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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
第3章
30/100

真っ白の新星

 晴々とした天気の下。心地よい温度の風に当たりながらベンチに腰掛け食べるおやつは格別だ。難しい授業を乗り越えたからこそ、余計にそう思う。

 学校近くに放課後になるといつもやって来る移動販売のクレープ屋さんで買ったクレープを各々貪りつき、いよいよこの後、鞘乃ちゃんの見つけ出した策を実行することになっている。


 ――第二のセイヴァーシステムの誕生。それを成し遂げるための策とは一体どのようなモノなんだろう。私みたいな馬鹿でも手伝えることはあるだろうか。

 そんな事を考えている私に対し、鞘乃ちゃんが開口一番。


「造り上げるのが不可能だって言ったのは事実よ」


 そんな事を言うもんだから、私の表情はすぐに凍りついてしまった。しかしそれを気にせず鞘乃ちゃんは続ける。それが結論というわけではないからだ。


「まず根本的な話からしましょう。お父さんは、頭も冴え、それなりに賢い人だったと思うわ。でも知っての通り剣術の師範。研究の才も、開発の技も持ち合わせていたとは言えなかった」


 あぁ、私が彼女のお父さんの写真を見て始めに思った疑問だったね。研究者ってナリじゃないし、どうやってセイヴァーシステムを造ったのかって。

 きっとはじめは造れなかったのだろう。つまりはお父さんも私達と同じ状況にいた。鞘乃ちゃんはそう言いたいに違いない。

 それを理解した上で私は彼女の話に集中する。


「だからお父さんには協力者がいたのよ。幼い頃の記憶だったから曖昧で、今の今まで忘れていたんだけれど、お父さんの日記を読んで思い出したわ」


 日記を調べた際は中盤を飛ばしたところもあったから私は気づかなかった。でも協力者がいたというなら辻褄は合わないはず。


「お父さんは一人で完成させたって言ってたような……」

「最後はね。ある程度の知識は叩き込まれていたみたいだし、途中からはお父さん一人でも出来たんじゃないかしら」


 そして一人で成し遂げようとしたのはきっと……出来るだけ巻き込みたく無かったからだろう。事実、死を確認されたのはお父さんと美影さんだけだ。ならば協力者――セイヴァーシステムの事を詳しく知る人物はまだ残ってるはずってわけだね。


「また巻き込んでしまう事になっちゃうけど、今頼れるのはその人しか居ない。だからこれからコンタクトを取ってみるわ。協力者……『霧島操(きりしまみさお)』さんに」


 霧島操さん……一体どんな人なんだろう。何故危険な力の研究に手を貸したんだろう。気になることがポンポン頭に浮かぶ。でもまずは実際に協力を得なければちゃんと話すに至れないだろう。


 連絡先は記載されていた。……今も使われているとは限らないけど。


「……繋がったわ」

「えっ」


 まぁそう簡単に上手くはいかないだろう……なんて言う準備は満々だったのに、簡単に予想を覆された。

 鞘乃ちゃんの表情からしても冗談では無いと言うこともわかる。


「オイオイオイオイ、なんかワクワクすんなぁ」

「彩音ちゃん、静かに……」


 一同、驚愕。

 意外にもあっさりと繋がってしまった。スピーカーから聞こえる声は……若い!?


