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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
第2章
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繋がりの歪み

 ギョウマ達が潜む暗黒空間。そこに激震が走った。


『エレムガ死ンダ!?』


 にわかに信じがたい事だが、戻ってこない所を見るとそうなのだろうと、バーナは理解した。

 優希達の言う異世界は、ギョウマ達にとっても厄介な場所であることは明らかとなっている。馴れ合いを如何にも好まなさそうなルシフですらこの場所にきちんと戻ってくるのはその為だ。


 それゆえにルシフは知っていた。バーナがエレムを嫌っていたことは。


『……生意気ナ『ガキ』ガ消エタンダ、喜バシイ事ジャナイノカ?』

『……ソウダガ、コレデセイヴァーノ恐ロシサガ明確ニナッタデハナイカ!』


 ただの臆病風か。それを知ってルシフは心の中でほくそ笑んだ。が、その後バーナは付け足すように言った。


『……確カニ俺ハ奴ガ心底嫌イダッタ。ダガ、ソノ強サダケハ認メテイタ』


 強さゆえの信頼。バーナにはそれがあったのだ。失って初めて知るその意味を、噛みしめるようにその拳を握っていた。

 ルシフは思った――下らん。結局はこいつもあのセイヴァーと同じか。誰かを信じた時点で負けなのだと。

 信じられるのは己の強さだ。だからこそルシフはいつも通り平然といられた。


『セイヴァーヲ倒ス為ノ作戦ハ、モウ既ニ『ウェイブ』ガ行ッテイル。焦ラズトモ仇ハ討テルサ』


 もちろん仇なんざどうだって良い。自分はただ、生き残る。この先の戦いにおいても。

 ルシフは一人、それを決意し、更に奥の暗闇の中へ消えていった。そしてそこに残るバーナは一人、怒りの炎をたぎらせていた。


『……殺ッテヤル。コノ俺ガセイヴァーヲ!!』



 ***



 エレムとの決戦から数日。その間他のギョウマとの戦いもなく、平和な日々を送れた私は、ついに傷も治り、学校に復帰する事となった。


「新庄優希、ただいま帰還しましたー!」


 拳を空に突き上げ、元気いっぱいにやって来た私を、みんなは快く出迎えてくれた。

 たった二週間ほどの休みなのに凄く懐かしく感じる教室に、少し胸がじんわり熱くなる。

 いつもと変わらない日常というのは素晴らしい。そしてそれを守ってるんだって思うと、ちょっぴり誇らしい気分になる。


(セイヴァーも学業も頑張るぞってやる気になっちゃうね!)


 席につく。鞘乃ちゃんの隣なのが嬉しいお気に入りの場所だ。

 鞘乃ちゃんは毎日のようにお見舞いに来てくれたが、それでも彼女の可愛らしい笑顔を見ると思わず気分が跳ね上がってしまう。


「おはよう鞘乃ちゃん!」

「もうすっかり元気だね」

「うん!元気バクハツって感じだよ」


 鞘乃ちゃんのお陰でね。……と、みんなの前ではさすがにちょびーっと照れて言えないかなぁ。

 そういうとこ見て葉月ちゃんは何故か喜んじゃうし……笑顔を見せてくれるのは良いけど、さすがに方法は考えてほしいなーって……。そう考えているとグルンと彼女はこっちに視線を向けた。彼女は私の前の座席だからね。


「……やっほー葉月ちゃん、おはよう」

「おはようございます優希ちゃん。どうぞ私に構わず続けてください」


 続けてもいいけどたぶん葉月ちゃんが想像してるところまではいかないよ、うん。

 こんな葉月ちゃんだけど、彼女も結局毎日お見舞いに来てくれたし、彼女のお陰で私は困難を一つ乗り越える事が出来た。彼女の強さが、私を立ち上がらせてくれた。間違いなくいい子ではあるんだよね。


 ――葉月ちゃんもギョウマ退治のメンバーに加わったし(戦力としてどうなのかはまだ未知数なんだけど――)、私達三人は以前よりも更に強い絆で結ばれたことと思う。


 ただ、あの子は。あの子だけは真実を知ることなく暮らしている。

 ……でもそれでいい。それでいいんだ。彼女は荒々しいが、実際は優しい。友達の困ってることを解決しようと突っ走る。だから知るべき人間じゃない。

 仲間外れのように見えるかもしれないけど、それでも私はこれ以上友達を巻き込みたくない。結果、彼女とはあれ以来会えてないんだけど。


(……彩音ちゃん)


