紙切れの代償
――様々なアトラクションで遊び、平和で楽しい時間を過ごすことができた私達。その休憩中にも、甘く幸せな時間が待っていた。
「はぁ~~~やっぱりハンバーガーは美味しいなぁ」
「もう、ちゃんと噛んで食べなくちゃダメよ?」
「えへへ」
「もぅ、口の周りが汚れているわ……ふふふ」
以前の約束として優希ちゃんに奢ってあげることになったんだけど……これだけ喜んで食べてもらえると私まで嬉しくなっちゃうわね。
それに、二人きりでのびのびと遊べるのは随分久しいし、特にこういう場所では彼女の元気もより一層増すから――いつも以上に魅力的に映って、凄く……。
(……可愛い)
こんなに幸せな事があって良いのかしら。神様、本当にありがとうございます――私はひたすら天に心の声を響かせていた。
しかしここまで気を抜いていて大丈夫なんだろうかと思う気持ちもある。
みんなの方は問題ないかしら……。ちょっとした不安が顔を覗かせる。すると優希ちゃんが私の肩に触れ、呼び掛けてきた。
「鞘乃ちゃん鞘乃ちゃん」
「ん?どうしたの優希ちゃん」
「あれ、彩音ちゃん達じゃない?」
なんだ。みんなも遊びに来たのね。ということは特に異常は無しか。ホッとして優希ちゃんの視線の方向へ目を移す。
「……パーク内は車の侵入禁止なのだけれど」
ビヨンドが目の前に止まっていた。
……どうしてわざわざそれに乗ってくるのよ!!目立つでしょ!しかも止まったまま動かないし……。
仕方がないからそこへと移動する私達。扉を開くとそこには彩音ちゃんと……彼女に抱えられて眠るましろちゃんがいた。
……何かおかしいわね。
「……おう。悪ィな。邪魔しちまって」
「ましろちゃんどうかしたの?それに……葉月ちゃんは……?」
「大丈夫、寝てるだけだよ。泣き疲れちまったのかな……ハハハ……。ちと、いろいろあってな。……今から話すよ」
少し辛そうな笑みを浮かべる彩音ちゃんから、私達は全てを聞いた。そして耳を疑った。葉月ちゃんの失踪に。
……連絡を試みたが全く繋がらない。なんの理由があってのことかはわからないが、やはりセイヴァーグローブは奪われたと考えるしか無いようだ。
救世主の力は悪用することが出来ない。その事は承知しているがそれでも万が一と言うことはある。急いで探さないと。と、私がレーダーでの捜索を開始しようと意気込んだ時だった。
「……見つけた」
優希ちゃんがそう呟いた。もちろん私達の周りに葉月ちゃんの姿は見当たらない。しかし彼女には本当に見えているのだろう。例の――人を越えた力のお陰で。
彩音ちゃんは冗談を言ったのだと呆れていたが、私は優希ちゃんの示した場所までビヨンドを発進させた。そしてたどり着いた場所は、とあるビルだった。
「……なんかの会社みたいだぜ?簡単に侵入出来ねえじゃねえか」
「ましろちゃんの次元移動装置を借りましょう」
眠っているところ悪いけれどこれしか方法はない。拝借し、優希ちゃんと共に潜入する。
この先で葉月ちゃんが一体何をしているのか。もしかしたら何者かに脅されてグローブを奪ってくるように言われていただけかもしれない。
しかし目にした光景は――それとは真逆だった。
葉月ちゃんはセイヴァーになり、目の前にいる男に向かって攻撃を放とうとしていた!
「鞘乃ちゃんお願い!止めて!」
「わかってるわ!」
私はネオセイヴァーになり、『守護』の鍵で男を守り、驚いて動きを止めた葉月ちゃんに向かって突撃した。抵抗する葉月ちゃんだったが、私は『超化』の鍵でパワーを底上げし、そのままガラスを突き破ってビルから飛び降りた。
着地して向き合う私達。葉月ちゃんは私の姿を見て動揺している。あんなことをしようとしていたから当然だ。
「葉月ちゃんどうして?どうしてあんなことを……!!」
「あれが私のしなくてはならないことだからです」
あれが――人殺しが葉月ちゃんのしなくてはならないこと……?そのためにグローブを奪ったというの……?
