表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

7 幽霊退治

赤い足跡に導かれた地下に残されていたのは、古びた一冊の手帳。

つたない文で綴られていたのは、名もなき少年のたった一つの生きた証だった。


読み終えたカメリアは、静かにうつむく。


「これはきっと、知ってはならない真実だったのですわ。」


亡霊の潜む地下の闇に、カメリアの悲しげな声だけが響く。


「知ってしまったら、もう後戻りできないのですから。」


「カメリア様は、真相に辿り着いてしまわれたのですね。」


私の言葉にカメリアはこくりと頷いた。

真相を理解したカメリアがこんなにも悲しそうな顔をするのはこれがはじめてだった。


「私も、もう進むしかありませんわね。」


カメリアは小さく息をはき、それから顔をあげた。

そしてカメリアは微笑む。


「さあヒルダ、亡霊を退治しにまいりましょう。」






「みなさま、お待たせいたしましたわ。」


「カメリア嬢?」


突如現らわれたカメリアに、ローゼンベルク侯爵夫人は驚きの声をあげた。


「ええ。

亡霊が支配する地下の迷宮から戻ってまいりましたわ。」


私とカメリアは地下通路を通って、殺害現場のローゼンベルク侯爵の部屋へ戻ってきたのだ。

侯爵の部屋には、ローゼンベルク侯爵夫人とユリウス、第一発見者のメイド長、そして通報を受けて駆けつけたレストレード警部とその部下がいた。


「レストレード警部、遅くまでご苦労様です。」


カメリアのねぎらいの言葉に、レストレード警部は「いえ、これが私の仕事ですからな。」と答えた。


「ところで、カメリア嬢は犯人の足跡を追いかけていったと聞いておりましたが、なぜそこから戻ってきたのですかな。」


レストレード警部はカメリアの背後、南側の壁を指して尋ねた。

カメリアと私が通ってきたのは、行きに使ったのと同じ北側の壁につけられた絵画の裏に隠された通路ではない。

カメリアが現れたのは、南側の壁に備え付けられた本棚の裏からだったのだ。


レストレードの問いに、カメリアは笑顔で答える。


「もちろん、犯人を追いかけてきたから、ですわ。」


「なにをいってるのよ。」


ローゼンベルク侯爵夫人は眉を顰めたが、カメリアは「犯人は私たちが迷わないように、丁寧にエスコートしてくださいましたわ。」と答えた。


「ご覧になって。

犯人の残した足跡は、ここまで続いていましたのよ。」


カメリアは先ほど登ってきた本棚の裏の階段を指差した。

そこには血濡れた赤い足跡があった。


「それに、犯人が犯行時に着ていたと思われるコートもここに隠してありましてよ。」


「カメリア嬢、それは本当ですか。」


カメリアの指摘を聞き、レストレード警部は本棚の裏の螺旋階段を覗いた。

そして彼は、返り血にそまったロングコートを発見した。


「しかしここに足跡が残っていたとなると、犯人は北側の螺旋階段を下って地下通路を通り、そして犯行現場に戻ってきたことになりますな。」


「ええ、そうですわ。

犯人は外へ逃げてなどいませんの。

この屋敷の中にいますのよ。」


「そんなわけないじゃない。」とローゼンベルク侯爵夫人は否定する。


「カメリア嬢が戻ってくるまで私たちはずっとこの部屋にいたのよ。

でも、誰もそこから出てきたりはしなかったわ。」


「犯人は侯爵の遺体が発見されるより先に、地下通路を通り足跡を残したのですわ。」


レストレード警部は訝しげな顔をする。


「遺体の発見時、部屋には鍵がかかっていたと聞きましたぞ。

犯人はこの部屋から出られなかったのではありませんかな。」


「ええ。

犯人はこの部屋から出ていないのです。」


「どういうことですかな?」


「私たちは2つ、勘違いをしていました。

ひとつめは、犯人が地上から5階まで外壁を登って窓から侵入したと思い込んでいたこと。

でも、割れた窓ガラスと同じ方角の3階の部屋にいた私は犯人の姿を見ていません。

犯人は、4階の部屋からこの窓へと登って侵入したのです。」


「なんですって?」


「もうひとつは、呼び鈴を鳴らしたのはローゼンベルク侯爵だと思っていたことですわ。」


ローゼンベルク侯爵夫人は、「呼び鈴は侯爵の部屋の中からしか鳴らせないんだから当たり前でしょう。」と鼻を鳴らした。

しかしカメリアは「あれはローゼンベルク侯爵の助けを求めた呼び鈴ではなかったのです。」と言うのだった。


「犯人は真相へと導く手がかりを丁寧に残しています。

呼び鈴がなってからメイド長が来るまでの短時間ではあのような準備はできなかったはず。

呼び鈴を鳴らしたのは、地下通路を通って部屋に戻ってきた犯人だったのです。」


ローゼンベルク侯爵夫人は納得いかないという顔で、「なんでそんなことするのよ。」と問う。


「犯行を知らせるためですわ。

この事件の犯人は、犯行を隠そうとはしていない。

真実を明るみにするのが目的だったのですから。」


「少し整理させていただきたい。」と、レストレード警部はジャケットの胸元から手帳を取り出して読み上げる。


「犯人は4階から窓を使ってこの部屋に侵入し、ローゼンベルク侯爵を殺害。

その後、北側の階段を下って地下通路を通過し、南側の階段を登ってこの部屋に戻ってくる。

そして呼び鈴を鳴らしたあと、部屋の中のどこかに身を隠した。

メイド長が遺体を発見した後、騒ぎに紛れて部屋に姿を現した。

犯人の行動を整理するとこのようになりますかな。」


カメリアはレストレード警部に「間違いありませんわ。」と答える。


「犯人はこの部屋の真下にある4階の部屋に出入りできた人物。

なおかつ外からこの部屋に入るところを誰にも見られていない、つまり遺体が発見された後最初に駆けつけた人物。

そして、探偵である私をこの城へ招いた人物ですわ。」


カメリアはその人物の前へ歩みでた。


「ユリウス様、あなたですわね。

あなたが私をここに招いたのは、謎を解かせるためでしょう。」


「カメリア様なら、きっと僕を見つけてくれると思っていました。」



ユリウスはオリーブの瞳を潤ませて微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