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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
第2章
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思いやりの心

 ――アタシの前にわけのわからん奴等が現れた。会ったこともないくせに気安く『友達』だって言い張る奴等。

 くだらない。アタシの友達はウェイブだけだ。だから守らなくちゃ。こいつらはウェイブを倒そうとする敵だ。


 アタシがこの命に変えても守ってやる。


 ……ウェイブと出逢ったのは、小学校三年の時。アイツは弱っちくて、それなのに馬鹿がつくほどのお人好しで、そんなアイツの事がついほっとけなかったつーか。だから一度助けてやったんだ。


「ありがとう彩音ちゃん」

「うるせーよ、気安く名前で呼んでんじゃねえ」


 ……アタシは目付き悪いし、気も強いからすぐ誰かと喧嘩になって……それこそ、不良だのヤンキーだの、馬鹿げたレッテルを張られて、除け者にされることばかりだった。だからこうして誰かに感謝されることに慣れてなくて。だからつい、厳しく当たっちまった。最悪の出逢いだ。


 でもアイツはほんと良いやつで、そんな事気にしなかった。それどころか、いつも一人だったアタシに毎日話しかけてくれた。

 だからアタシはアイツを助けてやろうって必死になって……いつの間にか、それが当然になって。アイツもアタシを頼ってくれるようになってさ。


 そして今だってアタシを頼ってくれる。アタシだけが頼りだって。あぁそうだ。アタシに任せときゃそれで……。


「それは違うよ彩音ちゃん」


 なんで邪魔するんだ。なんでお前はアタシの幸せを邪魔す……。


 幸せ……?


 ……なんか違うくないか?それってただアタシが満足したい為に……ただアタシの独りよがりみたいになってねえか。




 ――悔しいが、邪魔されて初めて自覚した。アタシは怖かったんだ。ようやく出来た居場所が壊れるのが。だからアタシは焦った。頼りにされなくなっていく事が嫌だった。


 いつの間にかアタシがやりたいことはアイツの為じゃなくて、自分の為になってたんだ。頼りにされる自分が誇らしくて、大切で――そんな惨めな事を心の底で考えていた。だからアタシは忘れた。アイツのことを平気で。


 ……そうだ。アタシが助けてたのはウェイブじゃない。ウェイブは、『アイツ』が頼ってくれなくなったある日、私の前に現れたんだ。


『彩音……彩音。ドウカ私ト友達ニナッテクレナイダロウカ』


 ……そしてアタシはアタシを必要としてくれる怪物と友達になった。

 ウェイブと日々を過ごすようになって……そしてついに思ってしまった。ウェイブさえいてくれれば、あんなやつらなんて必要ないって。

 最低な事さ。逃げてばかりで直接真実を確認したわけじゃねえのに、勝手に避けられてるだとか必要とされてないだとか、そんな被害妄想でアタシの方からアイツを遠ざけてたんだ。


 なのにアイツは……。


「それも違うよ!私はずっと彩音ちゃんを必要としてたよ!こうしてセイヴァーとして戦ってる時でも、いつも大事に思っていたよ!」


 お前は……そんなアタシを助けようとしてくれてる。たとえもう、アタシの助けなんて必要無くなっても――いいや、ずっとそうか。アタシの事を対等に、友達として必要としてくれてたんだな。

 アタシももう逃げたくない。やっと目が覚めた。お前の頼りになる立派な存在なんかじゃなくて――新庄優希のただの友達である島彩音になりたい。

 だからアタシも、自分自身の言葉で優希に謝った。


「ごめんな、優希……!!」


 そしてようやく、アタシ達の時間はもう一度、動き始めたんだ。



 ***



 ――彩音ちゃんの瞳から涙が溢れた。まるで彼女の偽りの記憶を洗い流すように、それは止まらない。

 何度も謝られたが、私の答えは初めから変わらない。全然許すし、これからも友達でいてほしい。


「……でも、今度からはこうなる前に相談してほしいかな。ホラ、助け合うのが友達だから!」


 それを言った瞬間にパンチが飛んできた。「隠れてセイヴァーなんかやってるやつに言われたくない」って。……おっしゃる通りです。それにしても、セイヴァーの状態でも痛いな……。


 でもそれでこそ彩音ちゃんだよ。乱暴で荒々しくて、それなのにどこか優しさを感じてしまう。そんな彩音ちゃんだから、私は大切に思えたんだ。


「おかえり、彩音ちゃん」

「……ありがとよ、優希。それから、二人も」


 ようやく四人で笑い合う事が出来た。……いざこざがあってからほんの数日の事なのに、とっても長く感じちゃうね。それだけ、みんなの想いが強かったってことかな。


 しかしこの場にいる者の中に一人、満足が出来ずにいる奴がいた。


『ク、クソ……ヨクモ私ノ計画ヲ……』


 へへ、忘れてたよ。そう言えばギョウマさんがいたんだっけ。彼は苛立ちのままに私達を襲おうとするけど――鞘乃ちゃんが銃を乱射して静めた。


(ギョウマ相手だと容赦ないなぁ……)


