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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
第3章
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友情の再演奏

 破壊者との戦いで解明出来た謎は多かった。しかしそれと同時に大きな傷痕を残していった。

 これまで世界を救う為に戦ってきたつもりだったが、使ってきた力はその世界をも滅ぼしてしまう可能性のある恐ろしい力。

 一歩でも私が使い方を間違えれば、また大きな被害が起こる。この争いを終わらせるどころか、益々遠退いちゃった気がするよ……。


「だけどやっぱり……誰かのために使うことが間違いだなんて……っうぐっ……!!」

「優希ちゃん!?大丈夫!?」

「だい、じょうぶ……たぶんだけど……」


 正直すっごい痛いんだけど。けど鞘乃ちゃんに心配はかけたくない。とりあえず、心身共にいつも通りを心がけなきゃ。


「よぅし……鞘乃ちゃん、収穫はバッチリだし、早く帰って遊ぼう」

「何いってるの。とりあえず病院行かなきゃ」

「へへ……また入院は勘弁だなぁ」


 鞘乃ちゃんは私のお気楽ムードに呆れたような言動で接するが、安心して表情が柔らかくなったのも伺える。

 ……入院が嫌なのは本当なんだけどね。前も最初は楽だし良いって思ってたけど、途中からは退屈だったし健康が一番だよ、うん。

 ただ、入院で済むかすらわからない展開が押し寄せていた。……三人目の来客だ。


『……確カ、コノ辺ノハズ……アッ!セイヴァー!』


 炎を司るギョウマ・バーナ。この前戦ったが、かなりの強敵だった。流石にこの状態で戦うのは、無茶がある。

 しかし、彼はすぐに私から視線を外し、辺りをキョロキョロと見渡し始めた。どうやら『本物の救世主』を探しているらしい。


 ――本物の救世主……か。ギョウマに敵対していて、セイヴァーの力の元になった存在だからそう呼ばれているだけみたいだね。もっとも、彼女は全ての存在を敵とする破壊者だったんだけど……。


「……残念ながら帰っちゃったよ」

『何!?……ソレハマイッタ。王ニナンテ説明スレバイイカ……』


 ポリポリと頭を掻いて考え込むバーナは、妙に可愛らしく見えた。なんかのマスコットキャラクターみたい。

 でも何かを閃いて次にこちらを見た彼の目は恐ろしく尖っていた。


『オ前ヲ倒セバ王ハ喜ブ……!』


(へへ……参ったねこりゃ)


 私はもうボロボロなんだよ。これ以上やったら本当に死んじゃうかも。……けど簡単に逃がしてくれるわけないよね。


「……もういっちょ、頑張りますか」

「ダメ!こんなに傷だらけで、しかも三連戦目よ!?」

「だけど私がやらなきゃ……誰が鞘乃ちゃんを守れるの……?」

「……私がやる」


 そんなの無茶だよ。バーナのあの硬い装甲を普通の武器で傷つけることはほとんど不可能に近い。その上攻撃力はギョウマの中でもトップクラス。


「鞘乃ちゃんだけじゃ無理だよ……」

「……大丈夫よ。セイヴァーになって戦うから」

「え!?だって鞘乃ちゃんには」

「うん、なることが出来ない。でも一か八か試してみる。それしかもう道はないもの」


 そう言って鞘乃ちゃんは私にセイヴァーグローブを貸してほしいと頼んだ。

 ……鞘乃ちゃんの言う通りだ。やれるだけのことはやってみよう。

 元々の持ち主は鞘乃ちゃんなんだから、これが本来有るべき姿なんだけどね。


『作戦会議ハ終ワッタカ?』


 待ちくたびれたというようにバーナは炎をたぎらせる。鞘乃ちゃんは黙りこんだまま立ち上がり、セイヴァーグローブをしっかりと填めた。

 その息は荒く、手は震えている。緊張しているのか……いや、なんだかその様子はまるで……。

 しかし鞘乃ちゃんはその感情を押し殺す。自分に言い聞かせる。


「……行くわ……!」

『ホゥ。セイヴァーッテノハ、アイツ以外ニモナレルノカ』

「……はぁ……はぁ……」

『ドウシタ?サッサト セイヴァー ニ ナレ!』


 鞘乃ちゃんの表情はそれでもどんどんと青ざめていくが、ついにその起動スイッチを押した。


 ――やっぱり何も起こらない。


『ナンダソレハ……フザケテルノカ!!』

「くっ……やっぱり私には……」


 悔しさに俯き、グローブを填めた手を強く握りしめた。ギチギチと、壊してしまいそうな程、強く強く――彼女の嘆きが、そこにあった。

 しかし敵は、そんなこっちの事情を、わかってくれるほど、優しくない。


「っ!!鞘乃ちゃん、逃げて!」

「え…?」


 鞘乃ちゃんが振り返るとそこには巨大な火球が作り出されていた。馬鹿にされたのだと勘違いしたバーナは怒りのままにそれを放った!

