第三章~4~
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イリデセンスに貰ったホットドッグをかじりながら走り、ちょうど食べ終わった頃にジュンハクは格納庫に辿り着いた。
パンもウインナーも程良く温められていて、かつ量も多過ぎず少な過ぎず、腹ごしらえをするには十分だった。
「ヴァルツ!」
格納庫に到着してすぐ、ジュンハクはヴァルツの姿を見つけた。
既にパイロットスーツを着用していて準備は万端、のように見えるのだが、何処か様子がおかしい。
ずっとジュンハクに背を向けたままだ。彼が彼女の事を名前で呼んでも、嫌悪感の一つすら見せない。
「……、」
「ヴァルツ?こんな所で何やってんだ、戦闘配備だろ?」
語り掛けるジュンハクに対して、ヴァルツは全くの無言。
違和感に気付いたジュンハクは彼女の左右の肩をそれぞれの手で掴んで、無理矢理前を向かせる。
そこでジュンハクは、思いがけないものを目にする事になる。
「お前っ……!泣いてんのか?」
彼女の頬を濡らす涙の粒。相当堪えていたのだろう、何度も何度も目を擦った痕が残っている。
「どうした、何があった!?またあいつらが何かやらかしたのか!?」
矢継ぎ早に質問を投げ掛けるジュンハクだが、ヴァルツは応えない。
誰の目にも明らかに、彼女は泣いている。泣いているのだ。声を殺して、感情を殺して。
「何があったのか教えてくれよ!黙ってちゃ分からないだろ!?」
「なんでもない……放っておいて」
しかし、彼女自身はそれを認めようとはしない。
痺れを切らしたジュンハクは彼女の肩から手を離し、地面に転がっていたヘルメットを蹴飛ばす。
「……畜生!一体何だってんだ!もう良い、戦闘なんか知るか!ヴァルツ!何があったのか教えてくれ!」
もう一度ヴァルツの肩を掴もうとするジュンハクだったが、今度は手を跳ね除けられた。
そして彼は自分の腹に、ある違和感を感じる。どん、という衝撃音。
「ぐ、は……っ!?」
胃液が逆流してくる感覚。頭の中がブラックアウトする。
鳩尾を殴られたのだ、と気が付いた時には既に、彼の身体は金属の固い床に転がっていた。
横倒しになった視界から、ヴァルツが消える。方向感覚が狂っていなければ、その行き先はゲイルローダーの格納庫だ。
「ま、て……。ヴァル……ツ……っ!」
まさか、一人で出撃するつもりなのか。ジュンハクの脳裏を、比較的現実に近い、嫌な予想図が浮かび上がる。
それでも力が入らない。
どうやらヴァルツは軍隊格闘についても優秀のようだ。ここまで重たい一撃は、なかなかお目にかかれない。
「ちく、しょ……」
ジュンハクの視界が、霞んで消える。