疾風の煌めき
あれから数時間経って、鞘乃ちゃんから連絡があった。再びギョウマが現れた。が、今度は一体だけだそうだ。
二日連続で来るとは珍しい。そのせっかちなところから、誰だか大体察しはつく。相手、してあげないとな。
今日はちゃんと着替えて、外出許可も取った。昨日の事もあり、先生が渋い顔をしていたが、葉月ちゃんがきちんと見張っておくと念押ししてくれたので、どうにか出動出来た。
「どうやら答えは出たようね」
私の表情を見るなり鞘乃ちゃんはそう言った。そんなに表情に出てたかな?
――私達三人を乗せ、ビヨンドくんは次元の先へ走り出す。そしてレーダーが指し示す位置へと向かった。
『ヤァ。待ッテタヨ』
予想通りエレムが待ち構えていた。その周りでザコギョウマ達が横たわっていた。奴曰く、『退屈しのぎ』だそうだ。……もう呆れて言う言葉もない。救いようがないくらいどす黒い悪意の塊だ。
「でも救ってあげるよ。もうこれ以上君に悪事は重ねさせない」
『ハァ?』
「私は救世主だからね」
エレムは馬鹿にするように笑っている。
『ヤダヨ。僕ハモットモット壊シタインダ』
「しつこい男子は嫌われるよ?」
『フン。結構ダヨ』
エレムは雷撃をめちゃくちゃに走らせ、岩や地面を抉った。そして余裕満々に気の抜けた座り方から一変して、戦闘体勢に入った。
『今日ハ邪魔者モイナイ!トコトン遊ンデクレヨ!ナァ、セイヴァー!』
なるほど、それで一人で来たって訳か。わかったよ。決着をつけよう。私が出した答えを見せてあげる。私はセイヴァーシステムを起動した。
そして自信満々に笑顔を作った。
『戦エル事ガソンナニ嬉シイノ?』
「ううん、そんなものよりも大切な笑顔だよ」
『ソウカイ。ジャア興味無イヤ』
エレムも笑顔だった。だけど私のそれとは違う。戦いだけを楽しむ邪悪な笑みだ。
だから私はそれに全力でぶつかる。そんな悲しい笑顔を否定するために、葉月ちゃんが教えてくれた、大切なものの為の笑顔で。
エレムは自慢の素早い脚で私を翻弄させようと、自在に動き回った。そしてその合間合間に攻撃を重ね、じわじわと追い詰めていく戦法を取った。
今回こそ、確実に私を倒そうとしているのだろう。
だが、私はその攻撃を見切り、逆に拳によるカウンターを決めた!
焦るエレム。思わず後退するが、それにピタリと付くように接近し、パンチを繰り出す。それはガードされるが、確実にエレムの焦りを促進させていた。
『昨日程デハ無イガ……速イ!シカモ一瞬ダケジャナク、ズット……』
「ふふん、人は成長するものなのだよ」
『成長……ダト?一体何ガ、オ前ヲ強クシタ!?』
「みんなとの繋がり、だよ」
エレムはその答えに納得してくれてそうではなかった。幾多の雷撃を発生させ、私に向けて放たれる。
……エレムは、そういうの大嫌いみたいだしね。でも、その気持ちはわかる。
私も、その事で後悔しかけた。彩音ちゃんを悲しませて、思ってしまったんだ。
――セイヴァーなんかにならなければ良かったって。
でもそれは違う。それがあったから私は鞘乃ちゃんを救えた。
――だから彩音ちゃんとはこうなる結末だった。
……それも違う!私は突き抜けた馬鹿なんだ。ビビって縮こまってるのは、私らしくない。全部彩音ちゃんが教えてくれたこと。だからまだ終わりじゃない。終わらせない!
私は自分を見失っていた。いろんな事に不安になって、それに負けそうになっていた。
「私は……後悔しない!」
私はセイヴァーソードを構え、エレムの雷撃を弾き、攻撃の届く範囲へ間合いを詰めた。
エレムはその鋭い爪でセイヴァーソードに対抗するが、次第にそれは防御に徹し始める。
何故なら私の攻撃はどんどん速くなり、そして威力を増していく。
「過去の事を後悔しない。その時その時一生懸命に生きてきた私とみんなとの絆を、否定するような事はしない!私は前に進む!そしてその先の結果を掴む!もしその結果が誰かの絶望なら、見捨てない!私が救う!」
『グ……ウウッ……!』
「そのことを何回!何十回!何百回!何千回!繰り返すことになっても!私は!戦い続ける!!」
『グアアッ!!』
想いを乗せた剣は、破滅を誘う魔の爪を粉砕した。
これが私の答え。どんなときでも諦めず、前に進む。大切なもの……みんなと繋いだ絆の笑顔で!!