『もしもしー霧島ですよー!』


「……アタシらより年下じゃね?今から七年前だったから…オイオイオイオイ、当時は五歳ぐらいかァーーーッ!?」

「彼女が操さんでは無いと思いますけど……電話番か何かですよ」


 どうやらそうみたいだ。鞘乃ちゃんは電話番の少女に告げる。


「操さんに用があって……私の父――『剣崎一心(けんざきいっしん)』と『セイヴァー』……そう告げればわかってもらえると思うのですが……」

『はて……どこかで聞いたことある気がするですね……。とりあえず伝えてみるです!』

「よ、よろしくお願いします……」


 声だけは拝めそうだ。

 しかし破壊者の力が危険なものと言うことは当然操さんも知っているだろう。つまりは拒絶される可能性もある。むしろそれが普通の反応だろう。


 緊張が走る……いや、その緊張を上回るほど早く……ほんの五秒ほどしか経っていないというのにその声は耳をつんざくように、鳴り響いた。


『ハッロー!!久しぶりねぇ鞘乃ちゃん、元気ぃ!?!』

「っ!?」

『あっれー、あんまり覚えてないかなぁ?君とは話す機会もそーんなに無かったしぃ』

「ちょっ……み、操さん、落ち着いてください……」

『んん?何よー久しぶりなんだから別に……え?私、声がうるさい?……こりゃ失敬』


 コホン、と咳払いを入れて操さんは話を続けた。


『どったの鞘乃ちゃん。セイヴァーシステムに不調でもあった?』

「いえ、そう言うわけでは……。実は新しいセイヴァーシステムを造りたくて」


 勢いに任せて言ってしまった。が、操さんは拒絶するどころか


『ワオ!!なんて素敵な事を考えてるの!?それ、詳しく聞かせてちょうだい!?』


 ……何故かすっごい乗り気だ。

 そんなわけで鞘乃ちゃんは現状をざっくばらんに話した。相づちがそれはそれはノリノリで……なんでこんなに楽しそうなんだろう。

 いや、こんな人だからこそ協力してくれたのかもしれない。好奇心旺盛だから、危険な力にむしろ引かれちゃう、みたいな……。

 それを暖かい目……いいや、この場合は耳って言うべきなのかな?ともかくそれで聞いていると――。


『セイヴァーになって戦ってるのが……新庄優希ちゃん?その新庄優希ちゃんってのは今いるの!?』


 油断大敵。私に話題がすっ飛んできた。


「あぁはい。私です~」

『もっと詳しく話を聞きたいんだけど!!もっと!!』


 鞘乃ちゃんが私の活躍を自慢気に話した結果がこれだ。鞘乃ちゃん、少し、話を盛りすぎなんじゃないかな……。

 それで私に白羽の矢が立ったって訳みたいで。もちろん私もこの人の事はすごく気になったけどでもどうせなら会って話せば良いし、今はちょっと落ち着いてほしいかなぁ……。


「とりあえずそのー……操さん。一旦会えませんか?セイヴァーの話ならいくらでもしますんで」

『あぁもちろん!協力を惜しむつもりは無いわよー!……で、すぐにでもそっちに行きたい訳なんだけどぉ、ごめんねぇ。ちょっと今、手ェ離したくない研究があってさー……だから代わりの人材そっちに送っから、それで我慢して?ね?ね?』

「え……?」

『だーいじょーぶよー、腕は保証するから!んじゃ、すぐ支度させっから、よろしくね!』


 プツリ。連絡が途絶えた。

 ……もしかして遠回しに拒否られちゃった?いやいや。とてもそういう風には聞こえなかったし、むしろ凄く好意的だったし……。

 ……でも居場所も伝えてないのに来れるはずもないじゃん。……終わった。希望は断たれてしまった。


 ――と、思われた次の瞬間!私の隣でバチバチバチ、と電流が走り、空間が歪んでいく。これはまさか……?

 ……操さんがセイヴァーシステムの開発に関わっていたって事は、私達の持つ技術も大体は把握しているだろうと言うこと。

 そしてそれを目にして「やっぱり」と、思いながらも、やはり少し驚いてしまった。


 次元移動装置。それを使って、私達の元にある人物が現れたのだ。場所は鞘乃ちゃんのケータイの電波の発信源を探知させてもらった事で見つけられた、らしい。

 そこに立っていたのは……私達よりも一回り小さな女の子。「突然現れて、驚かせて申し訳ないです」と頭を一言詫びを入れてから、少女はまたペコリと一礼した。


「はじめまして、(いずみ)ましろです。よろしくお願いするです」


 その姿はとても愛らしく、ぴょっこり猫耳のついたフードを被って、より一層キュート……というか、それをみた瞬間に私は彼女を抱きしめていた。


「ぬがあああっ!可愛い!!」

「はわっ!?い、いきなりすごいスキンシップです!?」

「んへへ、めんこいのうめんこいのうお主は……」


 いやぁ、鞘乃ちゃんといいこの子といい、私って可愛いものに弱いみたいだ。ただその……それは良いんだけど、この子の声、さっき聞いたはず……。


「あ、君、電話番の子かぁ」


 ましろちゃんは頷いた。可愛いだけじゃなくって、しっかりしている子なんだなぁ、と、素直に感心するよ。

 その性格もあってか、彼女は早く本題に入りたいと言う顔で話を進める。


「貴女が鞘乃さんなんです?」

「へへ、違うよー私は新庄優希。君は、ましろちゃんだったよね?ましろちゃんと出逢えたのは嬉しいんだけど、その、代わりの人はいつ来るの?」

「……です?」


 ましろちゃんは不思議そうに首を傾げた。

 おかしいな。彼女は代わりの人が来るまでの繋ぎ役だと思っていたんだけど。いや、そう思うのが自然というものだ。そうじゃないならこんなところに電話番がわざわざ出向く事もないだろう。だから私は、詳しく、もう一度彼女に尋ねた。


