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どうしようもない世界だ

作者: P4rn0s
掲載日:2026/01/28

夜のコンビニの前。

自動ドアが開くたび、白い光とぬるい風が吐き出される。

私はそれを背中で受けながら、スマホの画面を伏せた。


タイムラインには、正しさが溢れている。

頑張れという言葉。

生きていればいいことがあるという断言。

命は大切だという結論。

誰も私の一日を知らないまま、結論だけを投げてくる。


朝、満員電車で押し潰されながら、今日も無事に職場に着けたことを褒められる。

残業して、終電を逃さなかったことを評価される。

空気を読んで黙ったことを、大人になったと言われる。

怒らなかったことを、成長だとされる。


そうやって少しずつ、逃げ道が削られていく。

「選択肢はある」と言われながら、選んでいいものは決まっている。

違う道を選べば、自己責任という名前の崖が用意されている。


私は特別不幸ではなかった。

家もある。

仕事もある。

最低限の人間関係もある。

だからこそ、苦しい理由を説明できなかった。


夜になると、頭の中が静かになる。

音が消えた分だけ、言葉が浮かんでくる。

「もう十分じゃないか」

「これ以上、何を証明すればいい」


誰かに助けを求めようとして、何度も文章を書いては消した。

重いと思われたくなかった。

甘えだと思われたくなかった。

正解の言い方が分からないまま、時間だけが過ぎた。


追い詰められた末に立った場所は、誰にも見えない崖だった。

目の前には、はっきりとした終わりがあった。

不思議と怖くはなかった。

ただ、やっと選んでいい気がした。


そのとき、思い出したのはニュースの言葉だった。

「若者の自殺は社会問題です」

「命の大切さを伝えていかなければなりません」


社会問題。

その言葉の中に、私はいなかった。

個人ではなく、数字としての私。

対策の対象としての私。


踏み出す寸前で、誰かの顔が浮かんだわけでもない。

未来の夢が蘇ったわけでもない。

ただ、怒りが残った。

ここまで追い込んでおいて、最後だけ綺麗な言葉で止めに来る、その構造への怒りだった。


結局、私は崖から離れた。

理由は立派じゃない。

死ねなかっただけだ。

それ以上でも、それ以下でもない。


翌日も世界は同じ速度で動いていた。

電車は遅れ、上司は苛立ち、ニュースは命を守れと言った。

私はそれを聞き流しながら、また歩いた。


生きていることを選んだのではない。

ただ、まだ終わっていないだけだ。

その曖昧さの中で、私は今日も若者として存在している。


誰にも称賛されず、

誰にも理解されず、

それでも確かに、私はここにいる。

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