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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
第4章
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宿命の白騎士

 ――誰にでも、避けられない戦いとは訪れるものだ。


 私こと剣崎鞘乃は、父の意思を継ぎ、戦ってきた。もちろんやりたくてやっている訳ではない。かと言って、深く考えて戦ってきた訳でもない。単純に、私がやらなきゃならない事なんだって、そう思ったから戦っている。

 私だって、普通の女子中学生らしい生活をしたかった。でも、逃げちゃダメだから。いや、逃げるわけには、いかないから。だから戦い続けている。


 ――そういうのをたぶん、宿命って言うんだと思う。だから、この戦いも、私にとっての宿命だ。


(そして、この宿命に挑むだけの心を与えてくれたのは――……)




 ――破壊者騒動が終わってから、一週間程が経った。

 その間、ギョウマが攻撃してくることもなく、無事に過ごせたが、その日は空気が違った。

 宿命というものは、身近な日常の中にもあることだ。ほんの些細な出来事でも、人によっては大きな出来事と化す。


 ……優希ちゃんは今、それに立ち向かっている。そして苦しんでいる。あの優希ちゃんがこんなに辛そうな表情をするなんて、信じられなかった。

 だけど信じているわ。貴女なら……貴女ならきっと!そいつにも負けないはずよ。頑張って……!


「うぬぬぬぬぬぬぅ~…………っ!」


「コラァ!新庄!!静かにしなさい!何度言わせるつもりだ!次騒いだらその時点で零点だからな!」

「はっはぃぃ……あっ、し、静かにね……」


 口を塞いでコクコクと首を振る優希ちゃん。

 しかし酷すぎる!先生、これでも優希ちゃんは耐えているのよ!?本当は今すぐにでも叫びたいはずだわ!

 それでも貴女は剣を持ち、立ち上がる。立派よ……諦めなければきっと勝機はあるわ!勝つのよ……数学と言う悪夢に!!


「剣崎、よそ見をするな」

「あっハイ」


 ――ついに中間テストと言う名の地獄が訪れたのだ。

 最後まで諦めずに戦い続けた優希ちゃん。しかしその裁きを下すは鮮血の如き赤ペンを振りかざす先生。血も涙も無い冷酷なその手が優希ちゃんに迫る。果たして彼女の命運は如何に……?


 場所は変わって我が家。放課後、みんなで集まり、今日のテストの出来についてを語り合った。

 しかし優希ちゃんは、机に突っ伏して頭を抱えていた。


「……たぶん駄目だろうなぁ~あ~……あああああああああっ!!」

「優希ちゃん!!諦めちゃ駄目よ!そうよね?」

「は、はい。そうですよ、優希ちゃんはここ数日必死に……」

「止めとけよ……。アタシらは永遠に呪われたままなんだよ、赤点の呪いに」


 彩音ちゃん……っ!なんて酷いことを……。

 私はカッとなって彼女の方を見る。彼女は愕然としていた。この負のオーラは……そう。駄目だったのね……。


「もうアタシらには絶望しかねえのさ……」


 いつもの喧しすぎる程の突っ張り魂を感じない。たぶん霊圧的なものが尽きてしまったのだ。


「……それでも私は優希ちゃんを信じるわ!優希ちゃんが積み重ねてきた努力を!」

「鞘乃ちゃん……!」

「優希ちゃん……!」


 私達は手を取り合った。きっと大丈夫。私は彩音ちゃんが地獄から貴女を引きずり込もうとしようが、先生が敵だろうが、ずっと優希ちゃんの味方よ。優希ちゃんが追試を受けるというのなら私だって一緒に付き合う。貴女を絶対に一人には――。


「……あの、それいつまで続くです?」


 ――こうして茶番劇は幕を閉じた。我らが期待のニューフェイス・泉ましろちゃんの一言によって。

 ……そうね、のんびりしている場合ではないわね。今日は大切な実験なのだ。彼女がこの短期間で造り上げてくれた、新たなるセイヴァーシステムの起動実験を行うことになっている。


 その為に私達は異世界へ訪れた。万が一何かあってもここなら回りを巻き込む心配もない。


「それにしても、もう完成させたなんて、ましろちゃんは凄いなぁ。よーし、ご褒美になでなでしてあげるね!」

「えへへ……こ、こほん。優希さん、まだ安心するのは速いですよ。むしろこれからが本番なのです!」


 ……ましろちゃんが、ちょっぴり羨ましい。


(――って、変なこと考えてないで、集中しないと!)


