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十夜家の忌子

 四時限目の開始を待たずして、校内放送にて全校生徒へ下校が言い渡された。保護者やマスコミへの対応が追い付かないのだろう。望外の自由に階下からわっ、と歓声が上がり、窓ガラスを揺らした。まったく一年生は初々しいな、気楽な事だ。と思ったが、立場だけ見れば私も一年生みたいなものなんだよなぁ。


 しかし私の心は気楽とは程遠い。鬱々とした感情を抱えながら、我が安息の地である第二図書室へと向かって歩いていた。

 こんな泥水のような気持になった原因は言うまでもなく、二扇警視の小言だ。私がどうしてお金に拘るか知っているくせに、それでもなおあのような事を言うのか。


 人間社会の中で生きていきたいと思う感情が、少なからず自分の中にあるのはもう理解している。結局は不安なのだ。いつ命を落とすか解らない祓い屋家業などを続けるよりは、普通の女の子として生きていく道を選んだ方がきっと真っ当なのだろう。けれど、そう簡単に生き方を変える事はできない。変えたくない。私はまだ何も納得をしていない。受け入れていない。せっかく戦うだけの力があるんだ、ならば戦わないでどうする。抗わないでどうする。


 私だって馬鹿じゃない。この道の行く先に何もないのは解っている。それでも私がもがくのはただの意地だ。祓い屋家業は続けるにしても、もっと別のやりようもあるだろう、もっと大切なものがあるだろうと二扇警視は言いたいのだ。学び舎というのはそういったものを探すのには格好の場所だと考えているに違いない。


 それこそが。その高い視点から見下ろすような、まるで憐れむような優しさが気に食わない。


 私の主義を否定しないが肯定もしないという事は、さして興味が無いという事だろう。別に私だってそれを認めてもらいたい訳ではないけれど、どうでも良いならばあんな言葉で邪魔をしないでほしい。私をかき回さないでほしい。


 深くため息をつき、心の棘を吐き出す。ぐだぐだしていても仕方ない。二扇警視も悪気はないのだろう。ならば一つの忠告として快く受け入れて、にっこりと微笑むのが良い女ってものだ。先ほどは上手く出来なかったが、次からはそうしなくては。


 それにしても、四年も経った今になって再び逆吊り蟷螂の名を再び聞くことになるとはね。低級ながらも山神の一種で、わりとポピュラーな奴だ。祓い屋家業を続けていれば、またいずれ相まみえる事もあるだろうとは思っていたが、まさかこのような形であの記憶を呼び起こさせされる事になるとは。


 私はヒーローじゃない。痛いのは嫌だし怖いのも御免だ。報酬だってしっかりと頂くし、そのくせ失敗して状況が悪化する時もある。危機に陥っても何かしらの力に目覚めることは無いし、主人公補正とやらで不可解に生き残る事もきっとない。無理でもして、そこに不運が重なれば私は奇跡の光に守られることなく普通に死ぬだろう。


 目に映る全ての人を守る事はできない、救う事はできない。十人を助けるのに一人見捨てろと言われれば、即座に見捨てる。数が十倍でも変わらない。その一人を自分で殺せと言われたらそうするし、実際にそういうときもあった。そして無料ではない。感謝されたくてそのような事をするわけではないのだ。誠意とは態度ではなく金銭で示すものだ。人命救助は一人あたり三十万から応相談。


 さて、どれくらいの価格で嘉手納家へ交渉を持ちかけようかと考えながら第二図書室の扉を開けた所で、その思考を中断させられた。意外なものを目にしたからだ。


 普段は全く人の寄りつかないこの第二図書室に、先客が居た。

 とはいえこの第二図書室も常時開放されているわけで、他に生徒がやってくるのはあり得ない事ではない。それでも私の目が釘付けになったのは、その姿があまりにも特異だったからだ。


