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今宵、図書館で逢いましょう。  作者: さきみやめぐ
第二夜

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13/25

金曜夜の図書館 5

 さっきまでお酒を延々と飲んでいた僕。

ここ2週間の水分摂取は、お酒が八割を占めていたのではないかと思うほどだ。


それがどういう訳か。

手元にはコーヒーを持っている。

スッと入ってくるコーヒーを一口、また一口ゆっくりと飲んでいく。


黙ってコーヒーを飲む僕を、横で座っていた遼くんはどう思っていたのだろう。

僕のせいで、退屈な思いをしているかもしれない。

ひょっとして「俺に帰れって言うんじゃなくて、お前が帰れよ」とか思っていたりして。

自問自答を頭の中で繰り広げていた。


「家に帰りたくない理由でも、あるの?」


僕よりもずいぶん年下の19歳。

僕からしたら「少年」だ。

親といるのが何となく気まずいとか、敏感に感じ取ることが多いのかもしれない。


香織のことで頭がいっぱいだったのに、今は自ずと人様の話に耳を傾けようとしている。

これも酔っているからできる行動なのか。


「帰りたくない、という訳じゃないんですよね」


遼くんは、口を付けてなかったコーヒーカップに触れて、ゆっくりとコーヒーをすすった。

少し間が空いた後、


「純粋にここが好きなんです。 僕、小さい頃からこの図書館の本を借りていたので……誰も居ない、自分しかいない図書館って特別な感じがして。 独り占めしているぞ、みたいな」


静寂に包まれた館内見渡し、言葉を嚙みしめるように言い切った遼くんは、僕ににっこりと笑いかけてきた。


「そこの棚に絵本があるじゃないですか? 多分、ほとんど借りて読んだことあります。 最近新しく入った本は分からないですけど……」


指をさした先には、僕もちらっと見かけた本棚があった。

遼くんはゆっくり立ちあがって、本棚に向かっていく。

おもむろに手に取った絵本を見て「うわぁ、懐かしい」と言いながら表紙を見せてくる。


「誠司さん、これ知ってますか?」


表紙にはネズミの家族が描かれたものだった。


「あ、知っている。 それ、何冊かシリーズ化されているよね。 僕、個人的に『あさごはん』が好きだった」


僕の返答に遼くんも「あぁ! 読んだことあります!」と食い気味だった。

絵本の中身を優しい目で見る遼くんの姿から、本当に図書館が好きなことが伝わってくる。

とても温かい光景なのに、僕は罪悪感に苛まれた。


「ごめんね、遼くん。 僕、ちょっと邪魔しちゃったよね」


僕の謝罪に「どうして急に謝るんですか?」と困惑した顔をした遼くん。


「図書館を独り占めしたかったはずなのに、申し訳なかったなと思ってさ。 僕は、その、お酒の勢いに任せて、たまたま行きついたのが図書館だったから」


肩を落として言った僕を見て、何故か吹き出して遼くんはさらに笑っていた。


「誠司さん、お酒の勢いって……あ、いや、邪魔なんて。 そんなことは全然思ってないですよ!」


全力で否定してくれたが、僕自身は本当に申し訳ないことをしてしまったなと猛省。


「うん、本当にごめん。 そもそも僕、今ちゃんと会話できている? 初対面なのに、馴れ馴れしく絡んで、余計なこと話してうるさいなとか思っていない?」


ずっと心の中で思っていたことを、結局吐き出してしまった。

親切にしてくれたのに、僕は素っ気ない態度をとってしまって。

それなのに、お節介な質問や言葉を掛けてしまって。

僕はやっぱり、誠実な人間ではないのだ。


「誠司さん、本当に大丈夫ですから! 顔が赤いなとは思いましたけど、喋った感じ普通ですし、会話も成立しています! うるさいのはむしろ僕のほうだと思うので! そんな気にしないでください!」


遼くんは念を押すように言ってきてくれた。


遼くんは底抜けに明るい訳で、僕から見てうるさいとは感じなかった。

最初は図書館に中で、声のボリュームを落とさずに喋っていた遼くんには驚いたが……。

今は僕も普通に喋っている。


「あ、いや。 遼くんのこと、うるさいとは全然思ってなかったよ。 僕が元々そんなにテンション高くないから、その分明るく見えるなと思っていたくらいで……」


心を宥めようと、丁度いい温度になってきたコーヒーを飲みながらそう言った。


「珍しく図書館に人が来たから、少し舞い上がっちゃって……でも誠司さん、普通に僕と話してくれるから、すごく嬉しかったです!」


今の遼くんの言葉には、嘘が無いように思えた。

自分の気持ちをすらっと言葉にしてしまう遼くんのことが新鮮。

というか、いいなと思った。


今の僕、どんな顔をしているのだろうか。

笑えているのか、困っているのか、恥ずかしがっているのか。

でも、泣いていないはず。

きっと。


「誠司さん、せっかくと言ったら何ですけど、もう少し僕に付き合ってくれませんか?」


絵本をしまい、僕のところに戻ってきた遼くん。

隣に座るかと思いきや、僕の真正面に腰を掛けた。

黙って遼くんの動きを見ていると、ポケットの中から小さい箱を取り出す。


「トランプ?」

「はい、いつも香菜子さんとスピード対決するんですけど、香菜子さん強くて全然勝てないんです。 僕の特訓相手になってくれませんか?」


遼くんは箱から開けて、手際よく黒と赤のカードを二手に分けていく。


「スピードだなんて久々だけど……相手になれるかな、僕」


人から頼まれると断れない性分に抗えず、黒い絵柄のトランプを受け取った。


「じゃあ、4枚出しましょう!」


手札から4枚、机に並べていく。

数字がダブっているものがあって、ゲームの先行きが怪しそうだった。

それよりも、こんな真夜中にトランプをするとは……。

数十分前まで、アルコールに浸食された頭と体をどうにかしないといけない。

そう思っていたが、今度はアドレナリンがじわじわと出てきた。


「ちょっと待って。 始まる前にルール確認していい?」


心拍数まで上がってきてしまい、ゲーム開始直前に待ったをかけた僕。

ちょっと卑怯なことをしたかと思ったが、遼くんは「いいですよ!」と手持ちのカードを使いながら説明してくれた。


遼くん。

僕なんかよりも、君のほうがはるかに「良い人」だよ。

そう言ってあげたかった。


「では始めますよ?」

「せーの!」


2人で掛け声を合わせて、ようやくゲームがスタート。

捲ったカードは……。


「あ! 出せるカードがない!」


僕にとって、この日一番の声が出た。


「おお! カードがどんどん出せる!」


とんとん拍子でカードを出していく遼くん。

ゲームをやっていて、何となく思ったこと。

図書館という公共の場で、絶対にやらないことをやっている背徳感。

この感じが悪いようで良いのかもしれない。

ゲームスタートから数分経ったのち、


「もう1回やらない?」

どちらかともなく、ゲームは盛り上がりを見せた。

「はじめまして」からそう時間は過ぎていないのに。

どうしてだろう……純粋に楽しかった。


そんなこんなで、不思議な夜のひとときはこうして始まったのだった。

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