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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
第5章
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乱戦の果てに

「うりゃああああああああああっ!!」


 異世界に辿り着いて最初に待ち構えていたのはザコギョウマ達だった。私と鞘乃ちゃんはすぐにセイヴァーとなり、それらと交戦している。

 私は戦い始めてすぐに違和感を感じた。ザコギョウマ達と戦うのは久しぶりだ。その間私も強くなった。だからこの程度の敵は余裕という余裕に違いない。

 しかしどうもおかしい。何度倒したって奴らは立ち上がり続けてくる。この理由は、おそらく――。


「優希ちゃん!こいつら……強くなってるわ!」

「やっぱり!?くっそー……こんなところで消耗してる場合じゃないんだけどなっ!!」


 これは以前もあったことだけど――やはりザコギョウマを強化する力が彼らにはあるのだろうか。それともザコギョウマも成長するんだろうか?


 だけどちんたら戦ってもいられない。


「……仕方ない。一気にフィニッシュだ!!」


 セイヴァーソードの必殺の一撃でなんとかザコギョウマ達を戦闘不能にする。一気に力を使ってしまったけど――いや、これがたぶん奴らの狙いなんだろう。その時ようやく奴らは姿を現したからだ。


『クハハハハッ、イイ様ダナァ新庄優希!』

「ルシフ……」


 ルシフ。そして彼が連れてきたであろうギョウマが三体。その中の一体――凄まじいオーラを纏うそいつは、ルシフと並んで高笑いを挙げた。


『コノ程度ノ奴等……簡単ニ滅ボシテシマウガ、良イノカ?』


『ドウゾ御勝手ニ。ッテイウカ、ソレガ目的デ オ前等ヲ呼ンダンジャネーカ!……ハハハッ、ジャア任セタゾ!』


 ルシフはそのギョウマにそう告げると、引き戻していく。自分の安全は優先ってわけか。本当に卑劣なやり方だよ。


 でもそれは本当の彼じゃない。はやく救ってあげなくちゃ。私はギョウマ三体の前に立ち、鞘乃ちゃんに告げた。


「ここは私がなんとかするよ。だから鞘乃ちゃんはルシフを追って」

「えっ!?でも三体相手に一人じゃ……!」

「急いで!暗黒空間に戻られる前に!」


 彼を止めるって誓ったんだ。それは鞘乃ちゃんも同じ。

 だから鞘乃ちゃんは私の想いを理解してくれた。そして私達は二手に別れる。


『行カセルトデモ……グハァッ!?』

「悪いけど鞘乃ちゃんの邪魔はさせないよ!」


 側近の二体のギョウマを叩きつけ、私はセイヴァーソードを構えた。それに対してついに、強大なパワーを持つそいつが私の前に降り立つ。


『俺ハ元々戦イタイダケダ。アイツ等ガ ドウナロウト興味ハ無イ』

「そっか。じゃあとことん勝負!だね」


 さて、こいつを止めきれるかどうかが問題だ。最初から全力で行くしかないね……。


『ソレデハ、オ手合ワセ願オウ。我ガ名ハ『ネイド』!!』

「自己紹介ありがとう!私は新庄優希!こちらこそよろしくお願いします!!」



 ***



 優希ちゃんを残し、私は走っていた。

 三体を相手にするなんて不利すぎる。それでも彼女の提案に乗ったのは、私と彼女の間で結んだ約束があるからだ。


 そして私が彼女の想いを理解してルシフを追っているように、彼女も私の想いをわかってくれているはずだ。


 信じているから離れていられる。私は私のすべき事を全うするだけだ。


「ルシフ!!」

『アン?……ウオッ!?』


 私は奴に鍵装砲を放った。しかし間一髪でかわされた。

 でもお陰で引き止める事には成功。足の動きを止め、互いに視線と視線で火花を散らしあった。


 先に口を開いたのはルシフだった。


『……ナルホド。新庄優希ハ切リ捨テタ、トイウ訳カ』

「人聞きが悪いわね。任せたのよ」

『口デハ何トデモ言エル』

「そうね、お前にはどう説明しようと無駄ね」


 話はすぐに終わった。ルシフが大人しく黙ったのも、理解したからに違いない。もう私はくだらない減らず口に付き合うほど愚かではない。

 私は剣崎鞘乃個人でなくセイヴァーとして、ルシフではなくギョウマと、戦っている。

 そう、輝龍兄弟と優希ちゃんが託してくれた想いの為に……。


「みんなの為に私も……いっちょ頑張る!」



 ***



「でやあああああああああっ!!」


 始まった私と三体のギョウマの対決。予想通りその動きは、二体の側近ギョウマが私からネイドを守るために必死に壁となってきたことだ。

 予想外なのは、ネイドがまるで動かず仁王立ちしていること。たぶんなにか企んでるね。いや絶対なにか企んでるね!!


