信念の叫び声
現実は、いつだって理不尽です。希望を持たせておいて結局簡単に突き落とすです。
……ましろには友達と言うものがいなかった、です。だけど優希さんが孤独から、ましろを引っ張り出してくれたです。でも本当は、皆さんましろの事を受け入れてくれてなんていないんです。
信じて貰えず、疑われ……それは今回に限ったことじゃないです。ましろはただ、皆さんの力になりたかっただけなんです。はじめての友達を助けたかっただけ……なのにましろはいつまでもその輪に入ることが出来ないです。現実は理不尽です。
ましろには親と言うものがいなかったです。どうしていなかったのか、詳しい事なんて知るはずもないですね。ただ気がついた時には見知らぬ場所で一人、立っていただけだったです。捨てられたとしか考えられないです。現実はやっぱり理不尽です。
でも良いんです。ましろには操さんがいる。友達も親もいなくたって良い。ましろにとって操さんが親であり、唯一気を許せる存在なのですから。
……その操さんの事すら、鞘乃さんは悪く言った。怒鳴り付けていた。良い気はしないですね。……いいえ、正直言うと、嫌いになりそうです。
鞘乃さん達が帰ってから、ましろは操さんの傍で寝転んでいました。見上げるその表情は、相変わらず、鉄仮面でわからないです。触れる手の甲は、黒い手袋のせいでその温もりも、その柔らかさも、いまいちわからないです。それでも良いんです。居てくれるだけで、それで……。
「操さん、大丈夫ですか」
声をかけると、操さんはなんの事やらと言った風に首を傾げ、その後さっきの事か、と理解し、返事を返してくれたです。
「ましろの方こそ大丈夫なの?」
なんの事ですか、とましろは返したです。すると操さんは言ったです。凄い顔してるって……。
「哀しいような、だけど怒ってるようにも見えるわね。もしかして、鞘乃ちゃん達の事を、私の為に怒ってくれているのかしら?ましろは良い子ねぇ!」
「でへへ……当然です。鞘乃さん達の事なんてもう知らないです」
そう返すと、操さんは撫でてくれていた手を、止めたです。
「……私を想ってくれているのは嬉しいわ。でも、それはダメよましろ」
「……どういうことですか」
「誰かと繋がりを持つことを諦めてはいけない……そう言いたいのよ。どれだけ傷つけられても、どれだけわかってもらえなくても、ましろが信じようと思った気持ちを裏切ってはダメ」
「……どうしてですか」
操さんもましろも、鞘乃さん達に利用されるだけされて、大切にはしてもらえないじゃないですか。それなのにどうして黙って従ってろって言うんです!?
ましろは操さんをも睨み付けたです。でも操さんは、いつの間にかましろの頬に溢れていた涙を拭ってくれたです。
「どうしてって、誰かを裏切って、一番傷つくのは貴女自身なのよ、ましろ」
「……っ!」
「それにこうして泣いているってことは、ましろはあの子達を本当に大切に想っていたってことよ。その気持ちを誤魔化すのは、これきりになさい」
……皆さんを大切に想っていた、ですか。そうかもですね。やっぱり、友達がいないのは寂しいですから。
……わかってます。付き合いや、絆を深める動機がましろにはまだ足りないだけで……皆さんは最低限、ましろを大切にしようとしてくれていたです。あの態度の悪い彩音さんだって、涙を流してまで、ましろを慰めてくれたです。ましろが安心するまで、傍に居てくれたです。
「……だけど、色々な事があったせいで、皆さんにこれからどんな顔で会いに行けばいいか……」
「ふふ、そんな事、ましろが悩まなくたって、きっとまた連れ出してくれるわ。あの日、新庄優希ちゃんが、そうしてくれたでしょう?」
「……そう、ですかね……」
「えぇ。きっと大丈夫よ。だから信じなさい。ましろならそれが出来るはずよ。貴女は辛い過去や私の修行に耐え抜いた強い子だもの!」
操さんの言葉に、ましろは勇気を貰いました。操さんはいつもそうです。ましろが悩んでいるとき、いつも背中を押してくれるです。
……しばらくして……操さんが買い出しに行って、ましろは留守番をしている時の事です。珍しく電話が鳴って、それに出ました。すると操さんの言った通り、皆さんは、ましろを連れ出しに来てくれたです。
「もしもし……ましろか?アタシだよ。彩音」
「は、はい!……なんですか?」
「いや、調子どうかなって。……もし良かったら、こっち来ねえか?葉月がさ、正気に戻って……後足りねえの、お前だけなんだよ」
「ましろ、ですか?」
「あぁ。みんな、お前を待ってるんだ。……アタシら、友達だろ?」
電話が切れたと同時に、ましろは次元移動装置を片手に走り出していたです。適当に書き置きし、皆さんの元へ急いだです。
……理不尽だらけの現実にも、信じ続ければ良いことだって起こるんだと、ましろは舞い上がっていたです。
そして信じる事を教えてくれたのは他でもない操さん。ましろは……貴女に拾ってもらえて、本当に幸せです。
操さん、ましろは……貴女の事が大好きなのです!
