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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
第7章
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みんなの傍に

 誰かを守れるなら、どんな怪物にだって、どんな化け物にだってなってやるつもりだった。

 でもあの時私が放った力は、それこそ世界を滅ぼせるほどの力だった。それを自分の意思で使ったとき、わかったんだ。これまで通りにやっていけるはずがないんだって。自分がただ恐ろしかった。こんな危ない力を持っている存在がみんなの傍に居られるはずがない。それが人じゃなくなるって事なんだと……。


 ――鞘乃ちゃんが王を倒し……私達は自分達の世界へ戻ってきた。

 そしてノゾミちゃんが全てを話した。彼女が王に狙われていること。破壊者の力が王によってもたらされたモノだということ。私の身に起きた事……。


「で、でも、操さんの資料には書いてあったじゃないですか……。戦いをやめれば、優希さんの異変も止まるんだって……」


 ましろちゃんが私を元気付けようとそう言った。でも希望を抱けるような心境ではない。それに資料に書いてあった事は、別の意味でもとれる。


「……それって、こうならないようにするためでしょ……?私はもう……変わっちゃったんだよ……!戻れる保証なんて無いじゃん!!」


 怒鳴り付けみんなを驚かせた。傷つけてしまった。

 ……でも、それで良いのかもしれない。みんなもこんな怪物と一緒はきっと恐いはずだ。私も自分がどうなってもいいと思った。


「あぁそうだよ……私は危険な存在なんだ。みんなとだってもう、友達でいられないよ!!」


 その発言にみんなが驚愕の表情を浮かべる。


 その後、葉月ちゃんが表情を強ばらせ、私の目の前に立った。こんな私に幻滅してくれているに違いない。しかし彼女は……すぐにそれを笑みに変えた。驚いて、どうして笑っているのと尋ねると、彼女はさらにいつものぽわぽわした笑顔に変え、私の手を握って言った。


「私……ノゾミちゃんに綺麗事を言うなと言われてから……少し考えたんですよ。本当に何も出来ずに貴女を犠牲にしてしまうのかと。で、結論、出ました。人だろうとそうじゃなかろうと別にどうでも良いじゃないかって」

「は……?」

「どんな優希ちゃんだって私にとっては大切な友達です。はい、私達はこれからも友達、バンザーイ!」


 ぐいっと握った手をそのまま上げて下げて……どういう状況なのかすぐに判断できなかった。

 そこで彩音ちゃんがゲラゲラ笑い声を挙げて益々意味がわからなかった。彼女にも葉月ちゃんにしたのと同じ質問を投げつける。葉月の言うことがその通りだからさ、と場の空気を馬鹿にするように笑っている。


「だってよー、お前自分がこれまで何してたかわかってんの?『人もギョウマも救う』って戦ってたんじゃねえか。人だろうがそうじゃなかろうが、お前は大切にしてたろ。そんなお前が人でなくなったくらいで繋がりを否定すんのか?」

「そうですそうです!それに人からそうじゃなくなった人とも優希さんは友達になったじゃないですか。その人たちの事も否定するですか?」


 操さんが遺した結晶と、ノゾミちゃんを前に押し出し、ましろちゃんが彩音ちゃんに加勢する。

 ……それは、違う。みんなの事は大切だし、ノゾミちゃんとの友情も、操さんに誓ったことも偽るつもりはない。


 でも……みんなが受け入れてくれたって、私が嫌なんだ。みんな、私のために凄く頑張ろうとしてくれたし、鞘乃ちゃんは力を手に入れて戻ってきてくれた。でも結局私は人じゃなくなっちゃった。


「みんなに苦労かけて、それなのに無駄にしちゃったんだ……!私が……異変に気づいていたのに自己満足で戦い続けてそれで……っ!!」


 ……最低な人間だ。考えるとボロボロ涙が止まらなかった。……結局そうすることしかできないから、余計に最低だと思う。


 だけどそんな私に寄り添ってくれたのは……やっぱり彼女だった。抱き寄せられ、彼女の香りに包まれる。でも今の私にはその優しさは返って逆効果だった。身体が引き離そうと彼女に抵抗を始める。

