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不死の女神  作者: 大麒麟
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第七話 お尋ね者

途中で地名を考えるのがめんどくさくなって、今回の話で日本の実在の町名を使った。これって版権問題とかにならないよね?

 四王国に入国した。だが入国後一日がたっても、紺は外国に来たという印象は全く感じなかった。


「全然変わらないし」


 途中で立ち寄った村も、現在紺がいるこの国の王都・野辺地(のへじ)も、六王国との違いが全くなかったからだ。

 国内の自然も、都内の建物も文化も、住んでいる人種も、六王国の西鬼町と一切変わらない。本当にただ隣の町に来ただけといった感じだ。


 大国・猪神王国にいけば、何か変わるのだろうか? とりあえずここで猪神王国に行くための通行証を貰わなければならない。

 通行証の発行条件はかなり雑だ。役所に行って、書類に名前を書けば、あっというまに済んでしまった。

 ちなみに記入した名前は、“紺”と一文字だけである。この世界では苗字を持つ者は大概貴族であり、平民が持っているのは極めて珍しい(禁じられているわけではない)。


 とりあえず都市を一回り見ておこうと、退屈そうに歩いていると、大きな道の脇にある、大型の看板が目に入った。

 やたらと派手に、目立つように置いてあるそれに、少しだけ興味を持ってみてみる。

 何やらやたらと格式ぶった言葉が並んでいたが、要約すると次の通り。


“隣国:六王国に純人出現の情報あり。その者を捕らえてきたものに600金を払う 四王国”


 何と国そのものが出した、自分に対する手配書である。緑天丸を疑う前に、自分がお尋ね者になってしまった。


(葉人のふりしてて良かった)


 600金となると、日本では一億近い額の金である。

 こんな小国にそんな大金出せるのか?という疑問もわくが、何より他所の国の住人を誘拐して来いというお触れを出す国は、ひどく礼がなっていない。

 看板には、紺の外見の特徴が細かく記されていた。どこでこんな情報を入手したのかと、不思議に思ったが、最初に緑天店の商品を買っていった客は、ほとんどが他国人であることを思い出した。


(もしかしてあの時のチンピラも、この触れを見てきた奴か?)


 しかしこれには、殺してでも連れてこい、とは書かれていない。まあ剥製がどうのという話は結構知られているので、勝手に解釈したのかもしれないし。六王国内にも自分を狙う者がいてもおかしくはない。


(とりあえず警戒はしておくか? 早めにこの国から出よう)


 紺は急ぎ足で、王都の出口へ向かっていく。

 その後ろ姿を、強く見つめるものがいた。


「あいつは確か……」


 そう呟いたその人物は、例の緑天店の客の一人だった男であった。









 紺は森の中を走っていた。わざと人のいる道筋を離れ、以前よりもペースを上げている。今はとにかくこの国から出たかった。


 日が沈み始め、空が赤くなり始めている。今日の早朝から、現在までの半日間、ほとんど休憩を取らずに、全力に近い歩みで動いていることになる。

 なのに、紺の肉体には未だに疲労感がない。いやこの世界に来てから現在に至るまでに、そういう感覚を感じたことは一度もないのだ。

 それは例え屈強な鬼人でもありえないことである。今の自分はなんなのか?改めて疑問に思ったが、今更なので止めておいた。


 もうすぐ国境の関所にたどり着く。やがて遠方からでも、その建物が見えるようになった。

 それは前に通った六王国→四王国の関所とは比べ物にならないくらい巨大だった。

 高く頑丈そうな城壁に、天守閣のような巨大な建物。もう一つの城といってもいいレベルである。


「さすが大国。金のかけようが違う」


 そういって本来の道に入り、その関所に向かおうとする。だが妙な障害があった。


 それは人だった。人種は肌の色から恐らく鬼人。青い狐型の仮面で顔を隠している(この世界では仮面が流行ってるのか?)。体格からしておそらく男性。浪人風の浴衣を着た、剣客である。


 現在人通りがほとんどない道の真ん中を、明らかに怪しい姿の彼は、一人で突っ立っていた。

 しかも顔の先は関所ではない。これから関所に向かおうとする紺と、向かい合うように立っている。


(誰だ?)


 紺は彼を通り過ぎようと思って、道の横にそれる。だが彼が腰の刀を抜き放ったことから、空気が一変した。


「私と一緒に来ていただきたい。純人殿」


 言い方は丁寧だが、僅かに放たれる殺気が、紺に警戒を促す。恐らく誤魔化すことは不可能だろう。


「何で私が純人だと判るの?」

「王都でお前の顔を知る者が、立札の前でお前を見た。国を出るつもりなら恐らくここを通るだろうと睨んで待っていた」


 情報源はあそこだったか。しかしそれだと疑問が残る。

 殺伐とした空気に、たまたま通りかかった通行人が驚き、道を通りづらくなって固まっている。


「私、あのあとすぐに街を出て走ってここまできたけど、どうやって先回りしたんだ?」

「風の力を借りれば、お前の先を越すことはたやすい」


 風?魔法の力だろうか? はっきりしないが、確かに言えることはある。


(すごい只者じゃなさそう雰囲気。これは余裕かまさない方がよさそうだな)


