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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
第2章
18/100

道違いの信頼

 私と鞘乃ちゃんは急いで異世界に向かった。こんな早朝に出撃しなければならないなんていつもならイライラしちゃうところだけれど、今日はちょっと不安だ。そして嫌な予感は当たってしまう。


「彩音ちゃん……」


 やはり。彼女はここに迷いこんでしまった。

 ……しかしおかしい。昨日ビヨンドくんが通った次元の穴はとっくに閉じているはずだ。どうやってこっちに入り込んだろう。

 呼び止めて話を聞こう。そう思って駆け出そうとしたが、鞘乃ちゃんに止められた。


「待って、様子がおかしい」


 ……確かに。彩音ちゃんはやけに静かすぎる。

 葉月ちゃんみたいにこの世界を瞬時に受け入れられたという可能性もあるけど――その動きはまるでここのことを既に知っているかのようで。

 何かを探しているように見えるけど……?


「……!優希ちゃん、あれ……!」


 鞘乃ちゃんは彩音ちゃんの上を指差した。岩場の上に誰かいる。遠目だが、明らかに人間には見えない。あれはギョウマだ。


「大変だ、なんとかしなくちゃ……!」

「いえ、まだ待って」


 そんな悠長な事いってる場合じゃないでしょ!と、鞘乃ちゃんを振りきろうとも考えたが、その前にギョウマが彩音ちゃんの目の前に降りる。

 ――彩音ちゃんが殺されちゃう……!そう思ったが、次の瞬間にギョウマが取った行動はそれとは違った。


『ヨク来テクレタネ、彩音……』


(えっ!?)


 驚愕。そしてその直後、こんな状況にも関わらず思わず吹き出しそうになった。だってあのギョウマがこんなにフレンドリーに人に接しているからだ。そして彩音ちゃんもなんだか嬉しそうに話している。

 不思議な状況だが、とりあえずは彩音ちゃんに危害を加えそうに無い。そこでようやく話をしてみることにした。


 鞘乃ちゃんは少し強めにギョウマに言葉をぶつける。


「どういうつもりかしら!?」


 ギョウマはポリポリ頭を掻いている。


『……ドウイウツモリ、トハ?質問ノ意図ガ見エナイノデスガ』

「彼女を操り何を企んでいるのかと聞いているのよ」

『ハハハ、何ヲ仰ル。私達ハ友好的ナ付キ合イヲシテイルダケデハナイデスカ』

「とぼけないで」


 鞘乃ちゃんはさらに迫る。


「貴方達のような存在を彩音ちゃんが受け入れるとは思えないわ」


 たぶん鞘乃ちゃん自身のギョウマに対する憎しみも込められた言葉でもあるかもだけど……でも確かに私も、彼らの事を信用できてる訳じゃない。敵どころか味方まで傷つける上に、その性格は残虐性の強い面子が揃ってるようだし……。

 しかしギョウマは下らないと言わんばかりに腕を広げ、話を続ける。


『……イケマセンネェ。先入観トハ良クナイモノダ』

「実際に貴方達の被害者だから言えることよ。彩音ちゃんと何故一緒にいるの!?」

『『ケータイ』、デシタッケ?アレヲ通ジテ知リ合ッタノデスヨ』


 ……ということは電波でも操れるのだろうか。

 どうやら拐ったというわけではないらしい。やっぱりギョウマには直接私達の世界に干渉出来る手立てがないということなんだろうか。

 ……でも彩音ちゃんをここに連れてこれるってことは、干渉出来るって事なんじゃ……?


 悩む私を置いて会話は進展する。


「でもその相手が怪物だとわかって簡単に受け入れられるかしら。それも友達という関係で」

『出来タジャナイデスカ……マァ、ホンノ少シ彼女ノ感情ヲ弄リマシタガ』


 弄ってんじゃん!その時点で黒だからね!

 ちょっとフレンドリーな性格のギョウマもいたんだなって信じかけてたところなのに、結局悪いやつだったよ!


 とにかく悪いギョウマだとわかった時点でもうこいつに容赦はしないよ。彩音ちゃんを、返してもらうっ!


 私はセイヴァーになってギョウマに駆け出した。セイヴァーソードで一気に――。


「やめろ!」


 そこに立ちはだかったのは、彩音ちゃんだった。私は当然、攻撃する事が出来ず、後ろに後退して距離を取った。

 彩音ちゃんは騙されている。そいつは友達なんかじゃない。私はそれを訴えようとしたが、彼女の敵意を剥き出した目に、怯んでしまっていた。


「……ウェイブ、もしかしてこいつが……?」

『ソウナンダ。私ヲ殺ソウトスル怖イ奴ナンダ……助ケテクレ』


「なっ……!?」


 ちょっと待ってよ。世界を支配しようとしているのは君達でしょ!?

 彩音ちゃんだってなんで私に対してそんな……って、もしかして私達の事、わかってない……?