 まず目を惹くのは肩口まですらりと伸びた美しい銀髪だ。窓から差し込む日差しを反射して新雪のように煌めいている。

 そしてうすく開かれた眼は透き通った緑色で、まるで一粒の宝石のようだった。

柔らかな日差しの中で精霊たちに囲まれ、重厚な装丁が施された神学書を開くその姿は神話に登場する女神を思わせた。


 よく解らないけど、北欧系の血筋かな。近寄り難いほどの凄烈な美しさだ。私と良い勝負ね。

 そして、それだけではない。巧く表現できないけれど、この少女からは妙な気配を感じる。何と言うか、同族とでも言うか……。私とどこか近しい物を感じるのだ。この感覚はなんだ。


 手狭な第二図書室には机が三つあるが、日のよく当たる机は一つしかない。それはつまり、銀髪の少女が使っている机だ。

 少しだけ迷った末、結局いつもの定位置である銀髪の少女の斜め前、つまり同じ机を使う事にした。わざわざ薄暗い他の机を使うのは、なんだか負けた様な気分になるからだ。


 間近で寄ると、銀髪の少女の美しさがより鮮明に見て取れた。優しそうな眼もと。すらりと通った鼻筋。お人形みたい、という表現がここまで当てはまる人間を初めて見た。

 しかし、完全な外国人と言う訳ではなさそうだ。全体にうっすらとアジア系の雰囲気がある。


 席につき、読みかけの文庫本を取り出す。

 静かにページを捲り、読み進めていく。内容は面白い、しかしまるで集中できなかった。先ほどから視線を感じるのだ。


 本から少し顔を上げると、こちらを窺うようにチラチラと覗き見てくる銀髪の少女と一瞬目があった。


 よく電車やバスの中、あるいは喫茶店などで向けられる視線だ。明らかに私に対して興味を持っている。いつ話しかけようかタイミングを計っている。面倒くさいなぁ。いずれは話しかけられるだろうし、こちらから行ってやろうか。


「何か用? 集中できないんだけど」

「はへ!?」


あのいやその、と銀髪の少女が慌てふためいている。良いざまだ。しかし本当に綺麗ね、この()

 やがて、コホンと一つ咳払いをして銀髪の少女がまっすぐに私を見据える。


「あの、月宮一葉さん、ですよね」

「人違いです」

「えっ!? いやでも、そんなはずは」


 動揺した小動物のようになった銀髪の少女を眺めて、くすくすと笑う。なかなか面白い娘だ。

 それにしても、私の名前を知っているという事は待ち伏せか。


「ごめんね、嘘よ嘘。私が月宮一葉です」


 壮絶な苦労の末に会得した、初対面の相手専用の柔らかスマイルで応対する。こんなあざとい手でも、相手の緊張と警戒心はそれなりに解れるから不思議なものだ。


「え、あ。よ、良かった、そうよね。ええと、私は十夜(とや)()(さき)、月宮さんの隣のクラスです」


 その名前を聞いて、私は驚愕せざるを得なかった。十夜、か。十夜家の人間と来たか……。


 十夜家とは日本経済界に君臨する大財閥の一つ、十夜財閥を支配する一族の名だ。ホテル経営を初めとして、製鉄、製紙、製薬やエネルギー産業に建設業、運送業などグループ企業の業種は多岐に渡り、その多くが誰でも一度は名を聞いたことがあるだろう大手企業だ。グループ企業の一覧を見れば舌を巻くだろう。


 しかし私にとってもう一つ重要な事は、この十夜家には大恩があるという事だ。白藤学園への入学の手助けと授業費等々、様々な援助をしてくれているのは、他ならぬ十夜家である。


 十夜家とは師である月宮寂星を通して付き合いがあった。白藤学園に入学してから受けた仕事も十夜財閥の傘下企業絡みがほとんどだ。言うまでも無く最重要の顧客であり、その受けた恩もあって十夜家の要求は断れない。流石に命に係わる案件は要相談だが、仕事を振られれば何でも受けるつもりでいた。