 ただこいつら、意外とタフだ。それに私は既にザコギョウマとの戦いで少し消耗している。救世主の力――想いの力は、出そう!って思って出せるものじゃない。出来たら必殺技を出せるだけのエネルギーはネイドに温存しておきたいし……。


 と、少し苦戦を強いられる私へ通信が入った。


『優希さん!!ましろ達にお任せください!』

「でも出てきたら危ないよ!」

『ご心配なく!ビヨンドを使わせてもらいます!』

「ええっ!?」


 余計にダメでしょそれ!ビヨンドくんは戦闘用の兵器じゃないんだ。出来ることと言えば轢き逃げアタックぐらいしかない。確かにそれは相手が少なければ通用するかもだけど――今は三体もいる。かわされてしまえば反撃する手もない。逆にピンチに陥るのはましろちゃん達なのだ。


「ダメだよましろちゃん!大人しく――」


 言いかけた瞬間、私はその音を耳にし、咄嗟に後退する。

 キイイイイイイン……飛来するそれはギョウマに着弾し、凄まじい爆発を起こした。


「……え?なにこれ……」


 その威力に少し唖然となる私。

 振り返ると、そこには様々な兵器をその身体に組み込まれ、進化したビヨンドくんの勇姿があった!


『これぞビヨンド・マークⅡなのです!!』


 その兵器の数々には見覚えがある。ましろちゃんがさっき点検していたものだ。

 さすがに多く造りすぎなんじゃ、とか思ってたけど、元々こうやってビヨンドくんに積む事を想定してたって事か……。


 同じく乗り合わせる葉月ちゃんと彩音ちゃんからも通信が入る。


『なんとか完成、間に合いました。このビヨンドさんなら、並のギョウマ程度に遅れは取りません!』

『そう言うことらしいぜ!だから優希!お前ははやく親玉を片付けちまえ!』


「……ありがとうっ!!」


 ましろちゃんが……そしてみんなが作ってくれた道、無駄にはしない!

 私はセイヴァーソードを片手に、ついにネイドに突撃した!


「たあっ!!」

『ムゥンッ!!』


 刃と拳が衝突する。このネイドの凄いところは、刃をまともにやりあえる頑丈な拳。

 それだけではない。直後拳が爆発した。しかもその拳は爆発の方向を操るくらいなら出来るようだ。私にだけその恐ろしい威力が伝わる。この爆発能力こそが奴の能力……!

 私は衝撃で吹き飛ばされる。しかし必死に喰らいつく。私に出来るだけの事をやり遂げるんだ!


『何度ヤッテモ無駄ダッ!』

「みんながくれた想いに無駄なんて無いッ!!」


 ネイドの拳と刃が再びぶつかる。そう思われたが、私はすぐにセイヴァーソードを引っ込め、奴の後ろに向かって飛び込んだ。触りさえしなければその能力は発動しない。


「そしてこの瞬間こそ、チャンス!いっけええええっ!!」


 ネイドは屈強な身体を持ち合わせ、能力の威力も大きいが、その分殴ってくるスピードは遅く、隙だらけ。一度かわしてしまえば、その胴はがら空きだ!

 私はセイヴァーソードでついにネイドに大きなダメージを与えることに成功する。一点に秘めた全エネルギーが炸裂し、堪らずネイドは崩れ落ちた。


『マサカ……コレ程ノ威力トハ……グ……グハッ……!!』


 ネイドの口からは勢いよく血が流れた。しかし尚、奴は余裕そうに笑っている。


『オ、驚イタ……オ前ヲ侮ッテイタゾ……シカシ……コレハ、オ前ノ『ミス』ダ……』

「えっ……?」

『俺ノ能力ハ――『傷ツケバ傷ツクホド』威力ヲ増ス……タダ触レレバ発動スル能力デハ無イ……ッ!』

「!?」

『ソレヲ見抜ケナカッタ……オ前ノ ミス ダッ!ククク……コレ程ノ ダメージ……ドレ程大キナ威力ニナルダロウナ……!?』


 私はすぐにその脅威に気づいた。

 これは罠だったんだ。仁王立ちして、何か企んでいるように見せていたんじゃない。誘っていたんだ、攻撃を。そして隙の大きい攻撃をわざわざ仕掛けたのも……私に攻めさせ、自分にこうやって大きなダメージを与えさせるため……!

