降臨の重装鍵
「なに……あれ……」
新たなギョウマの出現に、私達は急いで異世界へと駆けつけた。そこで見たものはザコギョウマ達を叩きのめし、そして、周囲の大地や岩場を破壊する目茶苦茶な怪物だった。
まるで何が敵で何が味方かわかっていないような――暴走。もはやギョウマとすら呼んでいいのかわからない自我を持たない化物。その見た目は朽ち果てたようにボロボロであちこちが歪んでいる。一体何者なんだ……?
「とにかくこのまま暴れられると危険ね」
「うん、止めなくちゃ」
私は蒼の鍵を出す。あの姿なら止められるはずだ。
初めて『私』の意思でなるわけだから、少し緊張もしているが……。
「やるっきゃ無い!行くよ…『私』っ!!」
蒼の鍵を装填し、起動スイッチを入れ、私は蒼きセイヴァー・セイヴァーブレイブに変化した。同時に『過去』の感情が流れ込んできたが、ベースである人格はきちんと私に任せてくれているみたいだ。
それでも普段の私とは少し違うから、鞘乃ちゃんは驚いているみたいだけど。
「……本当に別人みたい」
「大袈裟だよ」
「じゃ、じゃあ……これが終わったらハンバーガー奢ってあげるって言ったら?」
「あぁ、嬉しいね。……ほら、何も変わってないだろう?」
「全然違う!いつもだったら語尾に『!』マークを五つは付けてはしゃぐわよ!」
「……そう言う感じか」
……まぁ、違いなんてどうだって良いじゃない。今は目の前の敵を倒す事を優先しよう。
敵に視線を戻す。相変わらず目茶苦茶だな。どうやら演技でああいう暴走をしている様子でも無さそうだし。
とりあえずは様子見で一撃かましてみるかとセイヴァーソードを創造する。この姿の力を詳しく把握出来ている訳じゃないし、この判断で間違いはないだろう。
「……ところで鞘乃ちゃん、今にもセイヴァーになろうとしているところ、悪いんだが……これは私一人でやらせてくれないだろうか」
鞘乃ちゃんが瞬時にハッとしたように目を見開く。
……このセイヴァーは、一度は私の意思とは関係なく、なっている。目の前のアイツほど型破りな訳じゃ無いが――所謂暴走という状態と言っても過言はない。
だからこそ彼女は不安なのだ。また私がそうなっているのでは無いかと。彼女はどうやら私の過去をある程度は調べたようだから、そう思っても仕方ないだろう。
これは理解できる。今のような発言は、確かに今の私はしないだろうからね。しかし私は今、完全にこの鍵の力をコントロール出来ている。
その証拠は――。
「……今回だけさ。ただ成し遂げたいだけ。この蒼の鍵で……過去を受け入れた私として、一人で戦い抜きたいんだ」
「本当に……?」
「信じてほしい。雰囲気が変わったって、リアクションが変わったって、私は新庄優希だ。鞘乃ちゃんの事は、何よりも大切に想っている」
――そうだ。ここに来る前、自分にとってどれだけ大切な存在だったかを実感した。彼女を大切に想う気持ちこそが、『今』の私が鍵の力を制御できている証拠なのだ。
そして、だからこそ見守っていてほしい。私が信じた想いの強さを。
私はそのまま鞘乃ちゃんに背を向け、走り出した。彼女は追ってこない。……ありがとう。
「……行くよ」
私は怪物目掛けてセイヴァーソードを振り下ろした。そのパワーは一瞬で怪物の大きな左腕を細切れに、そのスピードは自分でも驚くほどの速度で既に怪物の背後に回り込んでいた。
今の一撃は奇襲のようなもの。二撃目も同じにようにいくとは限らないだろう。とは言え、圧倒的だ。攻撃力、スピードはもちろん、全能力値も通常形態からグンと伸びている。おまけにデメリット無し。今のところ目立った能力は見当たらないが、シンプルに強い。
初めて使ったときは、見ているだけ、に近かったから、実際にこうして体感してみるとその強さがよくわかる。
「想定以上だ。……二撃目!」
蒼きオーラを纏わせ、セイヴァーソードを強化し、接近する。しかしやはりここで、敵は仕掛けてきた!衝撃波が私に向かって勢いよく飛んでくる。それをあっさりと真っ二つにしてやった――が、直後それが私の後ろで爆発を挙げた。
防いでいたら爆発に巻き込まれアウトだったというわけか。罠を仕掛けてくるとは、暴走している癖に中々おもしろい事をするギョウマだ。
「む……?ほぅ……『爆発』、か……」
怪物はその後、右腕を叩き込んできた。セイヴァーソードで受け止めた瞬間に爆発が起こり、私に向かって爆炎が襲いかかる。
もっとも、それすらもかわすのは簡単だ。私は既に爆発の射程距離外へと移動していた。が、そこへさらに衝撃波が多数私を狙い飛び交う。セイヴァーソードから打ち出された剣撃で、空中でそれらを不発に終わらせるも、怪物は依然、こちらを狙ってくる。
「やれやれ、少しは休ませてほしいものだが……」
私がため息をつくと、怪物は動きを止めた。休みをくれるのか?なんて冗談をついて笑みを溢すと、怪物がもがくように周囲への攻撃を再開した。
『助ケテ……ッ!』
その時だ。ようやく彼の声が聞こえたのは。そして私には見えた。怪物の中で苦しむ彼の魂を。
『誰カ助ケテクレ』
「やはりそうか。どうしてそんな姿にまで落ちぶれたかは知らないが、お前は『ネイド』だな?」
返答はない。と言うより、見ての通り必死そうだから、私に気づいているはずもない。しかし間違いはない。傷つけられなくとも爆発を操れるようになっているし、別人のように豹変していたわけだから、今の今まで気づくことは出来なかったけどね。
厄介なパワーアップをしたものだ。本人は全く嬉しくないだろうな。まぁ、ネイド本人の意思を聞かずとも、私がすべき事は一つしかない。
「安心しろ。そんなに慌てなくとも救ってやるさ」
セイヴァーソードを分解し、再構築する。救世の盾・セイヴァーシールド。
同時にネイドだったものは、衝撃波を私に向かって放った。それを防ぎながら私は特攻する。
この盾は、私の心の壁だった。
人を避け、何事にも関心を持たなかった私自身。でも本当は、そんなんじゃない。怖かっただけなんだ。また誰かを傷つけ傷つけられるかもしれない事が。
だから『私』はこの盾を創造した。自分を守るための盾がイメージとなり、それが具現化して誕生したのだ。
(だが今は目の前の助けを求める者の為に使おう……!)