「え?いや、だからね、セイヴァーシステムを造ってくれるっていう人」


 それを聞いても、ましろちゃんは話が噛み合わないという風にぽけーっと私を丸いその目で見つめていた。


 そして、しばらく考え、彼女は私達が『勘違い』しているんだという事に気がつき教えてくれた。


「えと、それましろの事ですよ?」

「……うん?」


 言葉の意味をもう一度頭で整理して、理解したとき、私達は驚きの声を挙げていた。

 もちろん冗談だと思ったし、鞘乃ちゃんでも無理なことがこんな小さな子で大丈夫な訳がないとも思った。


 ところがどっこい、こいつは現実ってやつなのさ。

 手っ取り早く証拠を見せようと、ましろちゃんは新しいセイヴァーシステムの開発計画を披露した。

 目の前で訳のわからない設計図が広げられ、訳のわからない説明が繰り広げられる。みんなパニックに陥った。


「あ、頭がいてえ……何を言ってるのかさっぱりわからねえ」

「……教養の差とかそういう次元じゃないと思いますね、これ」

「鞘乃ちゃん、言ってる意味、わかる……?」

「なんとなく……ほんとなんとなくなら……」


 そしてようやく理解した。天才だ。この子はいわゆる天才という存在そのものなんだそうに違いない。その確信を得た私達はとりあえず四人でましろちゃんを胴上げしておいた。


「一体どんな教育受けりゃこんなこと出来るんだよ」

「ましろは操さん自慢の弟子ですから!」


 ここまで鍛え上げられるだなんて、やっぱりあの人、凄い人だったんだ。テンションが高いだけのおかしな人じゃなかったんだね。

 しかし、ましろちゃんはそう言い放った後、浮かない表情を浮かべていた。


「……って言ったですけど、ましろがこうして皆さんに協力出来るのも、操さんが大体を済ませてくれたからでして」

「それってどういうこと?」

「操さんからセイヴァーシステム誕生の話は粗方聞いた事があるです。でもそれには続きがあって……操さんは一心さんと別れた後も研究を続け、より安全かつ強力なシステムを考案したんです」


 ……本当に凄い人みたいだね。そっか、あの人はましろちゃんの師匠である前に鞘乃ちゃんのお父さんの師匠でもあったんだっけ。そりゃ凄いわけだよね。

 ゆえにましろちゃんは、操さんに頼りきりで、自分に自信がない、って感じだろう。


「ましろは所詮、それをなぞってるだけの未熟者ですけど、どうか皆さん、よろしくお願いしたいです……」


 もじもじと指と指を合わせて私達を見つめるましろちゃん。答えは当然決まってる。

 彩音ちゃんは励ますようにましろちゃんの肩を叩いて言った。


「それだけでも大したもんっていうか、アタシらからすれば別次元だっての」

「そ、そうですかね……」


 私も考えは同じ。十分立派だと思うし、尊敬しちゃうな。


「それに私、ましろちゃんが未熟者でも何でも関係なく友達になりたいな」

「え、友達……ですか?」

「うん。協力してくれるだけでもありがたい話なんだけど、出来ることなら仲良くもしたいなって。ダメかな?」

「い、いえ!嬉しい、です。こちらこそ、よろしくお願いしたいです」


 そう言ってましろちゃんは手でフードを上から押さえ、顔を隠した。どうやらあまり人付き合いは得意じゃないのかもしれない。だけどその声から、喜びはひしひしと伝わってくる。良かった、仲良くやっていけそうだね。


 ――斯くして、新たな友達・ましろちゃんが仲間に加わった。

 彼女の頑張りのお陰で、新しいセイヴァーシステムの完成はそう時間はかからなかった。

 そしていよいよ誕生する二人目のセイヴァー……戦いは次の舞台へ、進み始めたのだった……。

第三章、完

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