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夜半の階梯 ―宵のハコブネ②―  作者: 朔蔵日ねこ
化け灯籠

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化け灯籠②

 その時、離れたところで木戸の開く音がした。石灯籠の向こう側に人の気配がする。複数人の足音が祠に近付いてくるようだった。

「こちらが、将孝社長がお作りになった祠でございます」

「あれ、瑞貴……えっ?」

 先導する人物に案内されてやって来たのは六花と蒼で、六花は瑞貴が祠にいるのを見て驚いて声を上げた。

「えっ⁉」

 遅れて瑞貴も声を上げる。六花と蒼を案内してきたのは、先ほど門口で二人を迎え入れた老婆だった。祠にいた瑞貴に声を掛けた老婆と、六花たちとともにやって来た老婆。背恰好も髪型も服装もまったく同じ老婆が二人いる。瑞貴はその二人を素早く見比べた。六花たちを案内してきた方の老婆は、着物の袷が間違っていない。

「どういうこと⁉」

 すぐに六花も気が付いて身構える。二人の老婆は互いに顔を見合わせてにやりと笑みを交わした。狡猾に笑ったその口が耳まで裂けて、上品に着ていた朽葉色の着物の裾がまくられ、細い脛が露わになる。

山姥やまうばだな」

 蒼が低い声で言って、懐に手を入れる。仕込んでいる懐剣をいつでも抜く構えだ。

 そこへ、祠の裏の森から枯れ木を揺らし、枝を折るような忙しない音がすごい勢いで近付いてくる。木々の枝にとまっていた鳥たちが一斉に飛び立った。

『主さま!そいつはやはり旧鼠です!』

 それぞれ別の方角から、タカネとフウロが大鼠を追って戻ってきた。追われる鼠も目にもとまらぬ速さで幹を駆け登り、枝を渡り、祠をめがけてまっしぐらに進んでくる。

『祠に入る前に捕えます!』

 二匹の白い鼠は祠の後方と右側の高い木から最後の枝を踏み切ると、まるでムササビのように宙を舞い、祠に取りつくと、破れた護符の貼られた扉側へと回り込む。追ってきたタカネとフウロがそれを追い詰めようとした時、瓜二つの二人の山姥が、その見た目からは想像できないような俊敏さで祠に飛びつき、各々の手でタカネとフウロの尻尾をむんずと摑んだ。二匹は犬のようにキャンと鳴き、山姥の手からぶらりと逆さまにぶら下がる。その隙に、大鼠は吸い込まれるように祠の中へと消えていった。

「タカネ!フウロ!」

 瑞貴は咄嗟に右手の手袋を外し、掌を上に向けて赤いオーラの珠を創り出す。髪を振り乱し、すっかり山姥の様相に変貌した二人の老婆は、いつの間にか大きな出刃包丁を握っており、それを大きく振り上げた。

 蒼の刀より速く、瑞貴の赤いオーラが放たれた。オーラは山姥たちが振りかざした包丁に向かって飛んでいく。瞬間、山姥が嗤う。瑞貴が放った赤いオーラは、包丁を逸れて閉じている祠の扉に命中した。木でできた祠の中で、ガラスが割れるような音がした。祠の扉が観音開きに開き、中から硯箱ほどの大きさの箱がまろび出て、雪の地面に落下する。壊れた箱からは、バラバラに砕けた鏡の破片に混じって、ざらりとした灰色の石の塊が出てきた。と同時に箱の中から強烈な光が迸る。

「何なの⁉」

 六花はバッグから護符を取り出して握りしめ、蒼は懐に手を入れたままだ。山姥が手を離したので、タカネとフウロは地面に着地し、一目散に瑞貴の元へと走ってくる。箱から発せられる強い光に、二人の山姥と、そして、祠の入り口に立っていた一対の石灯籠が風に乗るように吸い寄せられていく。大きな笑い声が聞こえた気がした。箱から出てきた石の塊がつむじ風に巻き上げられた落ち葉のように舞い上がって石灯籠に吸い込まれ、欠けていた火袋が元通りになる。すると、光の中に、それぞれ一対だった山姥と鼠と石灯籠が一体ずつ浮かび上がった。