 彼女の席は私の斜め前だ。そこにその姿はない。私が彼女を傷つけてしまったせいだろう。隠し事をしていることは悪いと思っているし、その分遊んであげたいんだけど……。


「今日は休み、か」

「正確には今日も、ですよ」


 付け足すように葉月ちゃんは言う。

 彩音ちゃんは私と仲違いして、やはりそれを引きずっていたそうだ。葉月ちゃんはなんとか元気付けようと彼女に積極的に話しかけに行ったし、寄り道に誘ったりもした。でも適当にあしらわれてしまい……数日後、彼女はとうとう来なくなってしまったと。

 私は怪我をしていた――そんな状態でそれを知れば、無茶して怪我が長引くかもしれない。私に心配をかけないために二人は黙っていてくれたのだ。


「……私のせいだよね」

「……全部が全部そうだとは言えませんよ。優希ちゃんには優希ちゃんの事情があったんですし、一概に誰が悪いだなんて言えないと思います」


 ……さすが。葉月ちゃんは深くまで考えてくれてるなぁ。葉月ちゃんは私の味方でも、彩音ちゃんの味方でもある。だから両方の事をちゃんと理解してくれてるし、フォローもしてくれる。

 でもそれに甘んじてほっておく訳にもいかないんだよね。私、決めたもん。何度繰り返すことになっても絶対に彩音ちゃんが……みんなが笑って終われる最後にするって。


 とりあえず放課後、彼女の家に行ってみよう。その為にも、一生懸命今日の授業を頑張らないとね。


「えっと……今日木曜だっけ。時間割、なんだっけ」

「一時間目は数学だよ」

「えっ」


 なにそれこわい。




 ――そんなわけで一時間目から苦手を極めた数学という絶望的な始まりを迎えたその日の放課後。出鼻から挫かれたようで調子が狂ってしまったが、なんとかやりきり、すぐに私は学校を後にした。


 ……正直ちょっと怖い。彩音ちゃんの事は結構頼りにしてたところもあるし、一緒にふざけられる相手だったから、その分拒絶されたらどうしようかとか考えてしまう。それに……。


「……ボコボコにされちゃうかも!」


 ……ごめん、今のは悪い冗談だ。


 でもなにか持ってた方がいいかな――いや機嫌取りとかそんなんじゃ無いよ?

 目の前の焼き芋がすごく美味しそっ……うだから、彩音ちゃんは喜んでくれそうだし――いやほんと、私が食べたい訳じゃないんだ。

 そんな葛藤と戦って、焼き芋屋さんの前で険しい表情を作り、腕を組んで悩んでいると、後ろから声をかけられた。


「優希ちゃんなにやってるの?」

「えっ!?」


 驚いてすぐに後ろを振り返ると、鞘乃ちゃんが立っていた。

 どうしてここにいるのかと尋ねると、それに重ねるように彼女は私に質問する。彩音ちゃんの家に行くんだよね?と。

 なるほど、お見通しだったか。いや、今回はさすがに私の行動が分かりやすすぎたかもしれない。

 それで私が頷くと、一緒に連れていってほしいと、彼女は私にお願いした。


「優希ちゃんがセイヴァーになった元々の原因は私だし、私も彩音ちゃんと話したくて。……でも私、彩音ちゃんの家知らないし、だから追いかけて来たんだけど」


 彼女は相変わらず、自分を責めるように落ち込んだ表情を見せる。でも、選んだのは私。鞘乃ちゃんは何も悪くない。その事は、もう何度も伝えたんだけど……彼女からすればそう簡単に割りきれる話でも無いか。

