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今宵、図書館で逢いましょう。  作者: さきみやめぐ
第二夜

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12/20

金曜夜の図書館 4

 一方、遼くんはハッとした表情をしていた。


「あ、すみません。 つい余計なことを。 19歳の戯言と思って聞き流してください!」

「遼くん……自分で年齢、バラしちゃっている」


「は! しまった!」と手のひらで口を抑える遼くん。

予想していた年齢に近かったが、流石に19歳はまだナイーブな年頃だろう。


まだ会って数分しか経っていない僕たち。

言葉の意味を掘り下げないほうがいいだろうと思い、自分のモヤモヤをそっと心にしまう。

その代わり、遼くんに1つ提案した。


「それじゃ、もう帰ろうか!」

「へ? もう帰るんですか? まだ会ってちょっとしか経っていないのに」


僕の発言にかなり驚いた様子だ。


「学生ではないけど、遼くんは未成年じゃないか! この時間に出歩いている時点で警察に声掛けられるだろうし、僕が仮に警察だったら、きっと遼くんのことを職務質問しているな」

「そんな親みたいなこと言わないでくださいよ!」


遼くんはまだ帰りたくなさそうだったが、日付はすでに超えている。


「親御さんから心配されない? こんな夜更けに出歩いていること、親御さんは知らないんじゃ……」

「僕の両親は大丈夫です。 図書館にいるって分かっていますから!」


迷うことなく言った遼くんを見て、あまり僕がしつこく言ってもどうかと思えてきた。

親御さんが遼くんの居場所を知っているなら、一旦は大丈夫なのか。

「そっか」とだけ相槌をした。


遼くんは僕のコーヒーカップを少し覗いてきて、


「あ、コーヒーのおかわりいりますか?」

「え、あ、まだあるから大丈夫! ありがとう」


いきなりコーヒーの話が振ってきたので、しどろもどろに返事をする。


「じゃあ、自分の分だけ淹れてきますね!」


席から立ち上がり、コーヒーサーバーのところへ行った遼くん。


「図書館に来てすぐトイレに行っていたので。 まだ自分の分淹れていませんでした!」

「そ、そっか。 ごめんね。 僕がコーヒーを零したせいで、自分の分を淹れそびれちゃったよね……」

「いえいえ、気にしないでください!」


あっという間にコーヒーが淹れ終わり、戻って来た遼くん。

そういえば、遼くんってコーヒー飲めるんだ。

僕が10代の頃、コーヒーの美味しさなんて分からなかったから……。

率先してコーヒーを淹れに行くなんて、ちょっとカッコイイなと思っていた。


「誠司さん? どうか、しました?」


じっと見つめていた僕に声を掛けてきた。


「あ、何でもない」


僕も自分のコーヒーに口をつける。


「ふふっ。 誠司さん、全然目合わせてくれなかったから、今一瞬だけ目合ったなって思ったのに」


遼くんはニコニコしながら、再び僕の隣に座った。


「ごめんね。 悪気はなくて、その、人見知りなんだよね……」


人見知りが故に、人付き合いの悪さが出てしまう僕。

不思議と仕事では人見知りモードは出てこない。

相手は患者さんだし、人見知りをしている場合ではないんだけれど……。

目を合わせずに服薬指導することはまずあり得ない。


仕事中の僕も、プライベートの僕も同一人物なのに。

どうして今の状況では、上手く人と話せないのか。


遼くんはいたって良心的に話してくれるのに。

僕とは何個も離れているのに、自分のほうが大人気なく思えてくる。


「ハハッ! 人見知り! でも、人見知りなんだろうとは薄々感じていました!」


力が抜けたように笑っている遼くん。


「初対面ですけど。 僕が思うに、誠司さんって誰よりも誠実で、誰よりも良い人。 な気がしますよ!」


返ってきた言葉は予想外の褒め言葉だった。


「僕、そんなよくできた人間じゃないよ? ていうか、どうして初対面でそんな風に……」


僕は遼くんが高く評価してくれるほど善良な人ではない。

しっかり否定しようと、体ごと遼くんがいるほうに向けた。


「そんなに否定します? どうしてって言われても……何となく?」

「何となく?」


真っ黒な遼くんの瞳を見ながら「何となく」を復唱する。

答えになっていない「何となく」に「どうせ理由なんてないでしょ?」と心の中で疑う。


人は出会って数十分足らずで、どんな人相かを知るなんて難しい。

でも、不思議と香織に出逢ったときだけは特別だった。

あれはどうして……。


「誠司さん! そう落ち込まないでくださいよ!」


屈託のない遼くんの笑顔に目を奪われる。

いつもの僕だったら、他人の何気ない一言に一人で落ち込み続けるのに、今はちょっと違うみたい。

美味しいコーヒーのせい?

いや、お酒の飲み過ぎだろう。

僕は「え、落ち込んでいるように見えた?」と釣られて笑ってみる。


「僕、冗談は言わないタイプなので。 誠司さんに対して思ったことは本心ですからね!」


そう断言してくれたが、曖昧に「そっか」しか返せなかった。

だって、今の僕は真人間とは言えないから。


すると、僕の返答が気に入らなかったのか……。

笑っていた遼くんの顔が徐々に真顔になっていった。

人の表情の変化に敏感な僕は「ど、どうかした?」と、恐る恐る尋ねる。


「誠司さんって、小顔だなって思って」


予想外な回答に、僕は「そこ?」と突っ込んでしまった。

もし、コーヒーを飲みながら聞いていたら、確実に吹いていたかもしれない。


「良いことを言われても、何も出てこないよ?」


自分のルックスどうこう言われることは滅多に無い。

小顔と言われたということは「褒められた」と解釈していいのだろうか。

自分のことを人から良い風に言われると、とてつもなく疑心暗鬼に陥る。

眼鏡を掛けて、野暮ったく見える僕のことなんて……。


「冗談抜きで本当にそう思っています!」

「うーん、身長のせいもあるかな?」

「え、身長いくつですか?」


前のめりになる遼くん。


「確か、178センチ」


年に一度の健康診断で測った身長を思い起こす。


「え、羨ましい。 僕そんなに身長無いや」


捨てられた子犬のように分かりやすく落ち込む遼くん。

僕の場合は学生時代にバスケ部だったので、部活の影響が大きかったと思う。


「あ、でも。 男の人はハタチになるまで身長伸びるって聞いたことあるよ! 遼くんにも可能性あると思うけどな」


ポジティブに捉えてくれそうなことを慌てて引っ張り出した。

事実かどうかは分からないけど。


「僕にも身長が伸びる可能性、あるかな……」


コーヒーカップを真っ直ぐに見つめながら、自信なさそうに呟いていた。

遼くんの姿を見ていると「華奢」という言葉では収まらないほど細い体つき。

身長を伸ばすよりも、少しでも栄養を摂ってほしいなと思ってしまう。

お酒に浸食されていた僕だったが、思考回路は図書館に来たときよりもマシになってきた、はずだ。


「まぁ、身長が欲しいなら、この時間は寝たほうがいいと思うけど……ね?」

「うわぁ、それ言われたら何も言い返せない!」


さっきの明るい遼くんに戻ってきて、僕も思わず微笑んだ。

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