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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
第2章
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仇討ちの炎魔

 どうして都合の悪い時に限って奴らは現れるのか。その事に苛立ちや落ち込みを覚えるけど、世界の平和なんて重いものを背負う以上、仕方の無いことなのかも。

 ただ、最近はそんなものよりも私に対する挑戦が多い気がする。それは今回もだった。


『取ッテヤルヨ!エレム ノ仇ッテヤツヲナァ!』


 怒りの炎を物理的な意味で燃やすそのギョウマはバーナと名乗った。異世界の荒野が歪んで見えるほどの凄まじい灼熱の炎を使うようだ。

 熱いっていう痛みは容易に想像がつくから恐ろしいものだ。ただどんなに強力なエネルギーを持っていたとしても、それを無限に出し続けられる奴なんていない。つまりは奴が身体の周りに放出し続けている炎が止まる隙を狙えば勝機はある。


「よし、早く終わらせて戻ろう」


 私はセイヴァーになり、直ぐ様戦闘体勢に入った。バーナはザコギョウマ達を率いて前進してくる。


『行クゾ、オ前ラ!』

『○○○○□□□◎▼』


 珍しく仲間として見なされているザコギョウマを見てほっこりしてしまいそうだけど、奴らが相手であることには変わりない。戦わねばならないのが現実だ。

 さっそく拳に光を纏わせ、挨拶がてらにラッシュをお見舞いする。ザコギョウマ程度ならばこれで簡単にノックアウトだ。……問題は、実力が未知数のコイツ。

 バーナと向かい合った私。しかし、何かおかしい。まだ気配が残っている。その気配の方へ拳を突き出す。ザコギョウマにヒットした。


「!?全部倒したはず……っ!?」


 増援かと思ったが――そうじゃない!倒したはずのザコギョウマがまた立ち上がって攻めてくる。バーナの特殊能力なのか?それはわからないけど……ちょっと強くなっている……!


 あくまでもほんの少し強くなった程度。単体での力はギョウマ遠く及ばない。厄介なのは数、それに加え、タフさを用いて壁となり、私の体力を消耗させる。


 そしてそれ以上に厄介なのが――。


『フン、ソイツラダケガ相手ジャナイゾ!』

「ハッ!?」


 バーナの火炎放射が私を襲う。なんとか間一髪かわすけど、凄まじい威力だった。隣の岩が溶け、ブスブスと煙を上げている。

 ――厄介なのが、バーナも相当な力の持ち主と言うことだ。ザコギョウマと上手く連携をとって、私を追い詰めようとしている。

 いきなりピンチか?私は息を呑み、身構える。が、握りしめた左腕のセイヴァーグローブから……。


『優希ちゃん避けて』


 鞘乃ちゃんの声がして、私は即座にしゃがみこんだ。

 瞬間、弾丸の嵐がザコギョウマ達に炸裂する。鞘乃ちゃんの援護射撃だ。しかし、いつも以上に弾幕が濃い気が……。そうして後ろを振り返ると、そこには狂喜の形相でマシンガンを乱射する葉月ちゃんの姿があった。


「アハハハハハハハハハッ!!おどきになるが良いですわ!!」


 ……見なかったことにしたい。


「葉月ちゃん意外と才能あるわね……」

「ええ!?そういう事かな!?」


 でもお陰でザコギョウマとバーナを分散出来た。私はバーナを、鞘乃ちゃんと葉月ちゃんはザコギョウマを、それぞれ分かれて戦うことに。


「邪魔は無くなった。さぁ、これからが本当の戦いだよ!」


 いよいよ一対一の対決が始まった。

 バーナの戦い方は単純だ。しかしその破壊力は尋常ではない。一発一発の威力が凄まじい。巨大な火球、岩を溶かすように消し去る火炎放射……当たればそれだけで致命傷かも。


 でも最初に予想した通り、ニ、三発攻撃を仕掛けては息切れするようにその炎は弱まる。……それが、チャンス!


「だああああああああああああっ!」


 拳によるラッシュをこれでもかと浴びせる。私の大きなパワーに、バーナは怯んだ。でもそれで休ませはしない。そこからさらに攻撃へ……。


「痛っ……ったぁい!!」


 攻撃へ転じられない!硬い!炎のバリアが無くとも恐ろしく頑丈な鎧に身を守られているっ!


『……グ、ゥ……拳ダケデ俺ニ傷ヲツケルトハ……聞イテイタ通リノ恐ロシサダ………!エレムガ負ケタノモ頷ケル……。ダガッ!』


 動きの止まった私に向かって火球を飛ばしてきた。これまでで一番大きな一撃だ。チャンスを狙っていたのは向こうも同じって訳か……。

 グローブを通じて心配そうな鞘乃ちゃんの声が聞こえる。でも大丈夫。大人しくやられる程、甘いつもりはないからね。私はセイヴァーソードを構えて一気にエネルギーを集中させ、必殺のセイヴァーフィニッシュで火球を相殺した。


 奴のここ一番の攻撃を無効化することが出来た。けど実は――結局ピンチには変わりはないんだけど……。

 あの凄まじい破壊力に対抗するために、ほとんどの力を使用してしまった。しかも無理して急速に溜めた力は、中々に身体を痛め付けてくる。

 身体から力が抜けていくような感覚に襲われる。それでも負けられない。私には負けられない理由がある。


 きっと悲しんでいる彩音ちゃんとの事を解決しなくちゃいけない。葉月ちゃんとは笑い合える私達の結末を約束した。

 そして他でもない……私を待ってくれている大好きな鞘乃ちゃんの為に。


「なんとかしてみせる。みんなを守るために……!