 それでも鞘乃ちゃんは離そうとはしない。


「……無駄なんて無いよ。みんな優希ちゃんが大切だから頑張ったんだよ。その気持ちはわかってほしいな」

「うる……さい……な……っ!離してよ……っ!全部私のせいなんだよ……っ!!」

「それも違う。優希ちゃんはいつだって誰かのために頑張ってたわ。沢山のギョウマの心を救ったし、みんなの心も繋げてくれた。争うことを誰よりも真剣に悩んでいた。それを自己満足だなんて言葉で片付けてほしくない」

「ふざけないでよ……!!一番私がこうなることを恐れてたのは鞘乃ちゃんのくせに!!」

「えぇ恐かったわよ!でも優希ちゃんに嫌われることの方がもっと恐い!!」


 向けられたことの無いような叫びを聞き、ようやく鞘乃ちゃんが泣いている事に気がついた。

 そしてようやく私は止まった。馬鹿みたいな話だが、こんな状況でも彼女の涙には弱いみたいだ……。

 鞘乃ちゃんは涙を拭って耐えながら、私に言う。


「……優希ちゃんがノゾミちゃんに約束した事と同じ。私も優希ちゃんが元に戻れる方法を探す。だからどうなってもいいなんてもう言わないで……」

「鞘乃ちゃん……」

「拒んだりなんてしない。……これまでと同じだよ。私は優希ちゃんと一緒にいたいの」


 そのまま私は力一杯抱きしめられた。彼女の温もりが私の心を安心させてくれた。その想いに喜びを感じた。


(私の居場所はこれからもここにあるんだ……)


 私も想いのままに抱きしめ返す。お互いに涙を流しながら、幸せを噛み締めた。


 きっとあるはずだ。彼女の言った通り、無駄なことなんて無い。鞘乃ちゃんがここまで頑張ろうとしてくれているんだ。元通りになる方法は見つかるはず。私もその希望を信じよう……。


「――で、いつまでベタベタしてんだお前ら」

「鞘乃さんも随分大胆ですよねぇ……」

「良いぞ……もっとやってください……っ!!」


 変な目で見守る一名を除き、彩音ちゃんとましろちゃんが私達に突撃してきた。彩音ちゃんにバシバシ背中を叩かれて、凄く痛いのに凄く嬉しかった。


 ……みんなのお陰で私は元通りになれた。哀しみをまた一つ乗り切ることができたんだ。


 それを見てノゾミちゃんが笑った。


「……私は、新庄優希に戦えと言った側だから慰めの言葉はやれんが……お前達は大した奴らだと思う。今回ばかりは容易く乗り越えられる絶望ではなかっただろう。お前達だからこそ成し遂げられたことだ」


 そう言われると少し誇らしかった。でも確かに、みんながいてくれなかったら、私はどうなっていた事か……。


 みんなには感謝感謝、だね……。それに、こうして冷静に考えれるようになると、救世主の力と完全に一体化したことは悪いことばかりでも無いみたいだ。

 この一体化のお陰で、また大きな謎が解けた。そしてそれをみんなにも知ってもらうことにしよう。


 私はみんなに話を切り出し、そして……それを始めた。





 ――意識が消え、ぐらりと倒れた私。みんなはそれを見て驚いて駆け寄ってくれたが、心配することはない。

 意識が消えた、と言ったが、正しくは切り換えた、というべきか。『新庄優希』という人格を裏側に追いやり、もう一つ新たに私の中に存在することになった人格を表側に出した。


『……心配は無用よ。みんな、離れて。話を聞く態勢になってもらえないかしら』


 私がこんな話し方をするものだから、みんな思わず吹き出していた。しかしそこにいるのは正式には私ではない。彼女はみんなに自己紹介をした。


『始めまして。『救世主の力の意思』です』

「え……?」

『今、新庄優希ちゃんの身体を借りてみんなに語りかけさせてもらっているわ』


 瞬間、彩音ちゃんが彼女に掴みかかった。


「てんめえええええッ!!優希ん中から出ていきやがれええええッ!!」

「ちょっと落ち着いてください!身体は優希ちゃんのものなんですよ!」


 そう言われて彩音ちゃんは悔しそうに拳をしまった。

 ……気持ちは嬉しいけど、相変わらず乱暴だな、なんて私は裏で笑っているところだ。


 さっきまで救世主の力との一体化であんなに取り乱していたのに、そんなやつに身体を貸すなんて随分余裕じゃないかって?

