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いるはずのない勇者
「勇者様ー」
「勇者様!」
「我が国を救ってください!」
「この大陸に安寧と平和を!」
民衆たちの歓声が聞こえて、偶々地方にある自分の離宮から王都に出てきていたこの国の王女である私、アリシア・ネフェルタリ・ファウンディアは、驚愕のあまり持っていた荷物をとり落とした。
ーーー勇者だって?
そんな、そんなはずはない。だって、勇者は・・・私の幼馴染は、つい五年前に魔王を倒してくると言って旅立っていったのだ。
魔王城に突入するという知らせを最後に音信不通になってしまったが、私は幼馴染の生存を疑っていなかった。
だから「勇者」という称号は彼にこそ相応しいものであるはずなのに・・・。
気づけば、城の前の広場に向かって走り出していた。
いったい何がおこったのか確かめなければならない。
そして私は見てしまったのだ。
割れるような歓声の中で、バルコニーの上から民衆に手を振っている少年を。
少年の名前はケイ・サガミ。
この世界を魔族の侵攻から救うために、異世界より召喚されし勇者。
それが、王城に帰った私が得た情報だった。