……だけど、現実は、やっぱり現実です。理不尽です。
ましろが皆さんのところへ、ちょうど誰にも見えない位置に跳んだです。それで後ろから皆さんを驚かせようとしたです。でも皆さんの前に、ピンクのギョウマが現れたんです。そして告げられた真実に、ましろは驚愕したです。
全てが真っ白になって、その場にうずくまったです……。
『彼女は我々にとって有益な協力者だ』
それは……操さんが裏切り者であるということを意味する言葉だったです。
(そんなの嘘に決まってるです……嘘です……嘘だッ!!)
言い聞かせてもましろには、どうすることも出来ないです。ましろは……操さんと戦う事なんて出来ないです。操さんがいなかったら……ましろは……。
(どうしたら……どうしたら良いんですか……っ)
***
明かされた操さんの実態。そしてそれを話したピンクのギョウマ。彼女の目的は一体何なんだ?張り詰める緊張感の中、彼女はそのままの調子で続けた。
『霧島操のお陰で装置は破壊出来るはずだった。実際に、その寸前までは来れたが……まさか『壁』を知っていたとは。驚いたよ、新庄優希』
「……へへ、ちょっと伝のお陰でね」
『フム……その言葉の真意はわからないが、とりあえず言っておこう。私は破壊を諦める気はない。いや、破壊しに、ここへ来たのだ』
装置を破壊する……だけどそれは単なる強がりでしか無い。だってギョウマには装置は壊せない。そんなわかりきった事実があるというのに、何故そんなはったりを言うのだろう?
と、思った瞬間、ズドドドドドッ!ギョウマの発した魔弾が私達の前で爆発する。
「そんな……ここでは攻撃は出来ないはずじゃ……?」
『残念だが、私はある方法を使うことである程度の時間ならばここでも力を使うことが可能だ。王にも他のギョウマにも出来ない……ある方法のお陰でね』
「それってどうやったの……?」
『話すと思うか?』
……だよね。でもその方法はこのギョウマにしか使えないって……このギョウマは特別みたいだ。
……予想通りでは、あるんだけどね。
『方法は話せないが名は教えておいてやる。私の名はピュゼロ。ギョウマ達を管理する者であり、王の右腕だ』
「……本当にそれが君の本当の名前?」
『……。……何が言いたい?もっとも、これ以上の無駄話は不要だがね』
ピュゼロは翼をはためかせ、旋風を巻き起こした。近くのものに掴まるが、凄まじい力で簡単に吹き飛ばされてしまいそうだ……!