 ましろちゃんのアイコンタクトを受け、私はセイヴァーグローブを填める。お父さんの造ったモデルとは違い、これは右手に装着する。そしてそれに備わっている起動スイッチはこれまでと同じ。

 私はもう、セイヴァーシステムに対する恐怖を克服した。緊張していないと言えば嘘になるが、きっと大丈夫だと私は信じている。だから私は迷うことなく起動スイッチを押し込んだ。


 瞬間、グローブから蒼き光がキラキラと散らばり、私を包んでいく。


 ――誕生する新たなセイヴァー。その姿にみんなが驚いていた。

 私自身もそう。この前優希ちゃんの代わりになったセイヴァーとは、また違う姿だったからだ。

 少しメカメカしさ(という表現で良いのだろうか――)が増し、かつより動きやすそうなものになっていて、武器を産み出す特殊装甲は左腕に移っている。そしてよりパッと見てわかる大きな違いは全身のカラー。蒼から白を基調としたものに代わり、だけどあちらこちらに蒼色のラインが刻まれている。


 従来のセイヴァーよりもヴァージョンアップしてるって感じ。まだ、見た目の話だから、性能がどうなのかはわからないけれど……ましろちゃんは自信満々に頷いているから、とりあえずなることには成功したようね。


「鞘乃ちゃん……すっごく格好いいよ!」


 優希ちゃんが目を煌めかせている。……なんだか、照れちゃうな。白のセイヴァーの癖に顔は紅く染まってしまった。

 ただ気になるのは、性能面。どれ程のものか、試させてもらおうかしら。


「……丁度いい的もいるしね」


 と、私は辺りをぐるりと見渡した。ザコギョウマがあちこちで『静止』している。

 この光景は以前も見たことがある。あれはそう、奴らの潜む空間へ攻めこもうとした時だったかしら。

 私達には無害だったとはいえ、奇妙であることに変わり無い。いろいろおかしな点も見当たるし、こいつらは本当に只の下級兵士で留まる存在なのかしら。


 まぁ、それを考える機会も戦いが続く限りは十分ある。今はチュートリアルの標的として、頑張ってもらいたいが――。


「……とりあえず、動いてくれた方が私としてもやり易くていいのだけれど」


 敵とは言え、無抵抗の相手をボコボコに叩きのめすのは気が引ける。練習相手としても、そっちの方が良いしね。

 そう私が思うと、奴らは私に向かって攻撃を仕掛けてきた!


「へぇ、この前といい、随分と聞き分けの良いこと……!」


 本当にこいつらは何を考えているのかしら……でもこれで心置きなく試せる。このセイヴァーの力を……!


 私の能力は『超感覚』。それは変わりなくこのセイヴァーでも使うことが出来た。

 ただ、ザコギョウマ達の強みと言えばその数。攻撃自体を見きれても、物理的にかわせない。身体がそれに追い付かないからだ。

 しかしさっきから一撃も当たる気配がない。身体が思うように動くとはこう言うことなのだと私は体感した。


「……じゃあ次は、反撃っ!」


 光を拳に纏わせ、そしてそれを打ち出す。それは分裂し、屈折し、ザコギョウマ達一体一体に確実にヒットさせられた。パワーも申し分無い。


 私の超感覚、それを十二分に使いこなせる性能が秘められているようね……。

 ましろちゃんは「驚いたですか?」と誇らしげに腰に手を当てて笑みを浮かる。私はすぐに頷いた。

 ――実際、想像以上って感じだ。グローブ自体はほぼ変わって無かったから、最初はほんの少し良くなった程度で、後は単なる据え置きレベルでしか考えてなかった。

 しかしこれはかつてのセイヴァーシステムを格段に越えたもののようだ。


「甘く見てもらっては困るです。それは最新技術と操さんの強化プログラムを搭載して、破壊者の力を抑えるだけでなく、救世主の力を増幅させる事に成功した……既存のシステムを進化させたものと言っても過言ではないです!」

