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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
第3章
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新闘への団結

 あの戦いが終わって少しの時間が流れた。心に残されたもやもやはすっかり晴れ、今は中間テストのことで頭が一杯。みんなで集まって勉強会を開くことになった。


「あー勉強めんどくせえ」


 彩音ちゃんはちゃんと元通りになり、私達セイヴァー側の仲間として正式に加わることになった。

 で、落ちてた気分を取り戻して勉強するのはいいけど、彩音ちゃんはやっぱり不真面目で、口を開けばやれ「だるい」だの「飽きた」だの、まるで勉強する気無いなこんちくしょうって感じだ。


「全く……簡単な問題じゃないですか。きちんと授業聞かないからですよ」

「いやーその言葉は私にも刺さるなー」


 我々の出来の悪さにいつも笑顔な葉月ちゃんもさすがに呆れ顔。でもそれって葉月ちゃんが頭良すぎるから簡単に見えるだけで実際は超難関なだけなんじゃないの?なんて言い訳を作ったところで、結局頑張らなきゃまた追試地獄であるのに変わりはない。

 私も真面目にやらなくちゃな――そう思ってシャーペンをクルクル回し、ため息をついた。

 ため息の音で気づいたのか、隣で新兵器の開発に取りかかっている鞘乃ちゃんが、私に視線を移した。


「優希ちゃん、飲み込みは早いんだからちゃんとやれば大丈夫よ」

「うーん、そうかなぁ……まぁ、やってみるよ。鞘乃ちゃんも頑張って」


 鞘乃ちゃんは頭が良いから、勉強よりも戦いの事を優先。……頭良くなきゃ開発なんて出来ないし、まぁ当然だよね。

 お父ちゃんが残してたものを組み立ててるだけって言ってたけど、形に出来るだけ凄いと思うよ……。


 ――そんなわけで順調に戦力を高めている私達だけど、そうやって戦うだけでは真の意味でこの争いを解決出来たとは言えないだろう。


 だから私はまた未知の世界へ踏み入れようと思う。





 本物の救世主を探せ――ギョウマ・エレムが残した言葉だ。

 『本物の』という点がいまいちよくわからないけど、その人に出逢えばきっと何かを掴めるのだろう。

 ……あのエレムの事だから、ただの悪戯って線も否定出来ないけど。


「それならグローブを通して私達も聞いていたわ」


 ……だよね。だからこそ早々に提案出来なかった。その言葉を信じるってことはギョウマの言葉を信じるってことになってしまうから。鞘乃ちゃんの心境的にはきっと耐え難い事だろうし。


 けど鞘乃ちゃんは意外にもあっさりとその提案に乗った。


「良いの?」

「それで戦いが終わらせられる可能性が少しでもあるなら構わないわ。……信じたって訳じゃないけれど」


 信用ではなく、あくまでも利用する、って事ね。はは……時々鞘乃ちゃんってブラックな面が見えるな。表情はどう足掻いても可愛いんだけどね。


「問題はどうやってそのお方を探すかって事ですよね」


 葉月ちゃんが最もな意見を出し、目的に向けやる気を出し始めた私達のテンションは一気にダダ落ちした。

 しかしそこで、彩音ちゃんがハッとなって顔を上げる。


「手がかりが無いわけでも無いぜ?これもそのギョウマってやつの言葉だから、信じてもらえるかわかんないけど」

「それって……」

「あぁ、ウェイブだ」


 彼から目撃情報を聞いたことがあるらしい。話が繋がったね。これで探索に当たれる。


(確かにギョウマのことを信じるのは難しいけど、エレムとウェイブとの出逢いは無意味なことじゃ無かったのは確かだよね)


 彼らとの出逢いが私達を繋げ、前に進めてくれた……そんな風に考えては、じんわりと熱くなる胸の鼓動を感じていた。


 ――出発は明日。今からってのも急すぎて何だし、鞘乃ちゃんがやってる新兵器の調整を終わらせてからにする事に決まった。


 本当の救世主。それは一体誰の事なのだろう。人?ギョウマ?それとも生き物ですら無かったりして?……今のはさすがにちょっと冗談混じりで言ったけど――私達が全く知らない存在である事は本当なわけで。ちょっとした不安を感じる。