 紺もまた腰の刀を抜いた。戦闘の意思を明確に表したも同然だ。


「断る! このクソ野郎が!」

「ならば殺して連れて行くまで!」


 関所前の道中で、二つの刃がぶつかる音が聞こえた。





 関所の道中で、10人ばかりの人間が立ち往生していた。

 原因は道の真ん中で真剣勝負をしている、鬼人の男と葉人の女である。これは喧嘩などというレベルではない。本気で殺し合っているようにしか見えない。


(……強いな。あのチンピラとは大違いだ)


 葉人の女=紺は、生まれて初めての、命をかけた勝負に焦っていた。

 両者の攻防はほぼ互角。身体能力においては紺の方が有利だったが、剣の扱い・戦闘技術においては、男のほうが遥かに上だった。さらに紺の抱いた焦りが、相手との実力を拮抗させている。


(ちくしょう! 命のやりとりなんて、漫画の中だけで十分だっての。まさか自分がそれをやらされるなんて……)


 フィックションの登場人物の生き様に憧れたことはあるが、己自身がそんな人物になりたいと思っていたわけじゃない。正義だの何だので、自分から危険に飛び込むなど、まっぴらごめんである。

 異世界に飛ばされてから、ある程度覚悟はしていたものの、いざこういう事態になると、恐怖しか感じられない。


 無数の剣戟の音が鳴り響く。


「中々やるな。この短時間でここまできたからには、相当な者だとは思っていたが」

「そりゃどうも、あんたも中々やるよ」


 平静を保ったまま声をかける男に、紺も平静を装って答える。最も、垂れる冷や汗のせいで、演技であることは見え見えだが。


「ならば俺も全力を出そう」

「え!?」


 今まで全力じゃなかったのか?と思った矢先、彼の様子が変わった。


 正確には彼の手にある得物がである。男の持っている刀の等身が、電灯のような光を放ったのだ。妙な力を感じ取れる緑色の光である。その刀身を中心に、周囲に弱い風が吹き始めた。

 また外観からは分からないが、彼の全身にも不思議な力で覆われている。目に見えないエネルギーの鎧が、彼の体全体をコーティングしている。これによって彼の身体防御力は、元の1.5倍程に強化されているのだ。


(これが魔法か!?)


 以前病院で、黄の治療が行われた時も、初期レベルの治癒魔法を見たことがある。だが戦闘用の魔法は初めてだ。ましてやそれが自分に向けられているなど。


「お前たち! 何をしている!?」


 突然関所の方角から、人の声が割り込んできた。関所の番兵だ。さすがにこの騒ぎに気づいたらしい。


 何を問おうとした二人の兵士を、男は無言で剣を振った。

 何もない空間を横に一太刀。するとその剣筋に沿って、一本の緑光の刃が生成され、それが二人の兵士に向かって飛んだ。

 地球のフィクションではお馴染みだが、現実ではまずお目にかかれないエネルギーの刃である。


 風の魔力を纏った刃は、二人の身体をまとめて切り裂いた。これに周囲の野次馬がどよめく。


「無用な殺しはしない。黙っていてくれないか?」


 兵士たちは深手を負ったが、致命にまでは至っていない。どうやら手加減したらしい。だがこのショックで気絶している。

 男は紺の方に向き直ると、今度は紺に向かって風の刃を放った。しかも三太刀。


「くっ!」


 紺はそれらを全て刀で受け止める。その衝撃で一瞬動きが緩んだ隙に、男が一気に間合いを詰めてきた。


 ガキンッ!


 高い金属の衝突音が鳴る。紺の剣撃は、男の剣撃に押し返され数歩後退した。男は攻撃の手を緩めない。次々と紺に剣撃を与えていく。

 今までは、相手の技能に手こずってきた紺だが、今回は純粋な力で押されていた。

 風の魔力を宿した刃の直接攻撃は、最初の純粋な剣撃や、その後の風の刃の遠距離攻撃を遥かに凌ぐ威力であった。その力に紺はどんどん押されていく。


 不意に今まで押していた男が、突然後ろに下がり、紺から距離をとった。


(何を!?)


 疑問に思った直後に、男の刀身が更に強く輝く。その刀身から、今までは比べ物にならないくらいの突風が吹いた。

 男を中心に巨大な竜巻のような暴風が吹いた。周りの野次馬たちが、次々と吹き飛ばされていく。


(くそ! 目が!)


 紺はなんとか踏ん張って、風の威力に耐えたが、巻き上がった土埃に視界を覆われ、敵の姿を一瞬見失った。それが大きな隙となった。


(しまった!)


 気がついたときには、男の姿はもう目の前、今まさにこちらに刃を向ける直前だった。


 ザシュッ!


 男の剣撃が、紺の肩を斬り裂いた。


「きゃあっ!」


 痛みのあまり悶絶する紺。

 喰らったのは男にとって渾身の一撃だったが、紺についた傷はそんなに深くはなかった。とてつもなく頑強な紺の肉体を傷つけるには、相当な威力の攻撃を与えねばならない。

 男は刀身に、己の魔力を大量に注ぎ込んだ。刀身の輝きが、また一段と強くなる。


「くそが!」


 紺が何とか痛みを振り切り、体勢を整えようとするが、もう遅かった。力を溜めた、男の必殺の突きが、紺の胸もとに飛ぶ。


 グサッ!


 刀は紺の胸もと=心臓の位置に深く突き刺さった。彼女の背中から、刀の先端が、服と肉を突き破って生えている。


(そんな……こんなの……)


 己の理不尽な運命を呪いながら、紺の意識は闇に堕ちた。


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