元冒険者はカスタードプリンに第二の人生を託す
「さよならだ。みんな」
ウォーレスはパーティメンバーにそう言い残して冒険者パーティを脱退した。そして冒険者稼業を廃業した。冒険者になって一二年、ウォーレスの冒険者ランクは七だった。それは冒険者ランクの最高である十まで残り三であった。だからこそパーティメンバーは脱退することを何度も慰留された。だがウォーレスの冒険者ランクの進級具合は五年ほど停滞していた。己の才能に限界を感じたウォーレスに仲間の説得など無意味だった。
「ウォーレス、次の職はどうするつもりなの?」
パーティ脱退を初めて打ち明けた時、パーティーメンバーで同じ年のシンディーから尋ねられた。ウォーレスはシンディーの問いに自信に満ち溢れた声で答えた。
「俺、菓子職人になろうと思う。ほら俺たちたくさん旅しただろ? 道中でたくさん野営もした。俺は料理担当だから結構料理の腕も上がっている。それを武器にしたい」
「確かにウォーレスの料理は美味しよ。だけどなんで菓子職人なの? 野営でお菓子を作る機会なんてなかったし、料理人になるなら居酒屋だったり食堂の方がいいと思うけど」
シンディーは本気で危惧している目線をウォーレスに送った。
「問題。ほらB国に行った時にカスタードプリンがあっただろ? あれを故郷で売り出そうと思うんだ。故郷じゃカスタードプリンはまだ知られていない。大丈夫俺の考えに間違えない」
ウォーレスはシンディーの話に耳を傾ける気はなかった。
ウォーレスがパーティを抜けて二か月、ウォーレスは自分の店を開店した。販売している商品はただ一つカスタードプリンだけだ。これはウォーレスがお菓子の知識が乏しかったことがある。ただカスタードプリンだけはB国で仲良くなった菓子職人から聞いていたので再現は出来た。
オープンして最初の三か月はウォーレスの予想よりも繁盛した。おかげで冒険者時代よりも収入は上がっていた。ある日、店が終わりかけのときにシンディーが店を一人で訪れた。シンディーはどこか寂し気な顔をしていた。
「どうしたシンディー一人で来て? パーティはいいのか?」
「今日はこの近くで依頼を受けているから問題ないの。それよりパーティに戻らない。あなたがいないからパーティが上手く機能しないの」
シンディーからの要請にウォーレスは躊躇うことなく口を開いた。
「俺はもう冒険者稼業に未練はないんだ。おかげで店は上手くいっている。悪いが買ってくれないか」
ウォーレスは険しい顔をしていた。その視線はシンディーに既に向けられていなかった。
「ウォーレンス。お願いだから話を――」
「お客様が来たから帰ってくれないか」
ウォーレスが言った。シンディーがウォーレンスの視線の先が見ると親子連れがいた。親子連れはとても笑顔だった。それを見たシンディーは諦めたような顔でその場を去った。
店が開店してから半年が経った。ウォーレンの店にはあまり客が来なくなっていた。理由はただ単純だった。周囲の菓子店がカスタードプリンを販売するようになったからである。ウォーレスのカスタードプリンは確かに一般人レベルで美味しかった。だが職業として長年修行してきた菓子職人たちの品には到底叶わなかった。結局ウォーレンスは一年も持たず菓子職人を廃業した。ウォーレンスはもといたパーティに復帰しようとした。だがシンディーからこう告げられた。
「あなたの代わりはもういるの。だからごめんなさい」
その後ウォーレンスは一人で細々と冒険者稼業を続けるしかなかったという。