『ここで攻撃を行うことは出来るが、壁を放出している……つまり壁の力を一番持っているその装置自体を破壊する事はやはり不可能だ。だから貴様らの命と交換させてもらうことにした。死にたくなかったら装置を壊せ』
なんという強行手段。上手く考えたものだ。
「……そんな条件、乗ると思うか!?」
葉月ちゃんのお父さんが反対の意思を示す。しかし……。
『良いのか?お前だけでなく、仲間達や、今は最愛の娘もいるのだろう?それらを死なせても本当に良いというのか?』
葉月ちゃんのお父さんはすぐに黙らされてしまった。
……そうなのだ。私達は今、互いに大切に想い合う人々と共にいる。人の信頼関係を利用した作戦というわけだね。……確かに私たちにとっては大きな弱点だ。
だけどここでみすみす装置を破壊する訳にもいかない。しかし……どうすれば……。と、思ったその時、風に立ち向かい、葉月ちゃんが私達の前に出た。
「皆さんは死なせません。その為にセイヴァーがいる。ようやくそれがわかりました。大切な人のお陰で……」
「葉月……!」
「お父さん……それに優希ちゃん達……みんなの想いを貸してください……行きます!!」
葉月ちゃんはセイヴァーになった。今度は、お父さんの想いも一緒だ。
その力でまずは、幾多の蔦を地面から生やし、それらで私達をがっちりと掴んでくれた。ピュゼロはそれごと吹き飛ばそうとするが……蔦はびくともしない。
「草木と言うものは丈夫なんです。しかも私のそれは皆さんの絆で育てた一級品……その程度の旋風では倒れません。さらに……!!」
蔦をさらに成長させ、それでピュゼロを攻撃する。
『何ッ!?』
「吹っ飛ばして差し上げます!」
蔦に翻弄されるピュゼロ……旋風が止んだ!その隙に強力な蹴りを繰り出し、ビルから落とした。それに続いて葉月ちゃんもビルから飛び下りる。
これで一先ずは安心だろう。装置は元々ピュゼロには壊せないし、みんなの安全の確保が先決だ。すぐに避難するように伝えた。
「おじさんも早く!」
「い、いや……葉月が戦っているんだ……!私も、逃げたくはない……!!」
「おじさん……!」
なんて人だ。戦う力を持っていないというのに、屈しない強さを持っている。……いや、こんな人だからこそ、これまでも装置を守ってこれたんだ……!
これが親の強さ……。理屈抜きで守りたいと願う強さを……私は感じた。
でも私達も気持ちは同じだ。葉月ちゃんの力になりたい。そうしてみんなで彼女のもとへ走っていた。
ピュゼロと葉月ちゃんの戦いは、はっきり言って圧倒的に差が開きすぎていた。
葉月ちゃんは能力や武器、持ち前のセンスでなんとか攻撃を繰り出すが、ピュゼロはそれの一歩先をいく。次元を越える能力を利用し、攻撃を次元の彼方へ送ることで回避したり、応用することで瞬間移動して葉月ちゃんに休むことなく攻撃をぶつけた。
もう葉月ちゃんはズダボロだ。おじさんはそれでも、目を離すことはなかった。泣きながら、しかし、彼女の事をとことん信じている……!
「頑張れ……!頑張れえええええええっ!!葉月!!!」
その叫びが届いたのか、葉月ちゃんはセイヴァーガトリングを構え、必殺の光線を発射した。もう力が残されていない限界の状態での必殺……それがどれだけ辛いことか、私にはわかる。でも葉月ちゃんは応えようとしたんだ。
「これが……お父さんの想いの力です!!」
だけど、その攻撃もあっさりと次元の彼方へと飲み込まれてしまった。
『……くだらん。そんな遊びに付き合う趣味はない』
冷徹に葉月ちゃんの絆を欠き消したピュゼロ。その表情は勝利を確信していた。が、しかし!!
『……なんだ?動けな……っ!?』
蔦がピュゼロを縛り上げていた!蔦を地面に潜らせ、次元の穴に飲まれることなくピュゼロに届かせたのか……!
『さっきのは……囮だと……!?』
「えぇ、この瞬間を待っていました。こうしてがっちり掴んでいれば、空間を移動することも不可能でしょう」
『中々やるじゃないか……!ク、クク……だが、父親の想いを踏み台に使うとは、所詮はその程度なのだ……絆の力などという下らぬ戯言は……っ!』
「……残念ですがそれは違います。踏み台にしたから届いたのではなく、お父さんが信じてくれたから届いたのです。私とお父さん、二人だからこそ貴女に届くことができたのですよ……!」
『!……そんな事、口では何とでも……』
「言えますね。それでも良いじゃないですか。誰にもわかってもらえなくても、自分が信じたいと想ったものを信じれば。実際、お父さんは私に信用されなくとも、私の事を何よりも大切にしてくれていました」
葉月ちゃんは拳に力を込める。もう限界のはずの彼女……それなのに、限界を越え、力を高めている。あれは……私が何度か体験した無限のエネルギーの開放……救世主の力が、葉月ちゃんの想いに反応して、力を貸しているんだ……!
「それでもお父さんがそう想い続けてくれたからこそ、私はお父さんとわかり合うことができた。貴女がどう思おうが勝手ですが……私はお父さんの意思を信じます!!」
葉月ちゃんの拳から放たれた必殺の一撃が、ピュゼロに炸裂した。