『ああ、これで、わたしらは自由だ!』

 光に包まれた山姥が、喜びに溢れた声で叫ぶ。白い大鼠の体はさらに三倍ほど大きくなって後ろ足で立ち上がり、石灯籠にも手足が生えている。元の姿を現した妖怪たちを見て、六花が呟く。

「旧鼠と化け灯籠……」

『助かったよ、宝珠。わたしらは志布井将孝の合わせ鏡に囚われて、使役されていたのさ』

「……っ。志布井社長の式神だったってこと……?」

 光の中、耳まで裂けた口を三日月のようにして笑う山姥を、六花が睨みつける。

『合わせ鏡を割ってくれた御礼にいいことを教えてやろう。志布井将孝は、術士の蠱毒に殺されたんだ。操られた()は大きな黒い鼠だったぞ』

『薄汚い呪われた鼠だ。我ら旧鼠とは似ても似つかん』 

 山姥の言葉を白い旧鼠が継いだ。光の中に漂いながら、山姥も頷いている。

『志布井は式を呼んで()と闘わせようとしたが、わたしらは()が放たれる前に生臭坊主の護符で祠に封じられていた。護符はなんとか破ったが、あやつは払子を投げてわたしらを祠に押しとどめた。わたしらが祠を出た時には、志布井はすでに死んでいた。式神は主が死ねば解放されるはずだが、あの生臭坊主のせいで、わたしらは合わせ鏡に囚われたままになってしまったのさ』

 解放された山姥は饒舌だった。皺だらけの顔は活力に溢れ、目は爛々と輝いている。

「術士って、いったい誰なんですか?」

 光の中にいる妖怪たちを見据えて、瑞貴は尋ねた。山姥は声を上げて笑う。

『ふふ。術士の名を明かすのは、報復が怖いからね。それにしても、男の嫉妬というのは、醜いものだよ』

ばばあ、我らは解き放たれたのだ。さぁ、くぞ』

 妖怪たちを包む光が弱まっていき、旧鼠が山姥を急かした。

「六花、鱗粉球を投げろ」

 蒼が六花に耳打ちし、六花はバッグからテニスボールほどのカプセルを出して空中に投げ上げた。カプセルは祠の上で弾け、銀色の粉が雪の上に舞う。

 山姥と旧鼠と化け灯籠は、三者三様の方向へと飛散していった。再び大きな三つの笑い声が、山の中に大きくこだました。

 光が消え、雪の上に壊れた箱が散らばっている。六花が屈んでそれを調べる。直方体の箱の、蓋と底に鏡が張られ、その間に化け灯籠の一部だった石塊が封じられていたようだ。

「化け灯籠って、物を二つに見せて人を惑わすって妖怪でしょう。化け灯籠の妖力と鏡魔法の鏡像の力を利用して、それぞれの妖怪を二体に増やして式神として使役してたってことね」

「ああ。志布井社長がその方面に傾倒しているというのは、本当だったようだな」

 鏡像だから、石灯籠の傷は左右対称で、山姥の着物の袷は逆になっていたのか。瑞貴も腑に落ちた。

 そこへ、蒼のスマホが鳴る。蒼が電話に出ている間、六花はバラバラになった箱の破片を拾い集め、祠を調べていた。瑞貴は管狐たちを竹筒に戻し、栓をする。間もなく、蒼は電話を切って、二人を振り返った。

「今日、この屋敷で調査に立ち会うはずだった志布井社長の親族が、車の追突事故で来られなくなったと、民保協に連絡があったそうだ」

 六花と瑞貴が不思議そうに顔を見合わせていると、蒼がシニカルな笑みを浮かべる。

「本部には、調査は完了して報告書を提出できますのでリスケは不要です、と答えておいた」

 瑞貴たちの正体も訪問の目的も、妖怪たちにはお見通しで、使役からの解放のために都合よく利用されたというわけか。瑞貴は右の掌に浮かび上がる宝珠の印に目を落として、苦笑を洩らした。

※カクヨムでも同じ作品を掲載しています。カクヨムでは章ごと、なろうではパラグラフごとの掲載です。

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