 しかし、このタイミングかぁ……。ここで他の仕事を受ければ今朝の事件に関われなくなるかも知れない。複数の仕事を同時にこなせるほど私は要領が良くは無い。さて……。


「そうなんだ。初めてお会いするわよね。それで、どんなご用事?」


 努めて冷静に言葉を返す。まずは相手の出方を伺う所から始めよう。

 ええと、その。と絹糸のような銀髪を揺らしながら言いよどむ少女を見て思う。言うまでもなくハーフだ。血統主義の十夜家にとっては忌子(いみご)だろう。まぁそれでも、十夜性を名乗らせてもらえているだけでも大切にされているのかな。本家の隠し子って所かしら。


 やがて意を決したように、宝石のような瞳で十夜雪咲が私を視線で射抜く。想像以上の眼力に少しだけたじろいでしまった。どんな仕事を依頼されるのだろう。


「あの! もし良かったら〝都研〟に入りませんか!」


 ……んん?


「と、とけん?」


 あ、そうですよね。と十夜雪咲がぱたぱたと手を振る。


「ええと、都研というのは〝都市伝説研究会〟の略で、私はそこの会長をやっています」


 そういっても、二人しか居ないんですけどね。と言葉を続けた。


「うーん。都市伝説ねぇ……」


 顎に手を当てて、可能な限り高速で脳を回転させる。もちろん勧誘に心を動かされている訳ではない。

 なぜ勧誘なんて回りくどい事をするのか。十夜家の人間なら半ば強制的に私を仲間に引き入れる事だってできるはずなのに。もしかしてこの子、私が何者であって、どういった経緯でこの白藤学園に入学してきたのか知らないのかな? それとも単純にそういった事ができる性格でないだけか。どちらにせよ私にとっては都合が良い。今はタイミングも悪いし、断らせて頂こう。


「ごめんなさい、ご希望には添えないわ」

「えっ、でも、学園の怪談話について色々調べていたみたいだし、興味あるのかなって、思ったん、だけ、ど……」


 十夜雪咲が弱々しく反駁する。押しが弱いや、この娘。しかし、学園に住まう精霊について調べていたのを知られているなんて。自分なりに隠れてやっていたつもりなのにな。


「いやぁ、興味が無い訳ではないのだけどねぇ」

「やっぱり興味あるの!?」


 瞳に星を宿らせて十夜雪咲がずい、と身を乗り出してくる。ちょっと怖い。


「私ね、妖精とか天使のお話が大好きで。でも日本の幽霊や妖怪の話も独特の雰囲気があって好きなんだけどね。っていうか、そう言ったオカルトな部分にはその国ごとの特色が強く出るって言うか、そこが良い所なんだけど」

「いやあの、ちょっと」


 ああもう、顔が近い近い近い。なんでこう私の周りにはこういう圧力をかけてくる奴が多いのか。


「それでね、私が最近ハマってるのはボティス写本っていう、バチカンでは禁書指定を受けている本で……まぁ私が持っているのはもちろん写本なのでしょうけど。それでも中身が面白くって、キリストはサタンが使わしたものである。つまり悪魔の王と言われるサタンこそが主神であり、千年王国に人々を招き入れる明けの明星こそがルシファーであり、サタンであるという物で……」


 興奮気味に語る十夜雪咲の話を、私はぼんやりと聞いていた。

 禁書指定? サタン? いかにも夢見がちな少女が好きそうなお話だ。今この場にも、貴方の大好きな怪談話の主役たちが大勢いるのよ、と言ってやりたいくらいだ。もちろんそんな事を口にすれば火に油なので黙っているつもりだが。


