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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
第1章
7/100

この世界の謎

「――コホン、良い?優希ちゃん」


 どこか自信が感じられる咳払いは、キャリアの差故の誇りだろうか。鞘乃ちゃんによるセイヴァー講座がスタートしたのは、私と鞘乃ちゃんが友達になったあの日だ。

 難しい事を聞いてちゃんと理解できるか心配だけど、冷静に考えれば勉強とは全然違うし、アニメやゲームの設定を覚えるのは得意だからきっと大丈夫!……いや、言葉のあやって奴で、本当にゲームだとか思ってるわけじゃないからね?


「じゃあまず基本的なおさらいだけど、そのグローブを介して私達が通信を取れるのは分かるよね?」

「そりゃー勿論。何気なくやってたし、あ、でもどういう原理でやってるの?」

「私の方で通信機を着用してるんだよ。ビヨンドの中の通信システムは常時繋がっているし」


 ……結構メカメカしかった。なんだか着ぐるみの中の人を見てしまった時のようななんともいえない衝撃を味わった気がした。

 正直テレパシー的な何かで話しているんだと思ってたよ。救世主の力っていう大層な代物なんだからそれくらいできても不思議じゃないなって。


「あ、じゃあ質問!」

「どうぞ」

「これは一体誰が作ったの?」


 これまでは人類側に味方した神様がくれた~とか、そんなロマン溢れる素敵な展開だと思ってたんだけど、メカメカしいこのシステムの構造からして、造られた物なんだろうって、思ってね。偏見でしか無いけど。


「それは……」


 質問に戸惑いを見せたが、それを振り切るように目をギュッと瞑って気を落ち着かせてから、彼女は口を開いた。無理をさせてしまっているようで罪悪感がまとわりついたが、彼女は「構わない」と、そのまま続けた。その時のどこか寂しげな笑顔は今も忘れられない。


「これは私の父が開発したものなの」

「鞘乃ちゃんの、お父さん?」

「えぇ」


 それは凄い。凄いけど――直接聞きはしなかったが、その表情と、「一人で戦ってきた」という表現から、わかってしまった。もう、彼女のお父さんは……。

 確信し、俯いている私に彼女は心配をかけまいと、誤魔化すように笑みを重ねる。


「父は自分の変わりに戦ってくれと、このシステムを私に託したの。でもそれは私に押し付けたのではなく、私を信じて託してくれたものだと思っているわ」

「鞘乃ちゃんと一緒だ」

「……そうね。私に託したものを優希ちゃんに託しちゃったけど、貴女にならきっと父も納得してくれると思うわ」


 鞘乃ちゃんとお父さんとの繋がり。大事にしなくちゃ。私は一層決意を固めてグローブを填めた手を握りしめた。

 だけど不思議に思うことがあった。家の中にたくさんある機械類の中にちょこんと置かれた写真。そこに写っていた鞘乃ちゃんの家族の姿は、開発者というようなナリには感じられなかった。


 剣崎という名字はかっこいいなぁ~って思ってたけど、どうも剣術の名門だったみたい。鞘乃ちゃんの素の力が人間離れしたものなのは、戦いの中でそうならざるを得なかったんだって思ってたけど、そもそもベースが良かったんだね。

 そしてお父さんは、剣術の師範として活躍していた達人らしいけれど……でも、どういう経緯で救世主の力と出くわすことになったんだろう?


 謎は深まるばかりだけど、その写真が目に映ったことで私の意識は別の方向に向いてしまっていた。


(鞘乃ちゃんって双子だったんだ)


 瓜二つの少女が微笑み、木刀を握る一面。本当に見分けがつかない。


(それにしても両方とも可愛いなぁ)

「……もういいかな?」

「あっ、ご、ごめん」


 難しい話は苦手だから、ついつい脱線してしまう。でも鞘乃ちゃんが私を認めてくれたからこそ話してくれていること。頑張らなくちゃ、と私は意気込んだ。




 そして私はセイヴァーについての基本的な事を学んだ。

 でもギョウマと異世界については、あまり解明されてないらしく、鞘乃ちゃんも勉強中だそうだ。

 ただ、気になる点はあり、三つの謎がそれを解き明かす鍵となりそうだ。


 まず、トンファンとの戦いの時にも説明した、あの世界に充満するエネルギー、そしてそれを発生させている虹色の空。


 次にギョウマ達の隠れ家。ギョウマ達はいつも大体同じポイントに現れるらしく、そこから『核』があるポイントまでは中々遠い。だから私達が到着するまで核に攻撃がいくことはほぼ無かったんだけど、どうしてそんな遠いところからわざわざ責めに来るのか。それはきっとその近くに奴らの隠れ家があるからと、鞘乃ちゃんは睨んでいる。

 だけどまだまだ未知の空間の中のそのポイントを調査するのは危険すぎる。これまでは鞘乃ちゃん一人しか戦える人はいなかったわけだから、尚更だ。この件は慎重にすべきだとの結論だ。


