陰陽師②
「ああっ」
「何っ⁉」
その場にいる全員が、大声を上げて天を仰いだ。投網にかかった髑髏が引き上げられていくのと同時に、天上に開いた穴からするすると降りてくる浮遊する女の姿。
『ほほ。漁夫の利とはほんに、このことどすなぁ』
聞き覚えのある、柔らかい関西訛りの女の声。
「「橋姫……」」
瑞貴と櫻子が、異口同音に呟いた。
「まさか……陰陽師二人に妖魔の三つ巴だと⁉」
大澤が地面にへたり込んだまま、目を瞠っている。
橋姫は丑の刻参りの白装束の鬼女の姿で、以前と同じ子熊ほどの大きさの土蜘蛛を従えている。髑髏を引き上げたのは土蜘蛛の吐いた蜘蛛の糸で、網目状の糸に西瓜のように包まれた髑髏を、橋姫が満足そうに眺めている。
『美しい外法頭だこと。鬼のされこうべということは、うちのミチヒコはんのご先祖様やろか。これを持ち帰ることは、当然の権利やわ』
「させるか!」
「待ちなさい!」
夏陽と櫻子は、同時に同じ妖魔調伏の慈救呪を唱え始める。瑞貴も宝珠に赤いオーラを溜めて、橋姫に狙いを定めた。
『せっかく外法頭を手に入れたのに、調伏されたらかなわんなぁ』
天上の高みで笑う橋姫に、瑞貴は赤いオーラを放ち、夏陽は持鈴を鳴らして陰摩羅鬼をけしかける。
『は。とうとうこれを試す時が来たんやね』
目を輝かせる橋姫の足元に、土蜘蛛に並んで小さな猿に似た妖怪が現れ、橋姫を護るように立ちはだかる。
『さぁ、山地乳、陰摩羅鬼の妖力を吸い取ったらええわ』
猿の姿をした山地乳が、人間の精気を吸い取る要領で、飛来した陰摩羅鬼の妖力を吸い上げる。宝珠が妖力を吸い取る時とまったく同じように陰摩羅鬼から青いオーラが立ち昇り、山地乳に吸われていく。瑞貴の放った赤いオーラがちょうどそこにぶつかり、オーラが混じり合って紫色に変化した。紫色のオーラが陰摩羅鬼を包むと、人面鳥の顔がにわかに小さくなり、唇から嘴が突き出てくる。
『あはは、大成功やわ』
橋姫は、京女らしからぬはしゃいだ笑い声を上げた。陰摩羅鬼は最早ただの黒い鷺のようになり、目的を見失ってひたすら天を飛び回る。
『そんなら、宝珠さん、またお会いしまひょね』
前回と同様に瑞貴に流し目をして、橋姫は鬼のされこうべを抱えて上機嫌のまま、上空に開いた穴に消えていく。
「くそっ」
「橋姫、覚えてなさい!」
夏陽と櫻子の怒声の中、逃げ足の速い橋姫の姿が見えなくなると、異層の空に開いた穴は跡形もなく閉じた。
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