 それを上回る威力の攻撃を仕掛けてくる。だから出来るだけ遠くに離れようとした。

 が、もう一つ不味い事に気づく。後ろにはみんながいる。まだギョウマと交戦中だ。私が逃げ切れても、みんなが巻き込まれてしまう。


「……セイヴァーブラスト!!」


 緑の鍵で変化した私はその超スピードでビヨンドくんの前に移動し、旋風を巻き起こした。

 風の盾――セイヴァーグランの方が防御力は優れているが、広範囲を守るにはこれしか手がない。でも恐らくこの後来る爆発の威力はこれじゃあ防ぎきれない。


 ……だから私自身が壁になる。


「セイヴァーシューター……!みんな!ビヨンドくんにしっかり掴まっておいて!!」

『優希さん!?何をしようとしてるんですか!?』


 今日は必殺を既に二回も使っているんだ。これ以上は限界ってもんだよ。でも、やるしかないんだ!!


「うおああああああああっ!!!」


 セイヴァーシューターから撃ち出された疾風弾が、爆発とぶつかる。その威力は絶大すぎた。これでも防ぎきる事は不可能だった。しかし威力弱めることは出来た。私は風を纏い、爆発に特攻する。そうして爆発をなんとかやり過ごすことに成功した。


 でも当然私には爆発の威力が響いた。私はセイヴァーの状態を解除されてしまい、地面に倒れた。

 すぐにましろちゃんがビヨンドくんから降り、私に駆け寄る。


「優希さん!!」

「大丈夫大丈夫……気にしないで……」

「なに笑ってるんですか……そんなんだから貴女は馬鹿って言われるんですよ!」


 ましろちゃんが泣き崩れる。おかしいな。


(みんな無事なんだから、笑っててよ……)


 同じく来てくれた彩音ちゃんも暗い表情で私を見ていた。


「馬鹿野郎。またそうやって無茶なことしやがって」

「大丈夫……これは……死なないって計算してやったから……危なくない無茶だよ……」

「そう言うこと言ってんじゃ……はぁ、今更言っても治る馬鹿じゃねえか」


 呆れた風にしながらも彩音ちゃんは私を抱えて運んでくれようとした。彼女は中々素直になれないだけでいつも心配してくれている事は理解している。

 しかしこれでみんな助かってめでたくおしまいってわけじゃない。ネイドは攻撃と同時に私に受けたダメージで膝をつき、動けずにいるが、側近のギョウマ二体は私達を狙っている。


『そうはさせませんっ!!』


 ビヨンドくんの中で待機してくれていた葉月ちゃんがミサイルやレーザー砲で時間を稼いでくれた。でも最初に言ったとおり、このギョウマ達はタフだ。攻撃を受けながらも少しづつ私達に迫る。


「……へへ、ごめん。私が動ければ……」

「なんでお前が謝るんだ。お前は確かに馬鹿だが、お前がアタシらを守ってくれた事実は変わんねーよ」

「けど――」

「確かに。ちとやべえかな」


 ギョウマ二体はエネルギーを集中させていた。それが放たれれば私達はお陀仏。はやく逃げなくちゃ。

 でも傷ついた私は足手まといだ。だから私を置いてみんなで逃げてくれればそれで良かった。だけど彩音ちゃんは……それを許さない子だって事も知ってる。


「ましろ、優希連れてはやく行け!!」

「何言って……」

「忘れたかよ優希。アタシも馬鹿なんだぜ?」


 彩音ちゃんは私達の前へ出て、大きく手を広げ……それらを受け止めようとしている。


「ダメだ……ダメだよそんな事!!」

「うるせー!!もう他に手がねえだろ!!」

「ある……っ!!私は……セイヴァーなんだ……っ!みんなを守れる……救世主なんだ……っ!」


 そんな力を持っていながら、目の前の友達を失ってたまるか。

 私は必死に手を伸ばす。しかしそれをましろちゃんが掴んでそのまま退避しようとしていた。それでも私は、足を止めなかった。


「やめてください優希さん!!もう優希さんには戦う力が……っ!」

「まだだよ……!こんなもんじゃないでしょ……セイヴァーは……っ!こんなところで私は……止まれないんだよ!!」


 私はましろちゃんの手を振りほどいて進んだ。そしてすぐにずっこけた。それでも身体を引きずり彩音ちゃんにところへ……!