「おーい、彩音ちゃん私だよ!」

「……誰だよお前」


 やっぱりだ。このウェイブとか言うギョウマがなにかしたからに違いない。

 しかしウェイブはそれを私のせいだという。


『私ハ、アクマ デモ彩音ノ想イヲ強メタ ダケ……。君達ノ事ナンカ忘レテ シマイタイ ト言ウ彩音ノ心ノ波長ヲネ……』

「そ、そんなのデタラメだよ!」

『本当ノ事デスヨ。私ノ力ハアラユル『波動』ヲ司ル。電波、音波……ソノ他様々ナ波動ヲネ』


 心の波長を操り、人を変えてしまう。それが彼の能力なのか。パワーこそ使わないが、実に厄介すぎる能力だ。

 このまま彩音ちゃんに盾となられては攻撃することが出来ない……!


「……なるほどね、人質のつもり?」


 鞘乃ちゃんがまた噛みつく。ウェイブはため息をついて彩音ちゃんと手を繋いだ。


『イイヤ、彩音ト私ハ友達。ダカラ彩音ガ私ヲ守ルノハ自然ナ事デスヨ。友達ヲ守ルノハ友達トシテ当然ノ事ジャナイデスカ』


 私達に対する皮肉かそれとも……?

 ウェイブはさらに彩音ちゃんに語りかける。「頼りにしている」だとか「守ってくれ」だとか。


 ……なるほど、やっぱりそういうことなんだね。


『……オット、少シ時間ガ経チスギマシタネ。本日ハコノ辺デ、オ開キトシマショウカ』


 ウェイブは彩音ちゃんを連れ、暗黒空間へ帰ろうとする。鞘乃ちゃんもさすがに不味いと思って追いかけようとしたけど、今度は私が止めた。


 戦い辛い状況で、しかも近くでザコギョウマが待機させられているのも目に見えていた。このまま進むのは不利すぎる。

 だけど見捨てたわけじゃない。奴等にとって彩音ちゃんは私を戦えなくするための駒なのだから、傷つけるような真似はしないはず。むしろ下手に戦って傷つけてしまう可能性がある分、奴等に預けておく方が安全だろう。





 ――私達は元の世界に戻り、葉月ちゃんと合流した。そして起こった出来事を整理する。


「……なるほど。ギョウマの友達、ですか。たぶん、結構前から仕組まれていたようですよ」

「と言うと?」

「彩音ちゃん、事情で良くどこかへ行ってたじゃないですか。たぶんそれはそのギョウマと会いに異世界へ行ってたんですよ」


 なるほど。「友達が大変で~」とか言ってたっけ。確かにギョウマ側からすればセイヴァーと戦うのは大変な事だろう。

 しかも鞘乃ちゃんのケータイのアラームはあくまでも緊急事態――ギョウマが出たときだけにしか反応しない。簡単には気づけないわけだよ。


「ですが彩音ちゃんはギョウマと出会ってからも私達の事をちゃんと分かっていましたよね。今日会った彩音ちゃんは優希ちゃんの事を忘れていたんでしょう?これは一体……?」


 その答えはなんとなく分かる。ウェイブは、彩音ちゃんの「私達を忘れたい」と思う気持ちを高めた結果だと言っていた。つまり最近、私達を嫌ってしまうような出来事があったのだ。


 その事も謝りたいけど、でも忘れられている今、どうやって彼女に声を届ければ…?


(……『忘れたい』か。もしかして……)


 私は閃いた。彩音ちゃんを救えるかもしれない方法を。




 あくまでもそれは私の単なる思いつきだから、必ずしも上手く行くとは限らないけど――でも、きっと大丈夫だ。彩音ちゃんの心の強さを信じてみよう。

 そして彩音ちゃんを救うには私一人の力だけでは駄目だ。私、鞘乃ちゃん、葉月ちゃん、そして……彩音ちゃん自身の力を合わせる必要がある。


(ウェイブが心を利用すると言うのなら、見せてやろう。人の絆の力ってやつを)


 私達は奴が現れる瞬間を待った。奴は私に対して完全に勝ち誇っているだろう。だから必ずまたすぐに現れることを確信していた。そしてやはり――。


『ワザワザ殺ラレニ来タノデスカ』

「そんな風に見える?」

『見エマスネェーーーーッ!今ノ状況ヲ忘レマシタカァ?』


 ――やはり奴は再び姿を現した。……彩音ちゃんも。

 奴は彼女を盾にし、安全に世界を滅ぼそうとしている。もちろんそんなことはさせない。私はセイヴァーになり、鞘乃ちゃんと葉月ちゃんも武器を構え、戦闘態勢に入った。

 戦う準備は出来ている。でも大体の予想通り、彩音ちゃんがそこへ割って入った。


「おいお前ら、止めろ!」

『アリガトウ彩音……君達、モウコンナ事ハ止セ!』


 ウェイブの態度が白々しい……。さすがにむかっと来たよ。

 でも、それはグッと堪えよう。彩音ちゃんが前に出てきてくれた事は、むしろ好都合なのだから。


「……ねぇ彩音ちゃん」

「セイヴァー……気安く名前で呼ぶんじゃねえ」

「……じゃあ、君。君は何故、ギョウマという怪物を助けるの?」

「……なんでって、友達だからに決まってんだろ!」

「じゃあ私の事も助けてよ」


 その言葉に思わず驚く彩音ちゃん。もちろん私の事を敵だと感じているから――気が動転したのかとでも思われているかもしれない。

 でもこれは本心だ。彩音ちゃんに嫌われて、どんどん離れていって、挙げ句忘れたなんて言われて、私すごいショックだったんだよ?

