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第一章~9~



(ここか、第二詰め所ってのは)

 ジュンハクは先程辿った第一詰め所とは反対方向に向かって歩を進めた。

 金属の壁に囲まれた長々とした廊下で、第二詰め所の看板を見つける。どうやらここが目的地らしい。

 三度、ドアをノックする。応答はすぐに返ってきた。

「所属、階級、氏名をどうぞ」

「ジュンハク=アストロハーツ。明日付けでここの、機動兵器部隊に配属される。階級は少尉」

 短いやり取りを済ませると、扉のロックが外れる音がした。

 この対応からして、腐敗の温床としてしか機能していないあの第一詰め所とは違っていた。

 自然に身が引き締まる思いを感じながら、ジュンハクは開放された扉をくぐる。

「ジュンハク=アストロハーツ少尉ね?艦長から話は伺っているわ。ようこそ、機動兵器部隊第二詰め所へ」

 扉を通り抜けてすぐ、ジュンハクの視界には一人の女性が収まった。ジュンハクよりも三つ四つ程年上の少女だ。

 とても背が高く、更にはすらりと伸びた背筋が凛とした印象を見る者に与えている。スタイルも良い。

 軍服を着ていなければ、そのままモデルだかアイドルだかのオーディションに一発合格する事も難しくないであろう。

 それくらいの美人だった。だからという訳ではないが、ジュンハクは一層身が引き締まる思いを覚えた。

「あー、えっと。艦長からは『あまり堅苦しくしなくても良い』って言われたんだけど……あんたには敬語の方が良かったりするのか?」

 艦長からは許可というかそうするようにとの指示が下りているのだが、一応の礼儀として彼は機動兵器隊長である彼女に尋ねる。

「いいえ、普段通りの対応で結構よ。『普通』ならこういうのは好ましくないんだろうけど、色々と『特別』ですからね」

「ああ。俺もまさか軍でこんな会話をするとは思ってなかったんだけど。軍学校でも教えてくれなかったし」

「ふふふ。そうね、それはそうでしょうよ」

 何かが可笑しかったのだろうか、シュトリーペは小さく笑った。ジュンハクは特に気にする事も無く会話を続ける。

「それで、俺の用件なんだけどさ。もう艦長から話は伝わってるのか?」

「ええ。パートナーの申請だったわね」

「今勤務中なんだよな?手続きとか面倒だったり、時間が無かったら後でも良いんだけど」

「そんな事は無いわ。申請とその承認自体はとても簡単な事よ。……けれど」

 機動兵器隊長という役職からか、それとも彼女本来の話し方なのか、割とシュトリーペははきはきと喋る方だ。

 しかし、ここで彼女は次の言葉を言い淀んだ。にわかに、ジュンハクの表情が少し暗くなる。

「……そんな言い方しないでくれよな。あいつは何も悪くねえんだからさ」

「そう、そうね。確かにこの言い方は良くなかったわ。けれど、彼女の戦績を見る限りでは私はあなたを引き止めざるを得ない。

分かるわね?」

 機動兵器隊長としての当然の判断であると、暗に語っているかのようだった。しかし彼女の問い掛けに、ジュンハクは即答する。

「分からねえよ。過去は過去だ。今と明日のあいつには何の関係も無い」

 余りにもはっきりとした清々しいまでの回答に、シュトリーペはきょとんとした表情になった。

 しかしそれも束の間、シュトリーペは顔を綻ばせて笑い始めた。

「あはははは!あなたって面白いのね。それに度胸もあるわ。まるであの人を見ているみたい」

 笑われた事に対しては微妙な感情を残しながら、ジュンハクは疑問をぶつける。

「……あの人?」

「ああ、いいえ、こちらの話よ。気にしないで」

 気にしないでくれと言われたので、ふうん、と理解したような振りを返しながらジュンハクは先を促す。

「兎に角、俺のパートナーはヴァルツ=ルナライト中尉にしてくれ」

「了承したわ。手続きは済ませておくから、あなたはヴァルツ中尉に挨拶でもしてきたら?」

「……挨拶、か」

 ジュンハクは視線を床に落として、ヴァルツの事を考えた。……今は何もしない方が良い。ジュンハクはそう判断した。

「あら。ここで思い止まるということは、何か気まずい事情でもあるのかしら?」

「まあ、な。色々あったんだよ」

「……色々?」

 そこで会話がストップする。微妙な間が発生して、空気の流動を阻害する。

「……なんだよ?どうかしたのか?」

「もしかして、運命の赤い糸に結ばれた関係だったりするの?」

 再び第二詰め所に訪れる微妙な間。悪戯に掻き乱された所為で余計に風通しが悪くなったような感じだ。

「……何だその理解不可能な言語?」

「え、あ。いえ、私からすればあなたの方が何なのといった感じなんだけれど」

 微妙な間の正体は、どうやら相性とか周波数といった言葉で言い表す事が出来るらしい。

 艦長や副長の訳の分からない会話とはまた違った何とも言えない空気だが、本質はそう変わらないのかもしれない。閑話休題。

「まあ良いや、とりあえずそういう事で」

 その空気に耐えられなかったのか、ジュンハクは一方的に会話を断ち切ってその場を後にする。

 立ち去っていく少年の背中を見送りながら、シュトリーペはふとこんな事を呟く。

「運命の赤い糸って表現……もう今では使われていないのかしら。それにしても、あの子とヴァルツの関係って一体……?」


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