 今の私なら……守れるんだ。もう私はあの頃の私とは違う。そうだ。あんなくだらない、思い出すことも嫌になるあんな自分とは違う!


 ――あんなくだらない自分とは……違う……?


 私はその瞬間、止まっていた。忌々しい過去の事を思いだして止まってしまっていた。

 そしてその隙に、ギョウマによる攻撃が、彩音ちゃんに向かって撃ち出された。



 ***



 ルシフとの戦いが始まって、ものの数分。私は善戦していた。

 あの鋭いサーベルを持たぬルシフなど、もはや敵ではない。

 それでも『善戦止まり』なのは私が本領を発揮できていないからだろう。

 何故だか嫌な予感がするのだ。もしかして、みんなの身に何か起こったのかしら?すぐにでも確かめに行きたい。私の意思はそっちに向いてしまっていた。


『ウオオオオオッ!』

「……遅いっ!たァッ!!」

『グハッ!!……フンッ!コノ程度ッ!』


 長引く戦い。やはり心が別の方向を向いているようじゃ、隙が出来てしまう。撤退するべきか……?


 それを悩んでいたその時だった。

 ずしり。大きな重圧が、私を飲み込んだ。そう、一瞬にして私の心はこちら側に引き戻された。


 生命の危機。それを体感したと思った。

 しかしそれは私だけではない。いや、私以上に、ルシフは大きく震え、ガチガチと歯を鳴らしていた。


『ア……アァ……ア……』

「何……?」

『何故……何故ナンダ……何故オ前ガ……オ前ガ空間ノ……外ニ……!?』


 私はルシフの視線の先を見た。そして直後、それまで以上のプレッシャーに、息を止められていた。

 それほどまでの存在感。にもかかわらず、ここまで近づいていたことに私はまるで気づくことができなかった。この超感覚を持ってしてもだ。


 ……いや、違う。気づいていた。しかし、それを見る事を心が拒んでいたんだ。絶対的な……絶望、恐怖に。


『何故ダ……『王』……ッ!!』


 おぞましい悪の支配者はついに私の前に姿を現した。はじめて知る心の底から震え上がらせる恐怖を前に、私はどう立ち向かえば良いのだろうか。

 その恐ろしさを前に、世界は完全に言葉を失っていた――。



 ***



 全てを飲み込む絶望の君主・『王』。その力はとてつもなく巨大で、ネイドにも届いていた。

 しかしネイドはもう一つ、何かを感じていた。それには遠く及ばないちっぽけな力だ。しかし王の持つ絶望とは真逆の性質だったからこそ、それは彼のなかにスッと入り込んできたのかもしれない。


『希望』――――。


 何故だ?奴らのそれは今、消されようとしているはずなのに。

 それなのに何故か、消えるどころか大きく、大きく、その力を増していく。


 そしてネイドは見た。自分の目でしかと。その上で疑った。セイヴァーは完全に戦闘不能状態になっていたはずだし、それを守ろうとした彩音は二体のギョウマ達に消し炭にされているはずだった。

 しかしギョウマ達の攻撃は届くことはなかった。


 届く前に欠き消された。

 神秘的に輝く……蒼き光によって……。


「……優希、さん……?」

「優希……?お前……今……何を……?」


 優希は一言も言葉を発することはなかった。ただ、彩音を気遣うように後ろへ追いやり、その身体から感じられる力でギョウマ達をたじろかせていた。

 争う事が嫌いで、どんな時でも優しさを貫いてきた優希からは未だ感じたことのないほどの冷たく張りつめた威圧感。それが何を意味しているのかは、そこにいる誰も理解できなかった。


 優希は二体のギョウマを前にセイヴァーグローブを構えた。そして、その手の中で輝きを放つモノは――。

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