 彩音ちゃんは当然そんなこと知らんぷりだし、助ける義理なんてないって思ってる。でもそのまま終わらせるわけにはいかない。


「だって私も彩音ちゃんの友達だから」


 彩音ちゃんはまた驚く。そして直後、昇った苛立ちを私にぶつけるように言葉を発した。


「……何わけのわかんねーこと言ってんのさ。お前らの事なんか……ッ!」

「忘れたとは言わせませんよ!」


 またまた驚く。今度は葉月ちゃんが私の隣に立って言う。


「彩音ちゃんは私たちの事、大切に思っていてくれたじゃないですか!私の事を助けてくれた事も、私はちゃんと覚えてますよ!」

「だから……なんの話だって……」


「貴女を必要としている人達の話よ」


 さらに驚く。鞘乃ちゃんが前に出て、彩音ちゃんと向かい合う。


「……正直私は、優希ちゃんと葉月ちゃんほど、貴女を理解していない。けど、だからこそもっと話を聞いてみたいわ。……戻ってきて。みんな貴女を待っているわ」


 不器用ながらも、鞘乃ちゃんの想いは彩音ちゃんに届く。そして私と葉月ちゃんの想いと混じりあって、彩音ちゃんの中で響き合う。

 それが彩音ちゃんを、ウェイブの策略を狂わせる。彩音ちゃんの心に戸惑いが生まれたからだ。


『落チ着クンダ。奴等ハ君ヲ騙シテイルダケナノダカラ!』


 ウェイブに焦りが見える。

 ……思った通りだ。彩音ちゃんは奴によって私たちの事を忘れてしまったけれど、それはあくまでも「忘れたい」という願望が強くなっただけで、完全に消えてしまったわけではない。

 思い込んでいるだけで、実際は私たちの事をきっちり覚えているはずなんだ。


 だからみんなの想いを一つにすればきっとそれは届く!


『……ク、クソッ!!何故ダ!?』

「人の絆は簡単には切れないものなんだよ」


 ――と、勝ち誇ったのは良いんだけど、まだ完全にウェイブの術が解けたわけじゃないんだよね。最後の一押しが必要だ。


 そしてその答えはもう出ていた。ずっと彩音ちゃんが求めていたもの。そしてそれこそが彼女がギョウマの闇に支配されてしまった理由。


「……彩音ちゃんは、ずっと頼りにされたかったんだよね」


「……っ!!」


 そう、頼りに……誰かに必要とされたかったんだ。

 だからこそ私が彩音ちゃんに頼らなくなった事が、彼女の中で少しずつ影を作っていった。


 私もその気持ちは分かる。セイヴァーとして戦って、鞘乃ちゃんに頼られる自分が誇らしくて、無理してたところもある。


 ほんの些細な歪みだ。だけど彩音ちゃんにとってそれは必要なものだった。

 私にとって頼りになる存在としていることで、彩音ちゃんは自分の居場所がそこだと思い込むようになってしまった。……私の責任でもある。


 でも、その感情は違う。


「それは違うよ彩音ちゃん。頼るとか頼られるとか、そういう決まった役割でいるんじゃなくて、そういうのも引っ括めてお互いに大切にしあうのが本当の友情ってものなんじゃないかな」


 ……私は、鞘乃ちゃんの温もりに触れ、それを感じた。鞘乃ちゃんは私を頼ってくれるけど、私の事を受け止めてくれもした。だからこそ私は安心して自分の弱さを晒けだす事が出来たし、彼女の事をより好きになれた。

 私も偉そうに言えるような立場じゃないかもだけど、繋がりって、きっとそうやって深まっていくものなんじゃないかな。


「頼られたいって気持ち自体は間違ってるわけじゃない。でもそのせいで誰かを憎んで自分を傷つけて、そんなの悲しすぎるよ」

「……う、うるせぇ!アタシには良いところなんて一つもない!美人でもなければ頭脳も馬鹿だ!そんなアタシに存在価値なんてねぇんだよ!頼られなくなったら、アタシは本当に誰にも必要とされなくなる」

「それも違うよ!私はずっと彩音ちゃんを必要としてたよ!こうしてセイヴァーとして戦ってる時でも、いつも大事に思っていたよ!」

「だーっ!うるせえな!なんなんだよテメエさっきからズケズケと!人のことわかった風に言いやがって!誰だよ!」


 知ってるよ。私は彩音ちゃんの事をよーく知ってる。

 たとえ彩音ちゃんが思い出すことを拒否したって、ズケズケと入り込むようなデリカシーの無い奴だって思われたって、今度は私が彩音ちゃんを助けるよ。

 そう決めたから。だからもう一度……私は自信を持ってこう言うよ!


「私は新庄優希。彩音ちゃんの友達だよ!」

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