裏世界の無情
それは、どこの次元にあるのか――。
金色で覆い尽くされた、煌めいた景色。そこにただ一つ浮かぶ巨大な黒い球。
そんなとても普通じゃない世界。そこを、行き来する者は『天界』と呼んだ。
この世界に存在するは三人。
一人は今、岩場に頭を打ち付け、怒りのままに暴れる者。
天使・ラルス。持ち前の巨大な力でホフドリムの地を幾度も襲撃している暴君。
二人目はめんどくさそうにそれを見つめる者。
天使・ミルザ。自分が楽しいと思える事の為にしか動かない怠惰な存在。
そして最後に――そこの主である者。
それは常に姿を見せない。どこにいるのかも理解できない。しかしそれでいて、天界のどこにいても監視されているかのような巨大な力を放っている。
仮にこの世界に突入出来た者がいれば、この世界の概念そのもののようだ、とでも評するであろう。
そういったおぞましき存在が集まる世界。
まさに、どんな存在も超越した、天に生ける者達の世界と言っても過言ではないだろう。
そんな彼らを脅かす存在の誕生は、彼らの耳にも届いていた。
黒い球の上に座り、暴れるラルスを見下ろしながら、ミルザは声を発した。
『ラルスがこれまで以上に怒ってる。たぶん、救世主のせいだろうなぁ』
空に語りかけている――これは主との対話だ。ミルザはどこに主がいるのかを理解しているし見えている。故に、三者から見れば独り言のようにしか見えないのだ。
救世主達は、巨大な力を得た。一人は始まりの救世主の力を得て、一人は神に等しい力を得た。
これまで自分達を恐れていた人間が、よもや自分達を越える力を得たとは。その事がラルスにとって憎らしくて仕方がなかった。だからこそ、怒り狂っている。
喧しいと思いながらも、危機感を覚えているのはラルスも同じだ。
『ガルドに続いて、ウルグも逝っちまうとはな~。ま、んなこたぁどうでも良いんだが。どうするじゃん?このままじゃ不味いっしょ』
返事はない。
ように聞こえるが、ミルザにはそれが聞こえた。『慌てずとも、道は拓けている』。
同時にミルザは巨大な力を傍に感じ、再び視線を落とす。
ラルスから黄色いオーラが沸き上がっているのが見えた。
『まさか……アイツ、完全体に……?ほーん。ラルスははじめから、自分の『性質』を受け入れてやってきたもんなぁ。むしろ時間がかかりすぎって感じじゃん?』
しかし……仮にここで完全体が一体増えたところで、戦況はあまり変わらないのではないか。ミルザは再び主に問いかける。
主は返す。『策はある』と。
ミルザはニヤリと笑みを浮かべた。
『そんな呑気で良いのかよ。奴ら、もしかしたら君よりも強いかもよ?なぁ……『神』?』
主――神は、再び同じ言葉を述べるだけだった。
――そうだったな。ミルザはふぅと息をつく。
神は感情を持たない。煽ってみたところで、怒りも焦りもしない。何とかする方法があるというありのままの『結論』しか言わない。
――つまんね。ミルザはまた息をつく。
しかもその策とやらを実行するのはミルザ達天使の役目。ふんぞり返る神の態度には時折苛立ちすら感じることもある。
しかし神の言うことは絶対だ。つまんないことだろうと、めんどっちいことだろうと……ミルザは従わなければならない。反逆など意味をなさないと理解しているからだ。
神の言う結論の為に、天使達は動き出す。
人とギョウマが争ってきた長きに渡る歴史。その終焉が、近づいていた――。