 だからこんなところでへこたれてるんじゃない、私の身体。まだやれるはずだ。そう思い込んで、悲鳴を挙げる身体を無理矢理叩き起こす。すると――突然、赤き光のオーラが私を包んだ。とてつもなく巨大なエネルギーだ。……一気に使い果たしたはずなのに何故それが沸いてくる?

 わからない、が、この感覚は知っている。……そうだ、かつて鞘乃ちゃんとの想いでゴウテツと戦った時や、エレムの攻撃から葉月ちゃんを守ろうとしたときに体験した、謎の力。今の状態なら、自分でも想像できない程の力を発動することが出来る!

 一気に力を取り戻した私は、セイヴァーソードを構え、バーナに一直線。駆けた!


『マダ隠シ玉ヲ持ッテヤガッタノカ!?』


 バーナは焦ったように炎による技を繰り出す。でも今の私にそんなものは通用しない。セイヴァーソードで素早く切り刻み、火球を確実に粉砕し、バーナに近づいていく。


『何故ダ……サッキハ確実ニ消耗シテイタハズ……!』

「立場逆転って感じだね」


 バーナは技を酷使する事で、だいぶ体力を削られているように見える。

 ――でも不思議だ。あんな巨大な火力の技を繰り出すんだから、とっくに限界が来ていてもおかしくないはず。あれだけ常に炎を発し続けているというのに。

 ……そういえば、奴の纏っている炎はまだ、弱まるだけで完全に消えたことはない。弱まってる状態の時なんて、まともに防御の役割も果たせていないのに……。それでも燃やし続ける理由があるはずだ。


 ――それこそが奴の力のトリック?

 バーナは炎を操るギョウマだ。炎こそが奴のエネルギー源。微量でも『火種』が残っていれば、そこから何度でもエネルギーを再生出来るのかもしれない。


「だとすれば……!」


 私は緑色の鍵をセイヴァーグローブのスロットに装填、風を操る疾風の救世主に形態変化する。

 笑顔の旋風、セイヴァーブラスト!最大出力で一気に炎を吹き消す!


『ヤ、ヤメロッ!クソッ、ナンテ凄マジイ風ナンダ……!!』


 正しく風前の灯火。バーナは完全に成す術無く、敗北寸前だ。


 でもその時、突然漆黒の闇が私の風とぶつかり邪魔をした。そして直後、巨大な黒炎の火球が私目掛けて降り注ぐ。


「……セイヴァーシューター!」


 必殺の疾風弾でなんとかそれを消し去る事は出来た。それにしても……今の火球、見覚えがあるけど……?

 いや、今はそれどころではない。私はすぐにぐるぐる辺りを見渡した。

 しかしバーナはもうそこにはいない。……逃げられちゃったみたいだね。でも、世界は守れたし、とりあえずはこれでいいか。

 気が抜けて、その場に座り込んだ。バーナというギョウマ、中々の強敵だったな。パワーだけなら今まであったギョウマの中でトップクラスの強さだったかも。あの謎の力が発現出来なかったら、ヤバかったかもしれない。


「……うっ……ちょっと、無理しすぎたかな……」


 外傷こそ無いけど、戦いが終わった途端に負担は一気に襲ってくる。力の効力はやっぱり一時的なもの……私自身の力が強くなったってわけじゃないから、その反動は重い。発動条件もいまいちわかんないし、不親切な力だ。


 ――鞘乃ちゃん達の方も戦いが終わったみたいで、私の方へと駆け寄ってくれた。


「……快、感」


 葉月ちゃんが心なしか凄くすっきりしてるように見える。……けど、もうツッコミを入れる気力も無いかな。なんとか立ち上がろうとするが、もう足にも力が入らない。酔っぱらいのおじさんの気持ちって、こんな感じなのかな、なんて……へへ……。


「優希ちゃん……」

「大丈夫、大丈夫。でも、ちょっとだけ、疲れちゃった。……休憩していいかな」

「うん、あとの事は任せて……」


 鞘乃ちゃんに身を任せる形で私は倒れこんだ。



 ***



 一方その頃、ギョウマ達が住む暗黒空間では……。


 バーナが成す術無く敗北した自分を責めるようにその強靭な拳を地面に叩きつけていた。しかしどうでもいいという風にルシフはそれを見下す。


『……フン、落チ込ンデイル暇ジャナイダロウ。『王』ニ、ドウ説明スルカ考エテオイタ方ガ懸命ダゾ』


 バーナは王の命令無しに、セイヴァーに挑んだのだ。

 皮肉なことに、それを救ったのは、あれだけヘタレ扱いされていたルシフであった。

 もちろんバーナがくたばろうがどうなろうがルシフには興味がなかった。ただ、どうせなら『面白い』展開の方がいい。


『ワカッテイルトハ思ウガ――王ノ罰ハ厳シイゾ。コレダケ仲間ガ殺ラレテイル現状デ、無意味ニ命ヲ落トシカケタンダ、サゾオ怒リニナラレルダロウサ』


 煽るように笑う。返す言葉もなくバーナは自分を責めた。

 ルシフにとって非常に愉快ですっきりする場面だった。だがそこへ水を差すように……現れる。


『バーナハ罰ノ対象外デスヨ』


 ……現れたそれは……蒼く細身の身体に、コートのような長い衣装に身を包み、ゴーグルのような眼部をズレた眼鏡の位置を直すように上げ、口を歪ませていた。


『彼ノオ陰デ私ノ計画ハ順調ニ進ミマシタカラネ。ムシロ有意義ニ貢献シテクレマシタヨ。対セイヴァーノ戦略ニネ……フフフ……』

『何……?』


 蠢く新たなギョウマの策略。その魔の手が伸びる先は……?

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