「そうだ、今ちょうど持ってきているのよ」


 そう言って、十夜雪咲が鞄の中からずるりと一冊の分厚い書籍を取り出した。

 その瞬間、周囲にいた精霊たちは逃げるように掻き消え、私の全身も総毛だった。

 あれって……。


「まぁ家の書庫に転がっていた本だから、大したものではないのでしょうけど。でも見て、この表装とか凝ってるでしょ?」


 凝っている、どころの話ではない。赤黒く染められた革張りの表装には蛇の身体を持つ悪魔が精緻に描かれ、全体から邪気のような嫌な雰囲気を放っている。

 間違いなく、本物だ。本物の魔術書の類だ。こんなものが普通に転がっているとか、十夜家半端ない。


 相当古い物のようだが、十分に召喚儀式の触媒などになりうる。封印しておくに越したことは無い書物だ。でもまぁ私には関係ないので放っておく。それよりもあの書物、(ビブリオ)書家(マニア)に売れば一体どれほどの価値になるだろう。私としてはそちらのほうに興味がある。


 私が話を聞いていないのも関わらず、十夜雪咲はボティス写本の魅力について滔々(とうとう)と語っている。いやぁ、きりが無さそうだ。


「お話は面白いんだけど、ちょっと大切な仕事があるから……」

「仕事? アルバイトでもされているの?」


 なるほど、どうやら十夜雪咲は私の仕事について何も知らないらしい。


「ええ。この後も色々あるので……」


 荷物を纏め、退散しようと腰を浮かせる。


「ちょ、ちょっと待って! アルバイト代ならお支払いしますから、せめてお話だけでも」


 心の中で一つ舌打をする。お代を支払うだって? 随分と安く見られたものだ。


「じゃあ相談料百万。都研とやらに入るなら追加で二百万。まからないわよ?」


 十夜雪咲が胸に手を当てて息を呑む。少しばかり大人げないが、ここまで言えば流石に退くだろう。正式な仕事の依頼というなら話くらいは聞くつもりだが、遊びに付き合うつもりはない。ただでさえ大口の仕事が控えているのだ。


「わ、かりました……。待っていてください」


 そう言って、表情を硬くした十夜雪咲が第二図書室を出て行く。そうそう、それで良いのよ。合計三百万なんて女子高生に支払える金額じゃ……。


 うん? 待っていてください、だって?


 嫌な予感は約十数分後に現実のものとなった。目の前に現金三百万が耳をそろえて積み上げられた。どうやら家から持ってきてもらったらしい。やっぱり十夜家半端ない。

 まぁ、待てと言われて素直に待っていた私も悪いのだけど……。これで退くに退けなくなってしまった。なんてこった。しかし普通、ここまでする?


「……気持ちはよく解ったわ。お話くらいは伺います。それで、私を都研に入れてどうしようって?」


 半ば呆れながら問う。富裕層の金銭感覚という物はやはり解らない。


「今朝起きた事件の事を調べようと考えておりまして。でも流石に二人じゃ手が足りないから、そちらに詳しそうな月宮さんに協力してもらおうと」


 十夜雪咲の言葉に違和感を覚えた。今朝の事件と言えば嘉手納達の一件だろう。一般には通常の、言えばおかしいかもしれないが〝人間の手による殺人事件〟と認識されているはずだ。


「貴方が研究しているのは都市伝説、なのでしょう。どうして殺人事件なんかに興味があるの? 流石に私はそちらには明るくないわよ?」

「ええ、その件ですが……。〝ハンズマン〟って言葉、聞き覚えがありませんか?」

「ハンズマン……」


三か月ほど前から散発的に発生している通り魔事件の俗称が〝ハンズマン事件〟だったかしら。


 事件のあらましはこうだ。


 被害者の多くは夜の独り歩き。不意に腕や足に熱を感じ、不思議に思い確認してみるとそこにはざっくりと斬られた跡があった、という物だ。

 しかし誰も犯人どころか人影すら目にしておらず、不可解な事故として処理されていた。しかしある日被害者の一人が〝頭部があるべき場所に腕が生えた男のような化け物に襲われた〟と証言したことにより、オカルト的な意味合いを込めて〝ハンズマン事件〟と呼称され、薄気味の悪い都市伝説としてこの地域にひっそりと根付く事になった。


