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第一章~8~

 


 暫く自己嫌悪を続けた後、ジュンハクは艦長室へと足を運んだ。先程と同様の格式高い扉。

 その扉の前でジュンハクは一度深呼吸を行い、伝えるべき内容を反芻。軽くノックをしてから艦長室へと足を踏み入れる。

 ジュンハクはある決意をもって……

「艦長、頼みがあるん――」

「――はっはっは!君もまだまだ甘いな副長くぅん!?」

「ええい!だから、このデッキとは相性が悪いと言うに!!」

 ……もって、いたのだが。彼の声は艦長室の二人の大声に掻き消されてしまう。

 見れば、二人は超広い戦艦ファイネリオンの超広い艦長室で遊んでいた。遊んでいたのである。

 その光景にデジャヴを覚えるジュンハク。違いがあるとすれば酒臭いか否かという辺りだろうか。思わず、目頭が熱くなるのを感じる。

 彼の頭の中では頭痛の花が咲き乱れて胞子を撒き散らしていた。いや、胞子を撒き散らすのは菌類か。閑話休題。

「……おい」

 二人が遊んでいるのはカードゲームだった。艦長も副長も、左腕に何やら小型の盾のようなものを装備している。

 その盾のような物体にはカードの情報を読み取る装置があり、そこから引き出した情報を基にバトルを行っているらしい。

 二人の前方には実際に戦闘を行うクリーチャーだかモンスターだかの映像がホログラムで映し出されていた。画像がとても荒い。

 その画像の荒さや装置の古臭さから旧式だという事が見て取れるのだが。

「はあ……もう良いです、もう疲れました。私はもう辞めます」

 言って、盾のような物体を腕から外そうとする副長。彼の顔からは疲労というか呆れの色が滲み出ていた。

「ええーっ、もう一回やろうよー!次やったら勝てるかもしれないじゃーん?ねえねえー?」

 その腕にしがみついて副長の行動を阻害しようとする艦長、アポロ。見た目は子供、だが、中身まで子供のようである。

「おい」

「分かりました。じゃあ私も『あのデッキ』で行きますよ?良いんですね?」

「おい」

「上等!言っとくけど手加減なら――」

「ヲイ」

「――ってあ痛たただだだだ!?」

 艦長の台詞が中途半端な所で途切れる。後ろから接近してきたジュンハクがアポロの頭を鷲掴みにしたからだ。

 そのままの姿勢で手首を返してアポロの頭をぐるりと横方向に一回転させてこちらに向かせるジュンハク。

 無茶苦茶な力で無茶苦茶な動きをさせられた為に、アポロの顔が半泣き状態になる。

「一つ頼みがあるんだが」

「はひィ!?」

 ごごごごご……という地響きのような効果音が似合いそうなオーラを纏わせて告げる。

 アポロには、そもそも恐らく自らかなぐり捨てているようだが、艦長という役職に就く人間の威厳などどこにも無かった。

「……はあ。何やってんだか」

 呆れ顔になってアポロを解放、彼を地上世界に復帰させるジュンハク。

 アポロはまだ「痛ててて……」とか呟いている。こめかみと首を摩りながら、彼はジュンハクに問い掛ける。

「……で、頼みっていうのは何だね?」

 半泣き状態の為、言葉からもどこか弱々しさが感じられる。ジュンハクは否応無しに伝わるその気に溜め息を吐きかけながら。

「俺は明日からゲイルローダーのパイロットになる。それで、俺のパートナーを、ヴァルツ=ルナライト中尉にして欲しい」

 突然の申し出に、艦長は勿論副長までもが頭の上に疑問符を浮かべる。

 しかし艦長はようやくアポロは艦長としての役職を思い出したのか、一度事務机に座りなおしてから応える。

「ふむ。通常、ゲイルローダーの小隊編成はパイロット部の部隊長、通称『機動兵器隊長』によって選定されるんだがね」

 隊長、という言葉にジュンハクは引っ掛かりを覚えた。確か、レヴ=ロミナスという男が周りの男達にそう呼ばれていた。

 そうだ、とジュンハクはもう一つ重要な事を思い出した。艦長にどうしても伝えなければならない事があったのだ。

「……その機動兵器隊長、って奴なんだが。あれは駄目だ。修正加えるか他のに変えた方が良い」

 思い当たる節があったのだろう、艦長はこくりと小さく頷くとジュンハクに向かってこう返した。

「レヴ=ロミナス中佐の事だね?それなら心配には及ばないよ。彼は明日付けで機動兵器隊長を退任する事になっている」

「何だ、もう知ってたのか。だったら先に言ってくれよ。……そうすりゃあんな目に遭わずに済んだのに」

 ぎり、とジュンハクは拳を締める。あんな目、というのは何も自分の身に起こった出来事だけではない。

 アポロ艦長は一度瞼を閉じて何かを考えるような素振りをした後、ジュンハクに謝罪する。

「それはすまない事をしたね。何が起きたのかを尋ねるのは無粋かな?」

 ああ、と首を縦に振って肯定するジュンハク。

「解任になるってんなら、大方の事情は知ってるんだろ?多分、艦長の想像通りだと思うぜ」

 そうか、なるほどね、と短い言葉を吐き出してから、艦長はジュンハクに向き直った。

「パートナーの選別に関しては、新任の機動兵器隊長に申請するべきだね。『彼女』の名前はシュトリーペ=ロナ。階級は少佐。

明日は新人の入隊式と機動兵器隊長交代の式があるけど、今ならぎりぎり時間もあるだろう。行ってくると良い」

「分かった。その、シュトリーペ隊長ってのは何処にいる?」

「今はまだ勤務時間だから、機動兵器部隊の詰め所に居る筈だよ。ああ、第一じゃなくて第二の方だね。位置は分かるかい?」

「途中途中で地図でも見ながら進むさ。それじゃあ俺はそのシュトリーペ隊長ってのに会いに行く。ありがとな」

 どういたしまして、というアポロ艦長の声を背中に受けて、ジュンハクは艦長室を後にする。

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