「正しく新たな力と言うわけね」

「ですです!その名も『ネオセイヴァー』システムなのですよ!」


 ネオセイヴァー……これが私の力。これなら優希ちゃんの前で不甲斐ない戦いをせずに済みそうね。


 それに、この力さえあれば――。


 涌き出てくる、ある感情。私の表情はどうなっているのかはわからないが、彩音ちゃんはそれを見て、まるでおぞましい何かを見るかのような目を向けてきた。


「……鞘乃、どうしたんだよ。なんか顔怖いぞ」


 失礼だな、なんて思いながらも、面倒事に発展しても困る。私は平然を取り繕ってこう言った。


「えっ!?あ、ううん、ちょっと感心しただけよ。ましろちゃんは本当に凄いなって」


 それを聞いてましろちゃんは嬉しそうに笑った。そしてまた気を引き締めて彼女は続ける。


「鞘乃さん、それだけでは無いですよ!ネオセイヴァーシステムにはまだ――」


 はしゃぐましろちゃん。しかし言いかけた途端、彼女の表情は青ざめていく。

 初めて遭遇したのだ、無理はない。そう、この世界に蔓延る悪・ギョウマが現れたのだった。




 奴は確か――ルシフ。名前なんて知りたくも無かったし、覚えたくもないけど、こいつはしぶとく生き残っているから、嫌でも脳にその存在がこびりついてしまった。

 そう、こいつは一番長く戦っている相手だ。優希ちゃんと出逢う前からこいつとは戦い続けていた。

 そして今回、私達の存在に気づいた例の『王』とやらの命でこいつは姿を現したらしい。


 ……こいつは最初に倒す相手として相応しいかもしれないわね。無論、誰が相手でもギョウマならば仕留めるつもりだけれど。


「やるならばとっととやりましょう」

『話ガ早クテ良イ。今日コソ殺シテヤルゾ、セイヴァー共!』


 睨みあう私とルシフ。それを葉月ちゃんが止める。


「鞘乃ちゃん、いきなり実戦なんて無茶ですよ!」

「そうかしら?調整は完璧だったし、能力も把握しているわ」


 そう、負けはしない。……だから、離して!私は葉月ちゃんの手を強引に振りほどき、再びルシフと向かい合う。


 すると今度はましろちゃんが呼び止めた。


「それは違うです!まだ鞘乃さんは全ての機能を熟知していないのです!それを知ってからでも遅くないのです!」


 私は彼女の目を見ずに返した。


「いいえ、私はやるわ……今なら消せるのだから……!」


 口に出す事で、私はついに抑え込んでいた感情を爆発させた。


 ……ずっと欲しかった。こいつらを殲滅することを可能とする力が。

 こいつらさえ居なければ、お父さんもお姉ちゃんも、死なずに済んだ。こいつらさえ居なければ、私は平和で幸せな人生を歩めた。そしてこいつらは、私の大切なものを傷つける。優希ちゃんを……苦しめる。許せない、許せない!


 ずっとずっと、消してやりたかった。この手でぶっ潰してやりたかった!!

 この力さえあれば、それが出来る。この憎くて堪らない目の前のギョウマを……!!


「……倒すッ!」


 それこそが私に課せられた宿命!そしてこの宿命に挑むだけの心を与えてくれたのは――奴らに対する『憎しみ』!


(こいつとの因縁はっ!ここで断ち切るっ!!)


 私はルシフに向かって突撃した。奴は平然とした態度で破壊光線を放つ。

 ……それで対処したつもりならお笑いよ。私にはそんなものは当たらない!私は軽々とかわして、止まることの無い笑みを浮かべながら、進み続ける。

 焦って奴は連続でそれを放つ。が、ぬるい!ザコギョウマどもの方がよっぽど厳しかったわ!


 ――気づけばもう奴の懐に届いていた。容赦はしない。確実に滅してやる……!


「セイヴァーソード改!!」


 左腕から創造した救世剣。その一筋の閃光がルシフを斬り刻む……!手応えはあった。確実に殺った。ネオセイヴァーのパワーは把握済み。ルシフごときなら、当たれば十分致命傷のはず。


 ……これで一歩前進したわ。ギョウマ殲滅への道を。そして、それを可能にする力を得られた事を実感する為、私は右手のグローブを再び強く握りしめた。


 ――その、時の事だ。


『……ソレデオ終イカ?』

「!?」


 奴の声に我に戻った私。しかしその攻撃は、既に私を捉えていた。奴のサーベルが、私を斬り裂く。

 超感覚のお陰でなんとか直撃は免れた。しかし右腕を掠め、ダメージが刻まれる。私はその衝撃で地面に倒れた。


(……そんな馬鹿な。確実に倒したはず。なのにどうして……?)


 傷こそ浅いが、動揺を産むのには申し分の無い出来事だった。


『威勢ガイイ割ニハ、ソノ程度カ…フハハハッ』

「黙……れ……ッ!」


 奴の減らず口が、更にペースを乱す。

 ……だけどここで止まれない。一撃で無理なら何度だってやるだけよ!この程度の怪我……どうってことない!私がこいつを……!


「私がこいつを……倒すんだ!!」


 叫びと共に私は再び奴に向かって駆け出す。


 ――しかし、私はまたも、運命に突き放される。

 私は倒れていた。バランスを崩して転んだのだ。そう、突然の出来事に驚き気をとられ、足を滑らせてしまっていた。


「……どう、して……っ?」


 私の身体は駆け出した直後、セイヴァーの状態を解除され、元の姿に戻ってしまっていた。


 一体何が起きたのか、全く理解が出来ずにいる。

 ――ルシフの攻撃?致命傷は受けていない。

 ――ルシフの能力?そんなものがあるなら優希ちゃんとの戦いで既に使っているはず。


 わからない。何が起こっているのか、さっぱりわからない。

 私は必死にグローブの起動スイッチを押し続ける。……何も起きない。


「……どうして?どうしてなの……っ!?やっと、やっとこいつらを倒せる力を、手に入れたのに!!」


 願い虚しく、私は追い詰められる。ルシフの刃はもう私の目の先へ迫っていた。

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