルギー同士のぶつかり合いが、莫大な閃光となり、地面を抉り、岩場を吹き飛ばす。
(耐えきれない……!こんな……大きな力……っ!)
腕が千切れてしまいそうな、はたまた私という存在がまるごと全部消しとんでしまうかのような、そんなおぞましい感覚を覚えさせるほどの衝撃だった。そして次の瞬間、私の視界は、地面を捉えていた。
何が起きたかわからない。まるで宙を飛んでいるようだ。しかしそれは、そんな心地のよいものではない。
「うぐあああああああああっ!!」
……そうか、私は、負けたのか……。全身を疼かせるような激痛で私はそれを悟った。
どしゃりっ!地面に叩きつけられる。痛い。麻痺したように身体の自由が効かない。雷撃をまともに受けたせいか。生きていることが不思議なほどの激痛だ。
なんとか動かした視界の先に、ギョウマが迫っていた。この状態では、ちょっと応戦できないかな……。
ここで終わる。私はそれを確信した。
(鞘乃ちゃん、約束を守れなくて本当にごめん……)
「まだよっ!」
諦めようとしていたその時だった。声に私の意識は力を取り戻す。鞘乃ちゃんがギョウマの後ろに立っている。そして手には私のセイヴァーソードが握られている。吹き飛ばされたときに鞘乃ちゃんの手に渡ったんだ。
しかしギョウマは依然、余裕だ。
『ヤメナヨ。死ニ急グ必要ナンテ無イデショ』
「死なない……必ず生きて帰るって約束したのよ!」
『……ヤクソク?』
「えぇそうよ。優希ちゃんは私を……そして私は優希ちゃんを守ると誓った。絶対に優希ちゃんだけは死なせない。私を孤独から救いだしてくれた彼女だけは……っ!!」
『フーン……』
ギョウマは相変わらず適当な態度を見せていたが、一転!その声を荒らげた!
『ウザイナ……ソウイウ馴レ合イ、友情、愛、幸セ…アラユル光ッ!』
「……っ?」
『ムカツクンダヨネ!オ前ラミタイナ平和ニ包マレタ幸セ馬鹿ガサッ!』
どうしたことか、突然取り乱したギョウマ。形相はまるで鬼。滲み出るような怒りと殺気が、ビリビリ空気を震わせている。でも、お陰で隙だらけだ。今の奴は冷静な判断も取れないだろう。
身体はやはりちゃんと動かせそうにないけど――鞘乃ちゃんが見せてくれた勇気が、私の心を動かした。鞘乃ちゃんの言うとおりだ。この命は私だけのものじゃない。絶対生きる!簡単に諦めちゃダメなんだ。
それに絶望をも希望に塗り替えるのがきっと……救世主なのだから!
(……動けっ!まだ戦えるはず……っ!!)
ググッと力を拳に込める。まともに身体が動かせないならば、賭けるしかない。この一撃に……。
ギョウマが雷撃を角にチャージし始める。同時に鞘乃ちゃんがセイヴァーソードを振り上げた!
暴走しているとはいえ、ギョウマも只で受けてあげるほど優しくない。その手で受け止めようとした。
だが剣の軌道は変化する。ギョウマの手のひらに収まろうとしたセイヴァーソードは、ぐるんと向きを変え、ギョウマの手を捉えた。
『ナニィ!?』
手を守っていた奴の頑丈そうな皮膚がバキンッと粉砕される。
凄まじい驚きようだった。ギョウマは最悪、当たることも想定していたに違いない。その上で耐えきれる自信があったのだろう。が、予想外だったのは、相手が私よりも遥かに剣の達人だったということだ。
そしてその驚愕から奴は怯み、さらにそこへ鞘乃ちゃんは追撃した。
続けて降り下ろされたセイヴァーソードは、ギョウマの胴を斬りつけた。ギョウマは堪らず、後退させられる。
『グゥウウッ……クソッ……コンナヤツ……!』
動きが狂いだしたギョウマ。そこへ私も最後の力を振り絞る。
「ギョウ……マ……!今度はこっちだ…!」
『チィッ!雑魚ガッ……調子ニ乗ッテンジャ……ッ……!?』
この時、この瞬間の為に溜めた一撃。拳に一点集中された巨大な力に、奴の表情は真っ青になっていく。だけど、容赦はしない。狙いは……。
「そこだっ……あああああああああっ!!」
右腕から放たれたそのエネルギーが、鞘乃ちゃんの剣による一撃で脆くなった胴に直撃する!
『グハッ……!!コンナ……事ガ……ッ!』
ギョウマは耐えきった、ように見えたが、次第に崩れ落ちていく。
苦しみ、闇の空間の中へ逃げていく。鞘乃ちゃんは、その間に私を抱え、ビヨンドくんを発進させた。そしてそこで私の意識は途切れた。
双方がボロボロでこの戦いは幕を閉じた。予想通り、只で済むものではなかった。だけど新たな情報を得ることは出来た。問題があるとすれば……また新たに謎が深まったと言うことか。