 ゴオオオオオオッ!ゆっくりと、しかし、確実に巨大なそれは鞘乃ちゃんを呑み込もうと接近していく。


(やめて……やめて!!)


 私の足はまた動いた。もう限界のはずだし、今はセイヴァーの力もない。

 それでも――それでも今私が動けば、鞘乃ちゃんを救える……。その想いが動かしてくれたのかもしれない。


 私は鞘乃ちゃんを突き飛ばして火球と向かい合った。それをやり遂げられ、安堵してしまったのか、身体はすぐに動かなくなった。これ以上は動けそうにない。


「……逃げて、鞘乃ちゃん。どうか出来るだけ長く、生きて」


 鞘乃ちゃんは声を出すことすらできず、絶望を表情に浮かべている。

 ……約束を破ってしまった。だけどそれでも良い。鞘乃ちゃんが助かってくれるなら私はそれで……。そう思って、瞳を閉じ、自分の命が消え行くのを、大人しく待っていることしか出来なかった。


 ――その時、声が聞こえた。消え去る前に幻聴でも聞こえたのか、この場にいないはずの少女の声が聞こえた。


「お前も生きるんだよ馬鹿」


 直後、私は何かに引っ張られ、直撃を免れる。無事、みたいだ……。安心して鞘乃ちゃんが涙を浮かべ駆け寄る。


「優希ちゃん!優希ちゃん!あああ……っ!!」

「わわわっ!落ち着いて!……それにしてもどうなってるんだろ……」


「寝ぼけてんじゃねーぞ」


 そしてそこにはさっきの声の主――彩音ちゃんが立っていた。幻聴じゃ、無かったのか……。


(えぇえ!?でもなんで?ビヨンドくんはこっちだし、彩音ちゃんにこっちに来る方法なんてないはず……)


 しかし鞘乃ちゃんは気づいた。彩音ちゃんの手に握られたそれを。

 そしてすぐに涙をぬぐい、いつもの表情に戻ると、少し怒ったような声色で彩音ちゃんに詰め寄った。


「……それ!まだ調整段階だっていったはずよね?」

「あー……そだね。書いてあったわ。危険だから触んなって」

「そう、危険なの!一歩間違えれば今頃貴女は全く知らない次元に飛ばされて帰れないって可能性もあったのよ!?」

「まぁまぁ良いじゃねえか。お陰でお前の王子様を救えたんだからよ」

「おうっ……!?……確かに、その通りね。……優希ちゃんを助けてくれて本当にありがとう」


 彩音ちゃんは得意そうに笑っている。

 なるほど、これが調整中の新兵器……ビヨンドくんだけだと不便な事もあるから、予備の次元移動装置を用意していたんだね。

 助かった……。ホッと一息ついたのも束の間、彩音ちゃんが私を覗きこんで眉間にしわを寄せる。


「ったく、まーたとんでもねえ無茶しやがって。ボロボロじゃねーか」

「……えへ、ほんといつも面目無いです……」

「……けど、よくやった!ここからはアタシに任せてくれ」


 任せとけじゃなくて任せてくれ、か。ほんの少しの違いだけど、彼女は確かに変わった。だからこそ信じて頼りにできる。


「彩音ちゃん、お願い」

「おうっ!」


 私は鞘乃ちゃんに連れられビヨンドくんの中へ避難した。そろそろこの世界の空気に触れることが危険になってきたし、仮にバーナの攻撃がこっちに飛んできたとしても、この中のほうが安全だ。


 私達は見守る――彩音ちゃんは鞘乃ちゃんからセイヴァーグローブを預かっていた。


『……今度コソ、オフザケ無シデ戦ッテモラエルンダロウナァ……?』

「あぁ」

『……貴様ハ。ソウカ、ウェイブニ利用サレタ哀レナ女カ!』

「そうだ。アタシは一度、過ちを犯した。それでもみんなは仲間として認めてくれた。だからこいつはそれに応える為の戦いだ。大切な友の為……戦わせてもらうぜ!」


 そしてその起動スイッチが押される。

 眩い光と共に――新たなセイヴァーが誕生した!