 そんな緊張感に包まれる中、ふと、彩音ちゃんが提案した。


「景気付けに皆でなんか食べに行かね?」


 緊張感無さすぎだって突っ込みたいところだけれど、正直、今はナイスな提案だと感じた。葉月ちゃんと鞘乃ちゃんも乗り気のようだ。


「良いですね。鞘乃ちゃんも少しくらいならお時間空けられるでしょう?」

「うん。というか私の要件はすぐに終わるから全然大丈夫よ!」


 鞘乃ちゃんがキリッとした表情でサムズアップした。……楽しそう。出逢った当初の彼女を思い返すと感慨深いな……。


「――なーにボーッとしてんだアイツ」

「愛の波動を感じますね……」

「……は?」




 ――さて、そんなこんなでさっそくお店に向かった。『バーガーマッツ』。彩音ちゃんと葉月ちゃんとは、ここで良く寄り道をした。所謂行き付けのハンバーガー屋さん。

 そして、豊富なメニューと、一度食べればやみつきになってしまうハンバーガーの数々に、リピーターも少なくはない。様々な地域にも進出する根強い人気の名店なんだ。

 何を食べるかを考えるだけでも、真剣に頭を悩ませてしまう。


「景気付けだからなー……キングサイズにでも挑戦するか~」 

「アヤゴ!そいつぁ無茶ってもんですぜ!」

「それでも漢にゃやらなきゃいけねえ時があるんだぜ……」

「アヤゴオオオオッ!!」


「……あ、私はフレッシュバーガーセットにします」

「いやさらっと流すなよ!」


 ワイワイと、くだらないコントを三人で行っては、なんだか懐かしい気分になった。ここ最近の事もあって、あまり三人で遊ぶ事も出来なかったし。

 何より、鞘乃ちゃんの傍に付いていたかったから、私はいつも放課後は鞘乃ちゃんと――。


(あっ……鞘乃ちゃん……)


 彼女は一人、私達のそれを見ているだけで。……当然だろう。鞘乃ちゃんはまだ、みんなと打ち解けている途中だ。どうしても会話に差が出てしまう。

 私達だけ楽しんで、申し訳ないな。そう考えていると、それが辛い表情となって顔に出てしまったのか、鞘乃ちゃんは私を見てにっこりと笑った。三人の話を聞くのは楽しいから、心配しないでって。


 しかしそれじゃあ納得出来ないと言わんばかりに、彩音ちゃんが鞘乃ちゃんに笑顔を振り撒いた。


「鞘乃ももっと入って来いよー!」


 がっしりと肩を掴まれ、鞘乃ちゃんは少し苦笑いを浮かべる。


「その、私の話なんて、つまらないわよ?」


 そして俯いて、自嘲気味に笑う。でもそこで、葉月ちゃんもサポートしてくれた。


「遠慮しなくて良いんですよ。私も鞘乃ちゃんのお話聞きたいです」

「みんな……」


 安心したように、鞘乃ちゃんに優しい笑顔が戻った。

 うんうん、友情とは良き事かな。と、思いきや、鞘乃ちゃんはその最高の笑みのまま、言い放った。


「本当に大丈夫よ。私の知らない優希ちゃんが見られて幸せだから」


(いい話だったのに!!)