 まぁ、彼女も『共鳴』をやりたくてやったわけじゃないんだし、彼女自体を嫌ってるわけじゃないよ。それに彼女は救世主の意思とは厳密には少し違う存在だからね。


 彼女彼女って随分親しそうじゃないかって?まぁ、二度も夢の中で会ってるしね。外見は鞘乃ちゃんそのものだしさ。


 ……そう、夢の中で出逢ったあの鞘乃ちゃんは、セイヴァーグローブに眠る意思の一つだった。共鳴が不完全な時と、まだ始まってすら無かったときだったから、夢の中という限られた場所でしか話が出来なかったらしい。


 でも完全に一体化した今、全部わかった。彼女が何者なのか、彼女の存在が何を意味するのかを。

 彼女は鞘乃ちゃんに瓜二つだが、別人だった。そう、彼女の正体は……。


『……人間だった頃の名前は……『剣崎美影』と呼ばれていたわ』


 鞘乃ちゃんが驚いて立ち上がった。


「……お姉ちゃん……っ!?」


 美影さんが頷く。


『久しぶりね、鞘乃……』


 動揺を隠せないという風に鞘乃ちゃんは身ぶり手振りよく分からない動きを繰り返す。

 当然だろう。美影さんは確かに死んだはずなのだから。だが彼女の魂は、この世界に留まる事になった。


『私はあの実験で死んだ。でも、私の想いに反応した救世主の力に私の魂は飲み込まれ、今の存在となってしまったのよ』


 そう、救世主の力は彼女の正しい心を感じ、巻き込んでいってしまった。まだシステムが未完成だったがゆえに起こってしまった事だと彼女は想定している。


「じゃあ優希ちゃんの『共鳴』が起こってしまった理由って……」

『……私のせいよ。私も王を憎み、人とギョウマを守れたらと願っていたのだから。……まさか、全く同じ事を考えていた人間が、居たなんてね……』


 私もビックリだったよ。でも、まさか美影さんと同じだったなんて、光栄だな。

 しかし鞘乃ちゃんは違和感に気づいた。王を憎んで、ギョウマを救いたいと願っていたと言うことは、世界の真実をある程度知っていた事になる。一心さんも知らなかった事であり、しかも美影さんは普通の人間だ。知っているなんておかしいではないかと。


 しかしそれにも理由があった。彼女は普通の人間などではなかったのだ……。


『……いつかは話さないといけないと思っていたわ。そうしているうちにポックリ逝っちゃって……何でも出来るうちにやっておくものね……』


 しかしこんな形であれ、それを成し遂げることが出来るなんて彼女も思ってもみなかっただろう。

 最もそれが、良いことに繋がるとも限らない。話すべきなのか、彼女は迷っていた。でも私は背中を押した。そして彼女は決意した。本当の自分をさらけ出す事を……。


『私は、本当は貴女の姉でも、剣崎一心の実の子でも無かった』

「え……!?」

『この世界に逃げ込み、ギョウマの事を知らせた者……』


「!?……じゃあ……まさか……!?」


 ノゾミちゃんが声を挙げた。それに応えるように美影さんが優しくノゾミちゃんの頬に触れた。


『……えぇ。私よ……』

「……本当なのか……?本当にお前なのか……?『サヤ』……っ!」


 そう、美影さんこそが、ノゾミちゃんの探し続けた少女だった。長い時を経て、ついに彼女達は再会する事が出来たのだ。

 ノゾミちゃんも美影さんも泣いて……鞘乃ちゃんも、驚きはしたが、彼女達を祝福した。ノゾミちゃんの孤独は真の意味で救われたのだった。……本当に、良かった……。


 そして……ついに明らかになる。彼女達の世界が滅びる事になった、彼女達の……戦いの始まりが……。

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