「今回の件、そのハンズマン事件がエスカレートして引き起されたのではないか、と一部で噂になっていまして。都研としてはやっぱり見過ごせないかな、と」

「ふーん、なるほど……」


 悪くない話だ。


 どちらにせよ、今回の件で契約を取り付けに行くのは葬儀などが終わって少し落ち着いてからでなくてはいけない。悲しみに暮れる間もなく慌ただしく過ごしている所に「貴方の息子さんは禍津神に殺されたのですよ。仇を取りたくありませんか?」などと言った所で門前払い、最悪は禍根を残す可能性もある。


 既に人死にが出ているのであまり放置はできないが、それでも三日は間を置きたいところだ。その間に交渉材料として、ある程度事件の下調べをしておかなくてはならない。どうせ同じことをするならばお金が貰えた方がお得だ。後々も都研の活動に駆り出される可能性については面倒事だとは思うが、十夜雪咲は押しが弱い。適当に誤魔化す事も可能だろう。


「話は解ったわ。協力しても良いわよ」

「本当に!? 良かった!」


 十夜雪咲の表情がパッと明るくなる。なんて無邪気な笑顔だろう。私を一ミリも疑っていないようだ。なんだか少し罪悪感があるな。


「じゃあ早速、食事でもしながら活動方針を決めませんか? お昼ご飯、まだですよね」

「ご飯は良いけど、ここらじゃ学食くらいしか無くない?」


 うーん、と十夜雪咲が腕を組んで考え込む。


「そうだ。せっかくですし、駅前にできたハンバーガーショップに行きませんか? 一回食べてみたかったんですよねー」


 ああ、いかにも学生って感じね。そういうのも悪くないかな。


「良いんじゃない? じゃあバスに乗って……。ん? 駅前?」


 そうえいば、学園を出た嘉手納達は、その後どうしたのだろう。亀子さんの話では、学園から逃げ出した直後に事件に巻き込まれた可能性があるという事だけど、彼らはどのあたりで襲われたのか。


 学園に戻るという選択肢は無かったはずだ。そして彼らは寮住まい。となれば必然的に駅の方面へ向かうのではないだろうか。であるならば、駅前までの道のりで何か見つかるかもしれない。まずはそこから手を付けるのが良いだろう。それならば一人のほうが動きやすい。色々と見られては不味い物もある。


「ああそうだ、ごめんなさい。先に約束があるのよ。申し訳ないけれど、ハンバーガーは今度にしましょう?」

「そうですか。残念ですが、それならば仕方がないですね……」


 あっさりと十夜雪咲は退いて見せた。彼女にしてみれば大きい目的は達しているので、これ以上拘る必要もないのだろう。


 十夜雪咲と携帯電話の番号とメールアドレスのやり取りをし、その場を離れる。

 学園の前には未だにマスコミが固まっていた。どうやら下校する生徒に取材をしているらしい。しかしその大半はバス停で到着を待っている学生に対してであり、その人ごみをすり抜けるのは容易であった。


 のんびりとした田舎道をゆっくりと歩く。

 包み込むような日差しはほんのりと暖かく、肌を撫でる風も柔らかい。

 アスファルトの裂け目から逞しく伸びた草が青々と輝き、道脇に佇む野花に蝶が舞う。


 実に心休まる風景だ。ここで起きたであろう事を知らなければ。


 あたりを注意深く探りながら歩を進める。

 やがて道の先に古びた自販機が見えた。ほのかな予感に誘われるままに近寄り、あたりを探る。その時、ふっと嗅ぎ慣れた匂いが鼻先を過った。

 ビンゴだ。禍津神が放つ瘴気の香りが微かに残っている。最初の現場はここか。


 他に何か残されてはいないかと周囲を探るが、それ以上の収穫は無さそうだった。


 ため息をつきながら空を見上げると、そこにはゆったりと空を泳ぐ風蛇の姿があった。いつか見かけた個体と同じように思う。このあたりを遊泳しているのか。


 ふと思いつき、鋭く口笛を吹き風蛇の注意をこちらに向ける。そしてポケットから小瓶を取り出し、かざして見せる。


 その小瓶の中には、紅い飴玉が詰まっていた。


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