「感動の仲直りに水を差す奴が悪いのよ」

『ウ……ウゥ……助ケテクレ、彩音!』


 ウェイブは必死に彩音ちゃんに助けを求める。

 ……やっぱりそうか。彩音ちゃんの頼られたいって気持ちに漬け込んだんだろうね。許しちゃおけない。


 でも私が攻撃する前に彩音ちゃんがウェイブに向かって自慢の拳を叩き込んでいた。


『何ヲスルッ!私達ハ友達ダロウ!?手段ハ間違ッテイタトシテモ、想イニ偽リハ無イ筈ダ!』

「あぁ確かにその通りだよ。アタシには今でもお前の事を大事に思う気持ちが残ってる。でもな、だからこそ止める。お前がやってることが間違いだって気づいたから、だから……友達だからこそ止めてやる」


 ウェイブは絶句したように言葉を無くした。

 そして次の瞬間、音を立て、凄まじい水の波がウェイブの周りで巻き起こった!


 奴は波動を司るギョウマだと言っていた。波……そう、水の属性こそが奴の攻撃手段だったのだ。

 策略が崩れ去り、いよいよ自ら戦う事を覚悟したのだろう。


 一旦その場から離れ、荒れ狂うウェイブの起こす津波の威力を目の当たりにする。

 彩音ちゃんは一瞬、少し悔しそうに、そしてどこか悲しげな表情を浮かべ、だけど決心したように私に言った。


「……止めてやる、とは言ったものの、アタシにはあんなの止められねえ。……だから優希。アタシの代わりにアイツを止めてやってくれないかな」

「へへ……」

「な、なんだよ!なんかおかしいかよ!」

「おかしいんじゃないよ。嬉しいんだ」


 彩音ちゃんの心があんなにボロボロになってしまったのは、私にも責任があることだ。

 かつての私は誰かの助けになりたいって意気込んで、結局なにも出来なかったから。


「彩音ちゃんの為に戦える事が嬉しいんだ」

「……言ってくれるなぁ。けどそうやってアタシみたいなんないように気を付けろよ」

「ならないよ」


 だって一緒だもん。彩音ちゃんが託してくれた想いと一緒だから。

 頼るとか頼られるとかじゃない。私は、彩音ちゃんとの絆を信じて戦う。決意して、ギュッと拳を握りしめた矢先、巨大な波が押し寄せてきていた。


「だけどこんなものじゃ屈しないよ。むしろ上等!これくらいの方が救世主として立ち上がる甲斐があるってもんだよ!」

「おお……?なんか秘策でもあんのか?あるなら早くやっとけよ?もうこっちまで波が……うおわあああっ!」


 ズドオオオオオオッ!凄まじい衝撃が走った。

 しかしそれは波に飲み込まれ流され行く時に聞く音ではなく、波が盛り上がった大地に塞き止められた音だった。


「なん……なんじゃこりゃああ!!アタシらのいるところだけ地面が……地面が高くなったぞ!!」


 良いリアクションだね。まぁぶっちゃけ、私もぶっつけ本番でやったことだから、結構驚いているんだけど。

 でも彩音ちゃんは――いや、ここにいるみんながこの姿を見て更に驚くことだろう。


 彩音ちゃんとの友情を取り戻した際、黄色い鍵の力も解放された。それを発動したことで圧倒的パワーを得た私は、大地を司る力でウェイブの攻撃を防いだんだ。

 そして姿も変わりゆく。右腕の装甲はゴツゴツと屈強な外装になり、全身の衣装は赤を基調としたものから黄に染まる。


 ――セイヴァー第三の形態がここに誕生した!


 彩音ちゃんは驚いて口をポカンと開いている。

 ふふん、どう?格好いいでしょ?なんてドヤ顔で構えていると、彩音ちゃんは顔を真っ青にして私を心配していた。


「優希……おま……なんだそりゃ……?そんな真っ黄っきで……カレーでも食い過ぎたか…?」


 ……思ってたリアクションじゃなかった。っていうか、私と言ったら食べ物って発想はやめなよ!確かに食べることは好きだけど!まぁ敵視していたとは言え、セイヴァーの事なんてあんまり知らないだろうし仕方もないか……。

 でも鞘乃ちゃんはこの姿を見て、嬉しそうに笑みを浮かべてくれていた。


「ようやく救世主様も本領発揮って感じかしら?」

「へへ、まぁね。鞘乃ちゃん、この姿を何て呼ぼうか?」

「そうね。地の力だから……『セイヴァーグラン』でどうかしら!」


 それは格好いいね。彩音ちゃんにネーミングを任せたらろくなことにならないし……げふんっ!ありがたく採用させていただこう。

 彩音ちゃんとの絆で私は新たな姿・セイヴァーグランに変化した。その力で、ついにウェイブとの決戦に挑む。


「さぁ、これからが本当の戦いだよ!」

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