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お題:洗濯バサミ、メロン、ガラスのコップ タイトル:クリスマスイブイブの話

作者: 機龍ユウト

サークル初同人誌「ショートケーキプレリュード」の表紙絵担当……予定だった「もやしの勇気」氏からのお題。

 高校二年生の冬休み。今日は12月23日で俗にクリスマスイブイブと呼ばれている日だ。

 今は家にいるのだが正直やることがなくてヒマを持て余している。とりあえず最寄り駅前の広場にでも行ってみよう。



 駅前広場には飾り付けられたクリスマスツリーが設置され、周囲には野生のリア充達がイチャイチャしている。彼女いない歴イコール年齢の自分には眩しすぎて直視できない光景だ。

「神谷君?」

 背後からの声に振り返ってみると、そこにいたのは同じクラスの田村由依さんであった。教室ではいつも本を読んでいて、人と話しているところはあまり見たことがない。

 正直声を掛けられたことに驚いている。彼女と言葉を交わしたのは四月の一回きりで、その時に仲良くなれたワケでもなかった。

「田村さんどうしたの? こんなところで」

「もうすぐクリスマスじゃない? それで彼氏のためにプレゼントを買いに来たの」

 ショックだった。田村さんに彼氏がいるなんて初耳だったからだ。

「それで神谷君にお願いがあるんだけど……。プレゼント選びを手伝ってほしいの。男性の好きな物ってよくわからなくて」

「なんで? 彼氏と選べばいいじゃない」

「その……秘密にしておきたいの。その方が喜ぶかと思って」

 もし彼氏に見つかったら浮気と間違われて喧嘩になるのではとも思ったが、真剣な眼差しの彼女を放っておくこともできなかった。

「分かった。僕なんかでよければ」

 その言葉を僕は笑顔で言えていただろうか。



 いろいろ見たいということなので大型ショッピングモールに来ていた。

 そういえば母親が洗濯バサミをなくしたと言っていたことをふと思い出す。用件が片付いたら買いに行こう。

「どこ行こうか、神谷君」

「う〜ん無難に雑貨屋とかどう?」

「うん、じゃあそうしよっか」

 雑貨屋は確か二階の端の方にあったはずだ。僕たちは横に並んで歩きだす。

 田村さんを改めて見る。身長はそこまで高くないがスタイルはいい。胸にはメロン二つ。やっぱりかわいい。

 その時田村さんがこちらを向いた。艶やかな黒髪が空を撫で、女の子のいい香りがここまで漂ってくる。

「どこ見てるの神谷君」

 まずい。このままでは女の子の胸を凝視している変態の烙印を押されてしまう。ここは華麗な言い訳でごまかさねば。

「いやちょっと一億円でも落ちてないかな〜って思ってさ。ハハハ」

 一瞬の沈黙。完全に失敗、と思ったのだが田村さんは吹き出して笑い始めた。

「もうちょっとマシな言い訳なかったの? そんなんじゃすぐばれちゃうよ。えっちなんだからもう」

 一応許してくれたらしい。田村さんと話していると楽しい。

 なぜクリスマスに彼女の隣にいるのは自分ではないのだろう。そんなことを考えてしまう最低の自分がいる。でも彼氏がいる人間に告白できるほどの勇気は自分にはなかった。

「気分でも悪いの?」気付くと田村さんが心配そうにこちらの顔を覗き込んでいた。そんな表情をしていたのかもしれない。

「大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから」

「そう……無理しないでね」

「ありがとう」

 そうしていつの間にか雑貨屋に到着していた。とりあえず店内を物色。

「何がいいかな?」

「う〜ん。これとかどう?」

 手に取ってみたのは緑色と赤色のペアで売られているガラスのコップだ。

「片方は田村さんが使って、もう片方を彼氏の人に使ってもらえばお揃いのモノだし喜んでくれるんじゃないかな……たぶん」

「神谷君がいうならそれにしようかな」

「えっ本当にいいの?」

「うん。せっかく選んでくれたから」

 実は、昨日お気に入りのコップを割ってしまい新しいものが欲しいと思っていた、とは言い出しづらい。



 買い物を終えて駅前広場まで戻ってきた。日も落ちてきて、クリスマスツリーもそろそろライトアップされる時間帯だ。

「今日はありがとうね、神谷君」

「いやそんな。大したことはしてないよ」

「それでね……その……謝らなきゃならないことがあるの」

 何か謝られるようなことをされた覚えはない。とても言いにくそうな様子だ。

「彼氏がいるっていうの……嘘なの」

 その一言で空間が凍りついたような感覚に襲われる。一瞬理解が追い付かなかった。

「じゃあなんでこんなことを」

「それは彼氏とクリスマス過ごしたいからだよ」

 その一言で僕はますます混乱した。いないはずの彼氏とどうやってクリスマスを過ごすんだ? エア彼氏?

「でもいないって今言っ……」


「四月のときから好きでした。付き合って下さい!」


 うつむきながら、左手を差し出してきた。彼女の手は震えている。

 僕は泣きそうになった。

「僕なんかでよろしければ」

 涙をこらえながら右手で彼女の左手をつかみ、そのまま彼女を引き寄せ、抱きしめる。

 この恋が、どうか割れませんようにと願いながら。


――了



おまけ

「そういえばどうして僕が駅前広場に来るって知ってたの?」

「それは神谷君の家からずっと尾行してたからだよ」

女の子って怖いな、と思った瞬間でした。

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