1/24
はじまり
ドン、と石槌を打ちつけたような音がした。
はっとして顔を上げる。
そこは、廊下だった。
無機質な蛍光灯が並ぶ古ぼけたビルの一隅。灰色の壁際に沿って置かれた五脚のパイプ椅子、その一つに私は座っているのだった。
「次の方、どうぞ」
そこで私は初めて目の前の扉に気付き、立ち上がった。おかしなことだった。もう随分長い間、ここに座っていたような気がするのに、この扉を目にするのは初めてだと感じたのだから。
けれど私は、それをおかしいと思うこともなく、ただ、握ったドアノブが「生ぬるいな」と考えていた。