「あれが……彩音ちゃんのセイヴァー……!」


 その姿は私のセイヴァーの衣装と似ているが、少し違う。首もとのマフラーは無く、変わりに頑丈そうな鉄の輪に守られ、髪は金髪に、全身は明るめのオレンジ色の姿。右肩は音符記号のようなデザインの装飾になっていて、ブンブンと突き出す拳は空気を震わせる。


「データが出たわ。防御もスピードも、まずまずって感じね……。ただ攻撃力は中々なものじゃないかしら」

「さっすがアヤゴ!すぐに手が出るから!」


 彩音ちゃんのセイヴァーにテンションが上がり、私はすっかり見いっていた。と、そこで彩音ちゃんに突っ込まれる。


『うるっせ!!ちゃんと聞こえてんぞ馬鹿!』

「あっ、そっか!ビヨンドくんとグローブ繋がってるんだっけ……。へへ、こっちで見てるのははじめてだからなんか落ち着かないや」

『ったく怪我人は大人しくしてろってんだ。……おい鞘乃。さっさと手当てしてやれ。アタシは……野郎をぶっ潰す!』


 彩音ちゃんは勢いよく走り出す。データ通り、スピードはそれほどではない、が、バーナは攻撃の一発一発が巨大で、放つまでにある程度は時間がかかる――かわすことは容易い。

 まずは飛んできた火球をなんとかかわし、再び攻撃を繰り出す前に、彩音ちゃんは仕掛けた。


「どりゃぁっ!」


 ズガガガガガッ!連続で打ち込まれたパンチだったが、バーナは無傷だった。

 彼女のセイヴァーは攻撃力が一番優れているが、それでも私のものよりは低いようだ。


 だったら勝ち目はほとんど無いんじゃ……。


「熱っつ!お前、なんで炎なんか着込んでるんだよ。暖炉にでもなったつもりか馬鹿野郎!生憎季節外れなんだよ!」

『フン……ゴチャゴチャ喧シイガ、所詮ハソノ程度カ』

「いいや?確かに打ち込んだぜ……!」

『ナニィ……?』


 またも馬鹿にされたのだと思い、バーナは最大出力で彩音ちゃんを一気に消し去ろうと特大火球を作り出していく。

 それは炎というより、まるでちょっとした太陽だ。私は痛む傷を忘れ、グンっと身体を前に乗り出し声を挙げた。


「どどどどうするの!?」

『あー、んなことよりよー、優希みたいに武器が使いてえんだけど、どうすりゃいいの?』


 困惑して鞘乃ちゃんも私の応急手当をしている手を止めてしまった。


「そんなことよりって……彩音ちゃん、不味いわよ!?」

『心配しなくても、そろそろ『響き』出す頃だぜ』


 瞬間、バーナは身体を抑え込み、苦しみだした。同時に火球も消えていく。

 これは一体……?すぐに鞘乃ちゃんはそれの解析にあたった。

 バーナの身体に不思議な周波が響きあい、奴を狂わせている。


「……これは、音……!セイヴァーのエネルギーを音の弾に変えて、その振動を響きあわせて内部から奴にダメージを与えているわ……!」

「じゃあ、無意味と思った攻撃は、これを奴に打ち込む為の狙いってこと?」

『そーゆーこと!ささっ、早く教えてくれよ、武器の出し方!』


 彩音ちゃんの持つ能力は『音』。音の属性を司るセイヴァーだったんだ!

 今の技は一時的な効果でしかない。だけど時間稼ぎには充分だ。

 彩音ちゃんはイメージする。そしてそれは形となる。目の前の敵を叩きのめす大きな拳だ。


「なるほど……!音と叩くの意味を兼ね備えたセイヴァービートって訳ね……!」

『いやゴメン、そこまで深く考えてなかったわ。でもそれ頂き!こいつがアタシの武器セイヴァービートだ!アアアアアアアアアアッッオラァアアアッ!!!』


 その拳は足りないパワーを補い、バーナに大きなダメージを与えていく。

 彩音ちゃん本人の拳でなく、武器の拳だから、炎の壁も気にすること無く叩きのめす事ができる。


(…うひゃー、アレで殴られるのは痛いだろうなぁ…)


 そしてとどめのアッパーで、バーナを吹っ飛ばした!


『グワアアアアアアアアッ!!』

「あっ!野郎、逃げんじゃねえ!」


 いやいや!吹っ飛ばしたの彩音ちゃんだからね!?……まぁ何はともあれ、一件落着って感じかな。


「……今度こそ、終わったね」

「……」

「鞘乃ちゃん?」


 鞘乃ちゃんはその拳を握りしめていた。戦いの決着と共に改めてセイヴァーになれない現実にショックを思い返してしまったのだろう。しかも彩音ちゃんはちゃんとなれたし、尚更彼女だけ取り残されてしまったように感じてもおかしくはない。


 ……でも、今思えばそれで良かったのかもしれない。これは危険な力なんだ。

 運命は鞘乃ちゃんに負けろって言ってるんじゃなくて、危ないから使うなって、助けてくれてたのかも。


 ……だけど一つ引っかかる。鞘乃ちゃんはセイヴァーになろうとした直前、様子が変だった。

 彼女はまだ、何か知っているのか……?


「……鞘乃、ちゃん……」


 ズキズキと痛む傷と同じように、新たに産まれた謎が心をじわじわと、不安に誘っていた。

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