 でも、それは現状においてはありがたい話だったりする。一人だと心細かったから。だから私はあっさりと承諾してしまった。

 そしてそれは正しかったと、今そう思う。話をしながら歩くと、少し気分が落ち着いたんだ。鞘乃ちゃんは私にとって本当に大きな存在だなって実感しているよ。


 ――彩音ちゃんの家までだいぶ近づいてきた。そこで話は彼女についてのことにシフトする。


「確か優希ちゃんと一番長くいるのは彩音ちゃんだったよね」

「うん、小学校の三年から一緒だよ」


 彩音ちゃんは見た目こそ柄が悪いなんて言われるのがしょっちゅうで、私も最初はちょっとビビってたっけ。

 でも根は相当な常識人で、年齢以上に落ち着いているように思える。無茶苦茶な私を止めてくれたのもいつも彼女だ。

 幼い頃の私は今以上に困ってることを解決しようと奮闘していたけど、大半を支えてくれてたのも彩音ちゃん。

 「アタシに任せとけって」「お前は弱っちいんだからすっこんでな」――言い方は乱暴だけど、私じゃどうにも出来ないことを肩代わりしてくれていた。


 私の気持ちを尊重してしぶしぶ付き合ってくれるし、私が怖がることは代わりに受け止めてくれる。

 今じゃおふざけで『アヤゴ』だなんてあだ名で呼んでは笑っているけど、以前の私にとっては本当に頼れるお姉ちゃんみたいな存在だった。


「――もちろん今も頼りにはしてるけどね」

「中学に入ってからはそれも顕著になりましたよねぇ」

「まぁ、そうかもね……って葉月ちゃん!?」


 自然に会話に参加してるけど、いつからいたのだろう。

 ようやく気づいた私に、彼女は少し怒っているという風に、頬を膨らませていた。


「こんな事だろうと思って付けてきたんですよ。黙って行くなんて酷いじゃないですかぁ」


 プンプン、と彼女のおちゃらけた感じの怒りに、笑い事で済んだけれど、実際、返す言葉が無かった。

 そもそも、彩音ちゃんに会うことすら怖がっていた状態で一人乗り込んでも、冷静に話し合いが出来るとも限らない。それにも関わらず、どうして私はこう、一人で突っ走っちゃうかな……。

 そうして落ち込んでいる私を見かねて、鞘乃ちゃんが元気付けようとこう言ってくれた。


「先走ってしまったのも、優希ちゃんが彩音ちゃんを想ってるからこそよね。誰かのために一所懸命に動ける優希ちゃんを私は立派だと思うわ」


 素直に喜んじゃいけない状況にいるとはいえ、嬉しくて元気を取り戻せた。しかしすぐに葉月ちゃんはやれやれといった風に手を広げた。


「鞘乃ちゃんは優希ちゃんに甘過ぎますよ。最高です!もっと続けてください」


 本音!本音出ちゃってるから!!

 そう突っ込んだものの、今日のところは勘弁してくれた葉月ちゃんに頭は上がらないんだけどね。


 ――結局私達は全員で行くことになったわけだけれど、話題が脱線したので一旦戻そう。

 葉月ちゃんが言った通り、中学に入ってからは私と彩音ちゃんの関係は少し変わった気がする。


 葉月ちゃんは言う。私が精神的に成長した事で自分の行動に責任を持てるようになったからだと。


「それが今回の事と関係してるって?」

「……彩音ちゃん、本来はあんなに取り乱すタイプじゃ無いじゃないですか。私に見張りまでさせるなんて、今思えば少し行きすぎてると思いますし、あれは優希ちゃんを心配してやっているというよりは……」


 言いかけたところで、私達は目撃する。

 彩音ちゃんだ。家からちょうど出てきたところだった。やっぱり、ちょっぴり怖いけど、キチンと話せばきっとわかってくれる。

 もちろんセイヴァーの事は話せないから曖昧な表現になっちゃうだろうけど――でも、なんとか理解してもらえるように私も粘ってみるよ。彩音ちゃんだって、きっと私の言葉を待ってくれてるはずだから。


 覚悟を決め、私は声をかけようとした。が、その瞬間――鞘乃ちゃんのケータイから、戦いへのメロディーが鳴り響く。まさかのこのぴったりのタイミングで、ギョウマは姿を現したようだ。

 もちろん彩音ちゃんの事は早く解決してあげなくちゃいけない。でも、世界の危機が迫ってる。ほっておくわけにはいかない。私達は急いでその場を後にする。


(ごめん彩音ちゃん……)


 悲しみをこらえ、私は走った。悪が蔓延る非日常の世界へと――。



 ***



「あれって優希達だよな……?」


 彩音は見ていた。自分に背を向け走り去る友人達の姿を。人の顔を見た途端に、まるで邪魔者扱いをするように、消えていく。それを追いかける気力すら、湧かなかった。

 ――なにかが込み上げてきているのを理解した。しかし彩音はそれを堪えた。

 優希自身に否定され、葉月にも誤魔化されたが、やはり優希達は何かを隠している。それが今確信に変わった。しかも自分以外は全員繋がっているらしく、彩音は孤独を覚えた。


 だけどもういい。何故ならば自分には優希以外に友達がいる。そう、大切な大切な……。


「もしもし、アタシだよ。いや、大した事じゃないんだ。ちょっと寂しくて……」


 彼の声が聞こえる。それだけで安心できた。彼と繋がっていられると、友人に裏切られてもなんとも思わない。だって彼は、自分を理解してくれているのだから。


「ありがとう、『ウェイブ』」


 その名を呼ぶ彩音の顔は幸せに満ちたようであった。

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