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夜半の階梯 ―宵のハコブネ②―  作者: 朔蔵日ねこ
潜入

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50/60

潜入①

 ぬらりひょんはカフェで二人を待っていた。後頭部が極端に大きく特異な見た目だが、やはり気配を消して、誰にも見咎められることなく周囲に溶け込んでいる。浅葱鼠あさぎねずみの着物に鶯茶うぐいすちゃの羽織という古風で渋い出で立ちは、古民家風の奥ゆかしい雰囲気のカフェにむしろ馴染んでいるほどだ。

『おやおや、別嬪さんがお揃いで来なすったな』

 扇子を広げたぬらりひょんは、茶目っ気たっぷりに目を細める。木目のテーブルの上には、すでに抹茶と団子が置かれていた。

 京都駅からジェイアール奈良線に乗り換えて、宇治駅に到着したのは十時半ごろだった。平等院が近く、観光客で賑わう宇治駅周辺のカフェは、昼前でも満席だ。

『いちかは抹茶ラテとパフェで』

『瑞貴は?』

「あ……僕もお団子を……」

『ほう。声を聞けば、確かに瑞貴だな』

 ぬらりひょんが呵々と笑う傍ら、いちかが瑞貴の分のドリンクも追加して注文している。メイクのお陰で見た目は完全に女子だが、声までは変えられない。瑞貴は決まり悪そうに下を向いた。

『よかろう、よかろう。瑞貴は巫女姿も美しかったぞ。あやかしの目を欺くには十分だ』

 昨年の夏、寒月峰神社の納涼祭で瑞貴が巫女舞を舞ったのを、ぬらりひょんは知っている。もちろん、異性装が魔を除けるということも。

『いちかは変わらんな。守鶴しゅかく殿は息災か』

『はい。もう、悠々自適の隠居生活ですー』

『それは羨ましい』

 カフェは混みあって注文の品が来るまでに時間はかかったが、柔らかい暖色の照明の灯った店内は落ち着いて過ごせた。パフェと団子が運ばれてきたところで、三人は世間話から本題に移る。

『問題は、橋姫がどうやって妖怪を引き込んで操ってるのかってことね』

 いちかは早速、パフェの天辺てっぺんの生クリームを長いスプーンで掬いながら言った。

『土蜘蛛も山地乳も決して、自ら進んで橋姫に協力してるわけじゃないでしょうし』

 強くはないとはいえ、ブログであれほど呪いを雁字搦がんじがらめにしているということは、有志の集まりとは考えにくい。

「あれはみんな攫われてきた妖怪なんですか」

『橋姫が妖怪を訪問して、写真を撮って魂抜きするというのは、いちかが予想した通りだろう。土蜘蛛の親は、六匹いた子蜘蛛をすべて攫われたと言っておった。本来なら戦うこともできるだろうが、妖力を弱らされて抵抗できずに攫われたのだ』

 ぬらりひょんは言い終えると、最後の一つの団子を口の中に入れた。

『妖怪を攫ってくるところまではいいとして、その後、どうやって思うように動かしてるのかな』

「僕が戦った土蜘蛛や山地乳が傀儡妖怪だとしたら、本当に意思はまったく感じられなくて、機械仕掛けみたいだったんですよね……」

 瑞貴も、たれのかかった団子を食べながら首を捻った。メイクも崩せずドレスも汚せないので、食べるのにはなかなか気を遣う。スイーツを食べているいちかと瑞貴を孫でも見るようににこやかに眺めていたぬらりひょんは、ゆっくりと口を開く。

『わたしが見た傀儡妖怪もそうだったよ。以前、瑞貴にも言ったが、妖怪は人間の心に恐怖なり親愛なり、何らかの印象を残すことで活きている。印象を残すために、妖怪というのは皆、悪戯心や遊び心を持っているものだ。だが、彼らにはそれがまるで感じられなかった』

 ぬらりひょんは両手で大きな茶碗を持ち、手慣れた手つきで抹茶に口をつける。

『わたしが出会ったのは入内雀にゅうないすずめ魍魎もうりょうだったが、どちらも心ここにあらずで目が据わっていた』

 瑞貴は戦っている時にしか姿を見ていないので、土蜘蛛や山地乳がどんな瞳をしていたかは覚えていない。だが、ぬらりひょんの言わんとしていることはなんとなく理解した。

『奴らは催眠にかけられておるのだ』

「催眠……催眠術ってことですか」

 思いがけないぬらりひょんの言葉に瑞貴は驚いたが、いちかはアイスクリームを口に運びながら思案顔をしている。

『憑依型の動物妖怪……。そういうの、いたよね。なんだっけ?』

西京鼠さいきょうねずみだ』

 すかさずぬらりひょんが答える。西京鼠。瑞貴が聞いたことのない妖怪だ。隣でいちかが納得したように大きく頷いている。

『西京鼠は、管狐の一種でもある、憑きもの妖怪だよ』

「管狐?」

『そう。管狐や関東のオサキも人に憑くけど、三河の西京鼠は憑依の力が強くて、人を自在に操れるんだって』

 管狐と言われて、瑞貴はタカネとフウロのことを思い浮かべた。ぬくぬくと育って屈託ない彼らも、人に憑いたりするのだろうか。

『狐憑きというのがあるだろう。あの入内雀や魍魎は、狐に憑かれた人間と同じような顔をしておった。橋姫は攫ってきた妖怪の妖力を弱らせ、西京鼠を憑かせて操っておるのだろう。わたしは半年以上かけて京都の妖怪たちの異変を調べてきた。そして、ようやっとそこに辿りついたのだ』

 早くもいちかはパフェを食べ終えている。唇についたクリームをナプキンで上品に拭って、いちかはグレーの瞳をぬらりひょんに向ける。

『でも、確かめたわけじゃないんでしょう』

 それを聞いたぬらりひょんは、扇子を閉じてにっこりと微笑んだ。

『それをこれから、確かめに行こうというのだ』

「確かめにって、どこにですか?」

『橋姫のアジトだよ』

 きょとんとしている瑞貴を、ぬらりひょんといちかが見ている。ピンと来ていないのは瑞貴だけのようだ。

『鈍いのね、宝珠様は。橋姫のアジトといえば、決まってるじゃない』

「宇治川の宇治橋……」

 答えた瑞貴に、二人は満足げに頷いた。

※カクヨムでも同じ作品を掲載しています。カクヨムでは章ごと、なろうではパラグラフごとの掲載です。

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