爆炎を潜り抜け、到達した奴の目の前。これまでで一番巨大な爆発が私を襲った。しかしその爆炎をも巻き込んで、私の盾にエネルギーが集中されていく。
「これでお前はもう、誰も傷つけずに済む……さぁおやすみ、ネイド」
必殺の一撃を叩き込んだ。直撃したそれにより、ネイド自らが爆炎となり、消滅した。
戦いが終わり、私は鞘乃ちゃんの元へ戻った。結構あっさりケリがついて内心かなり驚いているよ。そう言うと鞘乃ちゃんに「リアクションがやっぱり薄い!」と突っ込まれた。はっきり言って自覚は無いんだけど……慣れてもらうしかない。これが過去との絆の象徴なのだから。
「と、とりあえず……その、怪我とか、無い?」
「あぁ、心配ないさ。鞘乃ちゃんの方こそ、やけに落ち着きが無いように見えるが」
「大丈夫!えぇ、本当になんともないわ!」
……まぁ、このぎこちなさを見るのもおもしろいんだけどね。
「でも、いつまでもこの姿でいるのも何だし、そろそろ戻ることにするよ」
「そ、そうね。それが良いと思うわ」
鞘乃ちゃんがどことなく安心したように不器用に笑みを浮かべる。
でも残念ながら、まだ戻れそうにもない。
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
つんざくような叫び声と共に、突然巨大な爆発が起こり、それが吸い込まれるように一ヶ所に集まり、形になっていく。
そしてそいつは身体を巨大化させ、再び私たちの前に姿を現した。
そいつは――ネイドは再生に、さらなる進化を遂げ、私達の前に再び姿を現したのだ。それほどの力をまだ残していたとでもいうのだろうか。
「……おかしいな。確かにネイドは強いギョウマだとは思っていたが、ここまでの力ははっきり言って出せるはずがない。一体どうやって……」
「考えるのは後よ!優希ちゃん、来るわ!」
「わかっている。鞘乃ちゃん、私の後ろへ」
今の奴は、暴走に更に大きな力を上乗せした、所詮は力だけに頼りきった進化形態だ。しかしその『力だけ』が厄介なのだ。セイヴァーシールドでも耐えるのが厳しい一撃が浴びせられる。
凄いよ。私の新たな力まで上回ってくるなんて、これこそ想定以上だ。だが……。
「こんなものは本当の強さじゃない……!!」
セイヴァーシールドから光弾を発射し、奴が今にもこちらに放とうとした二撃目の衝撃波に誘爆させ、動きを封じた。
――今がチャンスだ。私の得た強さの全てを解放する。
「優希ちゃん、私も――」
「言ったはずだよ、手は出さないでくれと」
「だけどあんなに強い相手……優希ちゃん一人じゃ無理よ!」
「問題ない。私はまだ出しきっていないんだ。全力を」
「え……!?」
この蒼の鍵を解放する条件は私自身を受け入れる事。だがそれは、私一人では到達出来なかった道だった。そう、この鍵を開く条件は――この鍵に秘められた力は、一つだけじゃない。今こそ、そのもう一つを解放する時だ。
力の解放と共に、蒼の鍵が変化していく。
セイヴァーグローブのスロットをはみ出すほど長くなり、そしてそれに重なるようにもう一本、紅い鍵が出現し、合体した。
紅い鍵にはデジタル時計のような小さなディスプレイが備わっており、そこには『savior:brave』の文字が刻まれている。
そして鍵の側面にはスイッチが備わっており、それを入れることで刻まれたコードが変化していく。
「『savior:zwei』――セイヴァー……ツヴァイ……?」
一連の出来事に戸惑いを隠せずにいる鞘乃ちゃん。だが、そんな君こそが私を変えてくれた。私を強くしてくれた。
鞘乃ちゃんの存在こそが、私がセイヴァーであり続けられる理由であり、進化出来る『鍵』だったんだ。
「そう。これこそが私が信じる……本当の強さだ!」
再びセイヴァーグローブの起動スイッチを押し込んだ。鍵の力でセイヴァーの姿が崩れ、再構築される。真っ白い衣装に身を包んだセイヴァーへと変化した私。しかしすぐにそこへ、紅と蒼のオーラが鍵から放たれ、鎧として実体化し、装着される。
右腕に鞘乃ちゃんとの絆で生まれた紅を、左腕に私の意思で誕生した蒼を。そしてその鎧の力で白の衣装は紅と蒼で染まっていく。
どちらかの力を借りるのではなく、どちらの力も一つにして、今ここに、究極のセイヴァーが降臨する!
「さぁ、これからが本当の戦いだよ!!」