 いや私にとっては嬉しい事だけども!みんなの前だと恥ずかしいよ!そうして顔を紅くしてしまう私と、幸せそうな鞘乃ちゃんを見て、彩音ちゃんは思わず吹き出してしまっていた。

 そして葉月ちゃんが相変わらずの変人っぷりを披露する。


「鞘乃ちゃん!!そういう話題は大歓迎です!!」

「アー、ハイハイ、めんどくせーから早く注文しようぜ」


 ――結局グダグダ。でも結果的に鞘乃ちゃんも話の輪に入る事が出来てよかった。ホッと一安心して、メニュー選びを再開した。


 様々な葛藤の末、各々が選び出したハンバーガーの到着を待った。

 その間にも会話は続いて……鞘乃ちゃんも随分、二人との距離を縮めることが出来たように感じた。


 そしておまちかねのハンバーガーがテーブルに届けられる。鞘乃ちゃんと彩音ちゃんの元に、キングサイズのハンバーガーが届けられた。


「鞘乃……アタシに挑もうってか」

「ふふ、私、意外とこういうの得意なのよ」

「ほぉう。上等じゃんか。負けねえぜ」


「鞘乃ちゃん頑張って!」

「優希ちゃんの愛が入ったこの試合!負けられませんね、鞘乃ちゃん!」

「おいアタシの味方無しかよ!」


 二人の熱い早食い対決を見届けながら、私はチーズバーガーをパクリと平らげた。うん、やっぱり美味しい!景気付けはバッチリ完了って感じだ。


 ――結果は鞘乃ちゃんの勝利でそれは幕を閉じた。鞘乃ちゃん結構余裕そうだったけど……中々侮れないな……!

 そして食べ終わるとすぐに店を出た。明日に備えて休息を取るためにちょいと早いけど解散することにしたんだ。

 私は鞘乃ちゃんを家に送るため、一緒に帰っていた。二人きりだとわかりやすい。鞘乃ちゃんはとても上機嫌だってことが。


「楽しかったね」


 鞘乃ちゃんが嬉しそうにそう言った。

 私も嬉しい。鞘乃ちゃんの笑顔が増えていくことが。


「きっとこれからもそうだよ。だから明日は頑張らなきゃね」

「うん!」


 更に強まった想いを胸に、私達は進む。だけど忘れてはならない。戦いとは、いつ起きてもおかしくないと言うことを。


 夕暮れの街に、レーダーの警戒音が鳴り響く。


「ギョウマ……!」

「やれやれ本当にいらないときにばっかり現れてくれるね」


 さすがにもう呆れるよ。打ち合わせして、出てくる時間を指定してくれたらいくらでも付き合ってあげるのに。

 そんな文句を言いつつ異世界へ向かうと、全く予想してなかったような変わったやつがいた。


『押忍!俺ハ『ナックル』!』


「「押忍……?」」


 ――格闘家のお方ですか?その姿も、なんか胴着を着てるように見える。

 相変わらずキャラが濃い人たちだ。どうしてこんな愉快な人たちが世界を滅ぼそうとしてるんだろう。……人じゃないけど。……ん?人じゃないからか。


「まぁいいや。押忍!私は新庄優希です!お手柔らかに!」


 そう言って私はセイヴァーになった。もはや私がお手柔らかにいく気がないね。だってさっさとケリ付けたい。明日の事があるから無駄に体力使いたくないもん。

 今日はザコギョウマ達はナックルの後ろで観客状態。完全に試合に出てる気分だね、こりゃ。

 まぁ気にしなくていいや。とりあえず、倒す!


「いくよっ!」


 試合開始のゴング変わりに地面を思い切り蹴り、ナックルの懐へ入り込んだ。先ずはパンチで怯ませ、そこから連撃へ繋げるつもりだった。


『カウンターダッ!』


 隙だらけかと思いきや、意外!ナックルも拳を突き出した。パンチとパンチが入れ違うように互いの顔に伸び、ヒットする。お互いに吹っ飛んだ!