だがエレムもまた、それを否定しようとしていた。
『オ前等ノ下ラン能天気ニ付キ合ウノハモウウンザリナンダヨ!!!消シテヤル!!!全部全部ブッ潰シテヤル!!!!』
その角から放電する。これまで以上に巨大な出力で、狙いは私……というよりは、文字通り全て。あらゆるものを削り取っていく。
苛立ち、憎しみ、屈辱……いろんな感情が混じりあい、奴を暴走させているのか……。今回は本当にヤバいかも。このままほっといたら本当に世界を滅ぼされてしまうだろうね。
……倒すしかない。でもあの暴走した凄まじい威力の雷撃をどうにか出来ないと近づくことすら不可能だ。今のままでは勝てない事も理解できる。
「……それでもやる。救世主は世界を救うまで諦めない!」
『それでこそ優希ちゃんです』
通信を通して声が聞こえる。葉月ちゃんだ。
『貴女が出した答え、ちゃんと聞いてましたよ。……生憎、私にはなんの力もありませんが、気持ちは同じです。諦めません。最後の最後まで優希ちゃんの勝利を信じています!この想いも、どうか一緒に連れていってください!』
「葉月ちゃん……!」
その瞬間、緑色の閃光が私の手のなかで輝いた。ピクリとも動かなかったはずの鍵が、私を導くように煌めく。
「……わかった。一緒に行こう、葉月ちゃん」
緑の鍵をセイヴァーグローブのスロットに装填する。
光が溢れ、そして巻き起こった旋風が、邪悪のスパークを欠き消した……!
――通常形態……赤き姿のセイヴァーから葉月ちゃんの想いを纏い、緑色の姿に変化する。右腕の装甲も変化し、暴風のように荒々しくなる。
雷撃を欠き消されたが、暴走したエレムは依然雷による攻撃を振りまいていた。
私は竜巻のガードを作り出し、雷撃を相殺する。なんとなく「やるぞ!」と思えばそれは操ることができた。
「鞘乃ちゃん、これって……っ!」
『えぇ、風を司る新たな姿に変化する…その鍵に秘められた効果はそれのようね。差し詰め、『セイヴァーブラスト』とでも名付けましょうか』
良いね、それ。中々カッコいいと思う、採用!……ところでブラストって何?
まぁいいや!とにかく今の私ならエレムの雷にも負けない!セイヴァーブラスト新庄優希、いざ参る!
「さぁ、これからが本当の戦いだよ!」
ついにエレムとの最終決戦が始まる。エレムはやはり暴走状態だ。でもその攻撃は危険。それは風を操れる今でも同じ。周りに被害が及ぶ可能性が少しでもある。
ならばまずはあの自慢の角を破壊するしかない。セイヴァーソードに風の力を付与して、強力な一撃を浴びせてやろう!
「いくよっ!たあああああああああっ!」
風によるガードを張り巡らせ、エレムの雷撃をもろともせずに接近する。そしてそのまま一撃!……かわされた!
『フン、何時マデモ暴走シテルト思ッタラ大間違イダヨ』
これは罠だったのか!エレムは自慢のスピードで私の後ろに回り込み、そしてそのまま雷を纏わせたパンチを繰り出そうとした。
が、私もエレムの攻撃をかわした。今までの私なら、無理だっただろう。油断していた状態で後ろからの攻撃に、かわすという判断は取れないだろうからね。
ただ今の私は、気づくのが遅くても、より早く動ける。風の力を得た私は、正しく風のごとき速度で動く事ができる。
さらに、巻き起こした風は凄まじい勢いで吹きすさび、エレムの動きを奪う。その隙に一気に畳み掛ける!
「たぁっ!」
セイヴァーソードを降り下ろし、エレムを一刀両断にしようとする、が、なんとかそれを受け止めたエレム。しかし本命はそっちじゃない!左の拳によるラッシュをエレムに向かって突き出していた!
「へへんっ、罠には罠だよ!」
確実にヒットした。私はパワーにだけは自信がある。しかも今はさらに素早いラッシュが可能。それをまともに受けたんだ。倒していてもおかしくないはず…。
『……ナンダ今ノ。フザケテルノ?』
(まるで効いていない!?どうして?)
鞘乃ちゃんがその解析に当たってくれた。
――まだデータがはっきりとれていないからわからないけど、恐らく通常のセイヴァーよりも格段にパワーが落ちている……鍵の力は、単純に効果を与えてくれるだけでは無いようね。――そう彼女は告げた。
力を得ればその分デメリットも生じるってことか……。臨機応変に使い分けて戦いたいところだけど、エレムの本気に対応するにはこの形態じゃないと厳しい。それに……私はこの力で勝ちたい。葉月ちゃんとの絆の力で!
そのためにはどうすればいい?セイヴァーソードはこの形態の弱点であるパワー不足の解消にはなる。だけど受け止められればさっきと同じ。
しかもエレムは防御に専念していれば私にカウンターを喰らわせられるチャンスが訪れる。いくら風に動きを惑わされているとはいえ、エレムの本気の速度は本物だ。間合いに入った至近距離で一気に仕留めに来るだろう。
ならば奴より早く届く強力な攻撃を――。
『……ム?サッキマデノ威勢ノ良サハドウシタ!来ナイナラコッチカラ行クゾ!』
私はエレムに対し、無防備に瞳を閉じていた。――隙だらけを、装っていた。エレムはそれに乗せられ、苛立ちのままに力を解放した。
『フン!ジャア、オ望ミ通リ死ネ!』
雷撃を纏わせた拳。それを振り上げエレムはその場から消える。超速スピードが一気に私と奴との距離を縮めることだろう。
だが駆け出したエレムは三歩程度足を動かしたところで地面に膝をついていた。
『……!???何ガ……!?』
致命傷と言うほどではない。が、それは確実にエレムを撃ち抜き膝まずかせた。……私が手に持っていたのは既にセイヴァーソードではなく。
その弾丸は風を纏いて高速のスピードで敵を射抜く救世の銃――セイヴァーシューター。
『何ィ!?新タナ武器ダトッ!?』
エレムはもはや怒りに任せ暴走するほどの気力も無く、初めて絶望と言えるような表情に染まっていた。
決着は、もう目前だった――。