 そして三つ目。ギョウマ達の目的だ。世界を支配したがるのはわからなくもないが、その目的の為に自分たちがいる異世界を滅ぼす事になんの抵抗もないのかということだ。

 確かに謎だよね。大体、凄い力を持った奴らなんだから、次元を越える力を持っているのがいても違和感無いんだけどな。それで直接こっちを支配した方が早いんじゃ?って思うこともある。……まぁ、お陰で助かってるし、本当に次元を越える力を持っている奴がいないだけかもしれないけど。




 ……思い返せば結構な謎は残ってる。それを一つでも解き明かせれば、真実に近づけそうだけど。


「――きちゃん、ゆうきちゃん、優希ちゃん?」

「ハッ!?」


 そこで私の意識は今の時間に戻った。どうやら眠ってしまっていたようだ。


「おはよ。今日は頑張ったものね、お疲れ様」


 鞘乃ちゃんの笑顔が眩しい。

 鞘乃ちゃんのいった通り、学校に行かなくて正解だった。疲れた状態で難しいこと考えちゃうと、こうなっちゃうよね。

 ……でも良い匂いに私の本能が覚醒した。


「うおおおおおっ!豪勢っ……こんなに沢山!!」

「簡単に、って言ったけど張り切り過ぎちゃって」

「任せて!全部食べるよ!」


 ガツガツガツ!上品な料理に似合わない食べ方だが、私の本能が止まらない。止まらずに箸が進んでいく。あっという間にお皿の中は空っぽになってしまった。


「くはああああ……お腹一杯」

「うふふ、食べるの早いね」

「鞘乃ちゃんの料理が美味しいからね!お嫁さんに来てほしいくらい」

「!……ありがとう。ふふふ、救世主様の妻になれるなんて私幸せです」


 しばらく話した後、私は鞘乃ちゃんにバイバイして家を出た。

 鞘乃ちゃんの家は次元の扉を介し行くことが出来るが、部屋の持ち主である鞘乃ちゃんが定めた人間しか干渉する事はできない。だから部屋がバレる心配とかはないんだ。


 ……ただ、出てきた時に見つかったらちょっと面倒なんだけど。


「ぬあっ!?ゆ、優希!?お前どっから出てきた!?」

「えぇっ!?彩音ちゃん!?どうしてここに?」


 油断してた。だってここはもうほとんど使われてないし、もう結構遅い時間だし。ただ幸いな事に扉自体は見られてないみたいだ。誤魔化しは効きそう。


「うーん、そこの草むらに潜んで彩音ちゃん驚かそうって思ってたんだ!大成功だね!」

「そ、そっか。なんだよ付けてくるなんて悪趣味だな」


 ほっと一息。騙すのはやはり気が引けるが、私がいる状況は少し特殊なのだ。仕方がない。

 それにしても、彩音ちゃんの方はどうしてこんなところに一人でいるのだろう。私からすればそっちの方が心配なわけで。……まぁそれはお互い様か。

 とりあえず彼女に理由を尋ねた。考え事があった。彼女はそう言う。


「今はこんなに廃れちまってるけどよ、昔はそれはそれは立派な公園でな。良く遊びに来てたんだ。その名残か、ここに来ると妙に落ち着くからよ、今でもちょくちょく顔だしてるのさ」

「盗んだ感じのバイクで?」

「アタシゃそこまでグレてねえよ」


 ここなら冷静にいろいろと考えられるのだと言う。ならテスト勉強をここでやったら捗るね、なんて言っては彩音ちゃんのゲンコツが飛んでくる。……やっぱり、今の今までテストの事忘れてたんだろうな。

 しかし勉強どころか、難しい事を考えるのはごめんだ~なんて常日頃から言う彼女が、何を悩んでいるのか少し興味が出てきた。たぶん、自分の事ではないだろうな、とは薄っすらとではあるが感じているんだけど。


「ちょっと友達が大変でな。どうしてやったもんかって思ってさ」


 予想通りだった。自分の事ならばガンガン自分の意思を貫き通す。それが彼女の強さであることは、十分理解しているつもりだ。そして曲がった事が大嫌いで、ゆえに誰かを裏切るような真似は絶対にしない義理堅い子。長い付き合いだもん、それくらいはお見通しだ。


「彩音ちゃんも結構人思いだよね」

「お前にゃ負けるよ。それにアタシは無理だってわかったら簡単に諦めるさ」


 そうは思えないけどね。私も良く彼女の強さに助けられていたから。けど、彼女がここまで悩んでいるというのも珍しい。結構深刻そうだ。一体何に悩んでいるんだろう。


「良かったら話聞くよ?」


 そう言うと、彼女の様子が変わった。途端に真面目な目になり、私に冷たく言葉を投げ掛ける。何か不味いこと、言っちゃったかな……?身構えていると直後、彼女は言った。


「大したことじゃないって。それにアタシからすりゃ優希の方が大変そうに見えるけど」

「え?」

「ちょくちょく怪我してくるし、学校サボることも何度かあったろ」

「そ、それは……」

「……優希、最近なんかヤバイことに首突っ込んでねーか?」


 セイヴァーとしての戦いや鍛練を行っていたせいで、彼女の心にはそういう疑惑が生まれていたんだろう。そしてそれが今、破裂してしまった。

 不味いことになっちゃったな。どうしよう、なんて説明すれば良いんだろう……。

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