「くぅぅ……さすが格闘家……」

「優希ちゃん!……酷い!女の子の顔面にパンチする人が有りますか!!」


『エッ……オ、押忍!失礼シマシタ!』


 鞘乃ちゃんに怒鳴られ深々と頭を下げるナックル。えらく紳士だねぇ……ほんとなんで戦ってんだっけ私達。ナックルってたぶんイイ人だよ。戦う必要なんて……。


『ジャア顔トカ気ニシナイヨウニ、跡形モナク吹ッ飛バセバ良インスネ!』

「なんでそうなるの!?でも格闘技にそんな破壊力のある技なんて無――」

『ナックルレーザー!!!』

「格闘関係なくない!?!」


 武道精神ってものが無いの!?……そんなの期待する方が間違いだったか。

 地面を焦がすナックルの必殺光線。その爆炎に飲み込まれた私だけど……。


「残念、無傷!」

『ナニィ……!?』


 その寸前に黄色の鍵を使い、私は変化していた。

 友情の大地!セイヴァーグラン!地属性の力を得た私は圧倒的防御力で奴の攻撃を耐え凌いだんだ。


「へへ、第2ラウンドの開始だね!」


 反撃開始。ナックルの光線をもろともせず進んでいく。そして間合いに入る。再びパンチとパンチのぶつかり合いだ!


 殴る。ナックルが仰け反る。

 殴られる。ナックルの拳が傷つく。

 殴る。ナックルが膝をつく。

 殴られる。ナックルの拳が砕ける。

 殴る。ナックルが吹っ飛ぶ。

 殴る。ナックルが地面にめり込む。

 殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。


『イッテエヨ!!!ナンダヨソノ頑丈ナ身体!!反則ダロ!!』

「これは正式なセイヴァーの力です~不正はありません~」

『……貴様ニ武道精神ハ無イノカ!!』

「君が言うな!!!」

『ゴメンナサイ!!』


 言わなくてもわかるだろうけど、ナックルはボロボロだった。……イケる!

 拳を地面に叩きつけ、その衝撃と共に岩片がナックルにまとわりつき、動きを封じる。このまま必殺でKOだ!


「セイヴァーハンマー!!!フィニッシュだ!」

『ギャアアアアアアアアッ!!』


 断末魔と共にナックルは爆発した。もとの姿に戻って鞘乃ちゃんにVサインを見せる。安心して彼女もにっこりと笑った。




 今回も無事に終わった。しかも傷は全然無いし(頬はちょっぴり痛いけど――)万々歳で世界防衛完了!疲れも別段無く、明日の作戦にも打ち込めそうだ。

 ――だけど、なんだろう。何か嫌な雰囲気。戦いが終わったはずなのに、殺気みたいなものを感じるというか……。

 周りのザコギョウマ達からはそれは感じない。ボケーっと突っ立ってるだけだし、わざわざ戦う必要も無いだろう。と言うことは、他に別の誰かが私達を……?


「どうかしたの?」

「……ううん。早く帰ろ。今日はゆっくり休まないと」


 ……レーダーに映ってたギョウマはちゃんと倒したんだ。きっと気のせいなはず。

 鞘乃ちゃんにあんまり心配かけたくない。彼女は帰って新兵器の最終調整をするのだ。私が惑わせて支障を起こさないようにしないと。

 私は平然を繕い、彼女と共にビヨンドくんに乗って帰ろうとした。


 その時。


 ビービービービー!!!……と、轟々しく鳴り響いたそれは、まるで危険信号。

 ……ビヨンドくんが叫んでいる。危険が迫っていると。


「なに……これ……今まで一度もこんな反応は……!」

「鞘乃ちゃん、下がって」


 これ、嫌な雰囲気どころじゃないよ。ヤバい。……やっぱり私の感じた違和感は間違いじゃなかった。


 それが近づいてくるのがわかるほどに、私の身体は無意識に恐れを感じていた。そう、凄まじく大きな力の接近に。


 そして私達は出逢う――黒と赤の鎧に身を包み、その手には禍々しい力を纏った槍を引っ提げ、仮面で素顔が隠された、謎の騎士と。

 その下が一体どんな表情なのかは分からないが……間違いない、人だ。それも普通の人間じゃない。


「セイヴァー……?」


 ……いや、違う。それよりももっと強大で、凄まじい力を持ってる。となると、答えはおそらく――まさかそっちから来てくれるなんてね。


「本物の……救世主……!」

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