暗黒の空間で
異世界のどこか、暗闇の中――『暗黒空間』の中にそれらはいた。この世界にある核を粉砕し、『向こう側』の世界を滅ぼし支配しようとする者達、ギョウマ……。
だがその実態は、戦い続けてきた剣崎鞘乃ですら分かっていない。存在する個体もまだ僅かな数のみが確認されているにすぎない。しかしそれらは確かに存在している。そして蠢く。
『――セイヴァー、カ……強ソウダナ……』
炎を纏うギョウマが言った。少しオドオドしく、不安そうに俯いていた。それを獣のような形相のギョウマが岩場の上から見下げていた。そしてバカにするように笑い声を挙げる。
『ハハハッ!!ビビリダヨネェ『バーナ』ハサ。恐インダッタラ此所ニ籠ッテナヨ。奴ラ、此所ハ探知出来ナインダシ』
『『エレム』貴様ッ!!俺ハ ビビッテ ナド イナイ!』
バーナというギョウマは苛立ちを隠せず炎をその背に灼熱の炎を、エレムというギョウマはその角にビリビリと雷光をチャージし始めた。二つの巨大な力が暗黒空間を震わせ、今にもぶつかろうとしていた。
『ヨセ!』
今にも二つの力がぶつかろうとしたとき、現れたのはルシフというギョウマだった。その鋭いサーベルで、二人を止めようとした……が、エレムは彼に攻撃を行わせる前に力を静めた。
それに乗じてバーナも攻撃を中断する。邪魔をされ、興醒めと言ったところだろう。しかしエレムはまだ顔をニタニタと歪ませていた。
――セイヴァーから逃げたヘタレとは戦うまでもない。彼が攻撃を止めたのはその為だ。馬鹿にするようにエレムは寝転がって余裕そうに腹を無防備にさらけ出す。
苛立っていないと言えば嘘になるが、止めなければ飛び火して余計に面倒なことになる。自分も周りも、ギョウマという獰猛な存在であるからこそルシフにはそれが分かっていた。
ルシフは面倒事が嫌いだった。セイヴァーとの戦いも、奴らの事をよく知らないからこそ撤退したに過ぎない。他の連中をセイヴァーに仕向け、観察してから動くのが利口で、面倒にも繋がらない。それを理解しているからだ。
だからこそそれを理解できない馬鹿な連中に、今は良い顔をさせておけば良い。ゆえに少々の苛立ちは抑えつつ……こう言った。
『俺ハナント言ワレテモ構ワン。ダガ、精々気ヲツケルンダナ。セイヴァーハ、危険ダ』
『経験者ハ語ル、ト言ウ事カ……ッ!』
バーナは妄想を膨らませてはゾッとしていた。バーナは慎重なギョウマだ。むしろ自分とは近しいギョウマだということをルシフは理解している。もっとも、バーナは単純に臆病なだけで自分ほど色々と考えている訳ではない事も理解している。だからこそほっておいてもなんら問題はない。
使えるのはもう一体の方だ。エレムはバーナをまた馬鹿にするように笑っている。しかし同時に、セイヴァーに興味を持ったはずだ。いくら彼の言うヘタレの話とは言え……ギョウマを退ける力を持った戦士。馬鹿ならすぐに戦いたいと思うに違いない。
そう、エレムという戦闘馬鹿のギョウマならば……。
『フゥン。ソンナニ セイヴァー ッテ危険ナノ?』
『アァ。凄マジイ強サダッタ……無闇ニ手ヲ出スナヨ』
『……ハイハイ』
そう言いながらも彼の目の色はすっかり変わっていた。本格的に狩りを目論む目……セイヴァー抹殺の為、雷撃を操るギョウマ・エレムは、動き始めようとしていた。
――言葉を話し、感情も持ち合わせている。が、人間とまるでわかりあおうとせず、その抹殺を企み、そして、世界を滅ぼさんとする悪の化身・ギョウマ。
何故人とギョウマは戦わねばならないのか?その謎を解き明かす為の新たな戦いの幕が開こうとしていた……。