「ふざけないで……!そんな事の為に……お父さん達の願いを……!優希ちゃんの絆を……利用するな!!!」
「……っ!!」
私の叫びに逆上した葉月ちゃんはガトリングを私に向け乱射した。あくまでもやめる気は無いと言うことね…。
だったらこっちも実力行使で止める!鍵装砲の一撃でガトリングの全銃弾を相殺。生じた爆煙を目眩ましに使い、接近してセイヴァーソード改で攻撃する。相手は人間とはいえセイヴァーだ。ある程度なら大丈夫だろう。
葉月ちゃんの近接格闘は大したこともなく、属性の草による攻撃も、剣ならば簡単に斬り裂く事が出来る。その衝撃で吹き飛ばされた葉月ちゃんは再びガトリングを発射した。
「通用しない手を使っても無駄な足掻きよ」
私の超感覚で一発一発の弾道を把握して剣で弾き無効化する。能力も武器も見せてもらった。でもこの程度では私は倒せない。
「もう諦めて。出来ることならこれ以上傷つけたくはないわ」
「……そういうわけにはいきません。これは私達のケジメ……いくら鞘乃ちゃんでも邪魔されるわけにはいかないんですよ!!」
「!?」
弾き飛ばされ地面に埋まった銃弾から蔦が伸び、私に襲いかかる。……なるほど、能力と武器を上手く組み合わせたというわけね。この数だと厄介だ。逃げられるスペースがないほどに蔦が繁殖していっているし……ちょっとしたピンチね……。
「けれどこの程度でネオセイヴァーは屈しない…!」
『変剣』の鍵を装填し、剣を別の姿へ変化させる。今回私がイメージしたのは刀身に幾多の『節』を持ち、伸縮自在となった剣。
「セイヴァーソード改……モード伸剣!」
その剣で全方向から迫り来る蔦を全て斬りおとし、そのまま葉月ちゃんに追撃する。しかし葉月ちゃんはさっきの合わせ技を自分のすぐ前の地面に向けて放ち、蔦と蔦を絡ませあって巨大な怪物を生み出した。
能力の呑み込み、そして応用が早い!セイヴァーとしてのセンスは中々なものだ。これだけ絡めば頑丈になり、そう簡単には斬り落とせない。攻防両方を兼ね備えた戦法とは素直に感心する。
だがそこへ、一本の鍵が反応して飛び出してきた。これはまだ発動したことの無い六番目の鍵。試してみる価値はありそうね。
「よし!行くわよ!」
装填と同時に次元の穴が私の頭上に開き、そこから蒼き龍を召喚した!巨大な敵には巨大な味方ってわけね。
私は鍵装砲を、蒼き龍は口から光線を放ち、蔦の怪物を簡単に吹き飛ばして葉月ちゃんに大ダメージを与えた。その衝撃で葉月ちゃんはセイヴァーを解除。ようやく決着アリ!ね。
それと同時に私も鍵の力を解除。蒼き龍は再び次元の穴に帰っていった。
(……結構疲れるわね)
この『蒼龍』の鍵は、威力が大きい代わりに莫大なエネルギーを必要とする。巨大な敵――先日の暴走進化態との戦いなどには有効そうだけど、他の鍵以上に乱発は不可能そうだ。
……まぁ、今は戦略の幅が増えた事を素直に喜んでおきましょう。それよりも問題は葉月ちゃんだ。
何やら必死そうだった。ただの人殺しの為にこんな事をしているというわけでもないか。それでも許されることをしているわけではないが……。
「とりあえず、説明してもらおうかしら?」
「……」
黙りこむ葉月ちゃん。そこへビルから降りてきた優希ちゃんが合流する。
「私も話してほしいな。何か訳があったんだよね?」
「優希ちゃん……」
「ほら、助け合うのが友達じゃない?」
「……わかりました。私もお二人と憎み合いたい訳では無いですから」
彼女は話し出す――。
まず前提として、彼女の境遇が今一度語られた。彼女の家はあるビジネスにより突然莫大な資産を得た。同時に父親は葉月ちゃんに冷たくなった。
「私はそれらの理由が何故かわかりませんでした。しかしつい最近になって、それを知る機会があったのです」
恐らくは……ネイドとの戦いがあったあの朝か。それならば彼女が戦いどころではなかった事にも辻褄は合う。だがそれが今回の騒動とどう関係しているのか、私にはさっぱりだった。
いいや、誰にも想像がつくまい。何故なら彼女の父が普通じゃないことに加担していたからだ。
「……思えば、父がなんの仕事をしているのか私は知りませんでしたし、知りたくも無かった。あんな父親に、興味なんて持てませんしね。それでも疑問に思っておくべきでした。貧乏一家が一転して今や富豪扱い……どんな手段を取ったのかと」
まぁ運良くそうなる人もいるでしょうけど…実際聞いていて現実味の無い話ね。
彼女の言い分だと、たぶん危険な事にでも首を突っ込んでいた……そう考えるのが最もだろう。しかしそれは私達の想像を越える危険度だった。
「……父は開拓者だったのです、ギョウマ達にとってのね」
「え……?」
「ギョウマは……どういう理由かは知りませんが、こちらの世界には直接干渉出来ないじゃないですか。それを可能とする……こちらと向こうとを繋げる為の研究を行っていたんですよ!」
「「!!?」」
何を言っているのかすぐには理解できなかったし、理解してもそんな話を信じられるはずも無かった。ただの一般人がそんな事出来るはずがないと。
しかし考えてもみれば私の父もそうだった。前例がある以上、これは否定できないか……。
「でもなんでそんな事……」
「決まってるじゃないですか。金の為ですよ!!あんな下らない紙切れの為にあの人は危険な研究を引き受けたんです!」
「まだそうと決まったわけじゃないでしょう?」
「他にどんな理由があって引き受けるような事なんですかね…?まぁ、どうせギョウマという存在がどれほど危険なものかわかっていないから平気でそんな事続けてこれたんでしょう」
そして今回襲撃したビルこそが……その研究施設。表向きは普通の会社というカモフラージュが成されているようだ。そして彼女が銃を向けていたあの男が…彼女の父親だったようだ。
「……はっきり言って父の事は嫌いですが、殺そうとは思いませんでした。しかし立ちふさがって……命を懸けてまで設備を守ろうとしたんですよ……自分の子供にはそんな熱意を向けてくれないというのにね」
彼女の目的はあくまでも研究により開発された装置の破壊だった。元々人殺しのつもりは無かったし、彼女は善意として装置を破壊しようとした。だから救世主の力は彼女を阻むことなく、セイヴァーとしての力を貸したのだろう。
そして『私達のケジメ』……彼女はそういった。あくまでも悪事を働いたのは父親だが、彼女も責任を感じているに違いない。だからセイヴァーシステムを奪うという荒いやり方をとってまで、自分の手で解決したかったのだろう。……それがきっと家族というものなのだ。
「そういうことだったのね……。でも一つ不可解な点があるわ。どうして葉月ちゃんはその真実を知ることができたの?」
これまで知る機会もなく、知ろうともしなかった彼女が、どうしてそれを知ることができたのか。
そこにはある人物が繋がっていた……。
「操さんです」
「え……っ!?」
「霧島操さん。彼女が教えてくれたのですよ……」




